……ま、でもこんなのどうせ夢だよね~、妙にリアルだけど! そうだ、夢なら思いきり楽しんじゃぉ!
「あの、ところでお名前は……?」
「あ、そうだった。ンフッ、申し遅れました。私、
「セイカちゃん……ステキな名前デスネ……じゃ、じゃあ、こんどデ、デートしてくれマスか? いや、もう夢なんだからいっそ、お、お嫁さんになってよ!」
「まあ、嬉しい! こちらこそぜひ。今からでもいいですよ……ぁ? ルナさん?!」
『ブッシャ――――ッ』
と鼻血を噴出し卒倒するルナをサッと受け止め甲斐甲斐しく膝枕と鼻血テッシュで介抱し出すセイカ。起こる筈の無い展開に急に真顔となるルナ。
「31連敗中のボクがそんなのイキナリ有り得ない! ねえ、やっぱこれ夢ですよね……」
フフフ、い~え現実ですよ、とニコやかに返されると、プ……と吹き出したルナは、
「え~だってここ、異世界デスよ~」
等と理屈も破綻した緊張感のない声と超緩み顔になる。
「クスッ、 でも現実です。そんなに私で喜んでくれるのならそのお嫁さんとしてキスして見ましょうか? 夢なら途中で覚めてしまうのでは?
私は徳と報奨倍率でサイが得意な転生者。何やら
その証拠に魔法のキスならぬ、サイキック
「はにゃぁ~……ふふ、ど~せ夢だからキスでもなんでもドーゾ」
その愛らしい顔が上から近づくと『栗色の巻毛』がルナの頬をくすぐる。
……あれ、ボク、たしか村長にその髪の人と出逢ってはいけないって予言を教わったような……。なんでダメなんだっけ?
え……と、あーも一何でもいいや。
だってこれは夢なんだし!
〔 もし出逢ったら―――
生死に関わる何か最悪な事になる
……最終手段を取らざるを得なくなる 〕
ルナへと近づくセイカの桜色の唇。だが瞳の奥には憂いを宿していた。このセイカも転生者として特殊能力を持つ。
……ルナさん……かわいそうな人。もういいんですよ。 さっきからそんなに自分を偽って生きなくても……
ご自由にとばかり許された唇をめがけ、その愛くるしい瞳と淡いピンクの頬が間近に迫る。
「はい。ならこのまま」
と、膝枕のまま優しいキス。同時に発動する超能力治癒サイ・ヒールで鼻血を治す
ルナはその感触に意識を委ねると、有り得ぬ高揚感に焦り始める。
―――ん? 何で途中でこの場面シーンが終わらない?
それにこの柔らかいリアルな感触と物凄い幸福感、頬をくすぐる髪から漂う芳しい花の香り……
ってまさか!……はうあぁぁ……
現実を受け止め切れず意識が遠のくルナ。
「あっ、ルナさん? お姫様は王子様のキスで目を醒ますものですよ!」
「ふあぁぁ~~……どっちが王子でどっちがお姫様で……もうわかられりるれろ……」
そのまま気を失ってしまうルナ。
**
3時間ほど経ち、なお膝枕のままに気付く。ガバっと起き上がり
「はっ、ゴメンッ、セイカちゃん……重かったでしょ?!」
「ううん、こんな可愛い寝顔ずうっと眺めていられる。私、とっても満たされたの」
呆気に取られ長い沈黙………。
そして度し難さに思わず泣き出してしまうルナ。
「そんな筈ない……ボクなんかそんな事が起こる筈なんて有り得ない……あうあぁぁ……」
優しく背中を包み込むセイカ。仄ほのかに桜色に染まる唇から優しく囁き続ける。
「でも、あり得たんですよ……」
「はぅ……っく……ボク……今迄ずっといやな事ばかりで……こんな事初めてで……そもそも恋愛なんてどうしたらいいか……」
「やっと本音を。……ごめんなさい、その元気さが『壊れた偽り』だって事、サイで分かっちゃうの。だから私はただ傍にいてあなたの癒やしになれたら。そんな存在になりたい」
「いいの? ……キミが望むなら、ボクもそうしたい……」
「そう言って下さるのなら、今度はちゃんとルナさんから誓いのキスを……そしたら私の人生はあなたに捧げます。ずっと幸せに。 だってあなたはそうなるべき人です」
「う……でも……こんな腐り続けたボクでも良いのか……きっとふさわしくない……」
「……まだあなたが納得いかないなら……出来ることなら何でもします」
「じゃあ、ボクの事、話すよ。それで分かり合えたなら……一緒に。
……そう、ボクは以前――――」
その半生。ヒドイ家庭に育ち壮絶な虐待の日々。そのせいで対人恐怖症、心因性失声症に。やがて声は戻れど吃音きつおんに。
それが元で学校でも虐め抜かれた苦しみ。それでも兄がいて、如何なる時も支え、あの約束と共に守りきってくれた。
それだけが希望であり、そしてそれが全てだった。
だがそれを奪った事故。阻止できた筈がしくじった自分……
身を挺され、後を追う事も許されず正気を失ってさ迷い続けた。
やがて兄の背中から学んだ事を思い出して再出発した新たな人生。
恩返し代わりに成長を……と、ようやく立ち上がったものの、その矢先に道半ばにして転生―――
だがセイカはルナが語り始める前から既に小刻みに震え、止めどもなく涙を流していた。