前世のルナが命を落としてまで救った少女・セイカ。その少女がこの世界に。聞けば弱っていた体をその時の事故で痛め、そのしばらく後に逝去。そして恩返しのためにルナを追ってきた。理解し合うためにルナは自分の境遇を語ろうとした。
だがセイカはルナが語り始める前から既に小刻みに震え、止めどもなく涙を流していた
「ごめんね、私、人の考えがこの能力で全て読めてしまう。あなたに何が有ったかも寝ている間に記憶から全部知ってしまった。
……あなたも大切な、そして最大の理解者の兄妹がいた事、自分の命をまるごと捧げても尽くせないと思ってたほど……あんなに……あんなに…………うう…………支えられて……それは大きな救いだった……」
呆然と耳をそばだてるルナ。ただ静かに涙を溢し出す。
「だからこそ、その恩に報いる事に全てを懸けていた。なのに眼の前でそれを奪われてしまった痛みと悲しみは……私だけが……いや、私だからこそ分かる……………」
セイカは震えながら刮目して言い放った。
「――――それは想像を絶するはず……………」
その最後の一言に頭と胸を同時に撃ち抜かれる。堪こらえきれる筈も無かった。
「セイ……カ……ちゃ……あああうう……ぐっ……ふああぁ……はぐうぅ……っく……」
セイカは再び咽むせび泣くルナをその胸に抱き、震える肩を優しく包んで囁く。
「辛かったんだね。私もそうなってもおかしくなかったのに最高の結末エンディングをあなたに貰えた。この恩をどう返したら……
僅かでもその隙間を埋めて大切な人の代わりに……ううん、どんなに尽くしてもきっとそれは無理。でもせめてあなたの理解者に、慰めになりたい……」
ただ春の日差しの様にどこ迄も穏やかな母性。無性に甘えたくなった。
「ありがとう……ありがとう……ありがとう……恋とかじゃない。本当の理解者に会えた……兄を失くしてからもう無理だと……
けどボクはもう、一人じゃないのかも知れない……セイカちゃん……ボクはキミをずっと大切にするよ……」
真に新たな人生が始まる、そんな想いを馳せる様に顔を上げる。
だがそこでふとある事を思い出すルナ。
「……ところで神官から両性は狙われるって聞いたのだけど……大丈夫?」
「今の所知ってるのは貴方だけ。
「もちろん!」
「じゃあ大丈夫じゃないかな……では、理解し合えた所で……誓いのキスを」
顔を近づけ見つめ合う二人。
今日初めて話したと思えぬ既知感と無限に湧き出す愛情。
そこへ何の気配も無しに突如二人の視界に映る大きな人影。
――――出くわしてはいけないもの。
身の丈2Mを越すアルビノのような白さの端正な顔立ちの巨人の出現。足音も無く只、忽然と。
大型の剣を背負い、明らかに戦士である事を体現している。
慌ててセイカを背にして立ちはだかるルナ。
「遂に見つけた……召喚者らの噂は本当だった。……お前は王の姫として暮らすのだ」
「あなたが神官の言っていた両性持ちの命を狙う……一体何者? なぜ私を?!」
「命は取らん。身柄を貰うだけ。ワレは地下世界最強種族・アンドロジャナスの戦士」
背に留めたヌンチャクに手を掛けるルナ。身を固くして息を止める。
コイツが噂の最強種族の残党! 確か見えない攻撃……
「お前が両性をねらう輩やからか! させるか!」
冷徹な目でチラと見る白い戦士。
「弱き地上の者など相手にもならん。これまでも何百と斬ったが5秒と戦えたヤツはいなかった。
それにお前、サイも魔力も赤子同然、興味すら持てん。抵抗はムダだ。では頂いていく」
「来るなぁっ!」
《ルナさん! 私はサイキック使い。極めて危ない予感!……今度は私が守る番》
サイに長けたセイカはその予知力を駆使して死を覚悟して体をはり、敵の瞬間移動での攻撃先に『危ない!』と飛び込み軌道を狂わせる。
〈サイキック瞬間移動〉は出現先で物体と重なると細胞結合、或いは核融合で死ぬ事もある。それを嫌って攻撃が狂う白い戦士。
ハッ……セイカちゃんっ!
ルナはその飛び込みが無ければ斬られていた事を悟るが、既にその剣撃はセイカを掠かすめ、その耳が切り落とされたのを目の当たりにした。
「はぐぅっ!」
「セイカ――――ッ!」
そのまま抱えられて連れ去られかける。
瞬時にテレパスでルナに伝意するセイカ。
《ルナさんっ、念をまとめて伝えますっ、大丈夫だから今は動かないでっ!》
「ィやめろ―――――っ!」
飛びかかると同時に呆然となるルナ。
気づけば大剣により胴部で上下真っ二つに切られていた。
――― 太刀筋なくいきなり剣が!
と即座に掌の光で自己接合して再び構える。
「ホウ!
「だったら万倍速っ!!」
―――――ドゴォォォォ―――――ン!!