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第6話 この出逢い……大切にしたいな……





 合気術の少女と出会ってから数日後、裏路地で如何にもイジメにっている子を見かけたルナ。


 直ちに駆け寄って一喝すると遠くから同時にハモる声。その主の方を見るとあのこき色が目に飛び込む。


 赤袴姿の流火るかだ。


 虐めっ子はそそくさと逃げてしまった。はにかみながらルナは、


「また会えたね……。あの……物足りなければボクとちょっとイイコトしてかない?」


 頬をホンノリ赤らめると流火るかは、


「ホント?! ステキ! 誘ってくれるの? 私なんかで良ければめくるめく熱い一時を!」



 無論、即立会い。



 その技の応酬は常人には何が起こっているかすら見切れぬ流れる様な連続技。底無しに沸き立つ征服欲は武道家としてか恋のそれか本人らも知れず。


 一瞬も気を抜けぬせめぎ合い。


 だが遂にルナは関節を巻き込まれてしまう。見えない速さの正にこの人を神童たらしめる流火るか十八番おはこ、四方投げ。



 極まったかの様に見えたが……



 宙に浮くルナは巻かれるより速く自ら全身をひねって回避し、同時に放つ反撃の後ろ廻し蹴りが流火るかのコメカミに。


 ファシュッ……


 紙一重の屈み避けダッキングかわ流火るかの頭をかすめ、カチューシャを飛ばされ一瞬で花開く様に美しく舞う長い髪。


 勝敗つかず延々と続いて、そのうち同時に


「ねえ!―――――」


 動きを止め笑顔で向き合う。心地良い汗が二人のこめかみを伝い息を弾ませながら、


「今日はこの辺にしよっか。ボク、とても楽しかった。また手合わせして貰えるかな」


「えっ!…… うんっ、もちろん。あ、あの……でもあなたの事よく知らないから、ちょっと話して行かない?」



 ベンチを求め、近くの大公園へと移る二人。



 街の大きな交差点の角、絵画のような春の光に包まれた花と緑のいこいの広場。

 まるで付き合い始めた恋人の様に木陰のベンチを譲り合って座った。



「私は天ノ川流火あまのがわ・るかって言うの。今、高1。代々続いてる天ノ川流合気術を親の開く道場で幼少の頃から英才教育受けて来て、師範の資格もあるの」



 え、ボクと同い年なんだ~! こ、これはまたとないチャンスかぁ?……



「元々周囲から神童と呼ばれて習得する程さらに強くなって……欲が出た親に『異種格闘技で世界制覇だ!』 なんて将来の金ヅル目的で地獄の特訓。ズット敵無し……だった」


 ナルホド~、並じゃないと思った。にしてもこのルカって子……あの美技につい目がいっちゃっうけど見れば見る程メッチャカワイイし~。


 ああ……カノジョにしたい~!


 ルナの迷走。


 その幼少期からの虐待、イジメ、そして事故以降の闇落ち。その人格形成もままならぬ半生ゆえの未熟さと壊れっぷり、そして破綻気味の恋愛観は奔走する。 


 そう、こんな時、必ずだらしないヨダレ混じりのデレ顔となるルナ。嬉そうに続ける流火るか


「でも空しすぎてすきを見つけて抜け出しては人助け、趣味はボランティアに参加とか。 それ以外で楽しいって思った事、これが初めてかも。

 だからさっき次のオファーしてくれた事、実は泣く程嬉しかったんだ。だって……今まで友達も居なかったから……」


「え……そ、そう?……」


 そっか……思えばボクも友達でさえ初めてなんだな。クスッ、ホントはカノジョにしたいけどいっつも焦って失敗するし、ここは慎重に。


 この出逢い……大切にしたいな……



「ところでルナさんは何でこんな事やってるの? 公園で見たあなたは虫も殺さない程の優しい人だった。

 でも悪者へはコテンパン……

 ごめんね、ストーカーみたいで。ちょっと前に公園で見かけてから気になってずっと見てたの」


「え ?! ハズイ……。ま、自分もライフワークなだけ。ボク自身ズット虐待とかイジメられてたから見てられなくてつい。

 それにそうする事が正しいって背中で教えてくれた人がいて……」


 ……とか言って、それもあるけど本当は……

 そうでもしてないとボクは……


 息を詰まらせらす様に伏し目がちになるルナ。


 流火るかはその一瞬を見逃さずに、


 ――ン……合気を極めた私には分かる。 微妙な所作、そして得意な第六感で。


 この子見た目は溌剌はつらつとしてるけど何か引きずってる。 それもとても傷だらけ、みたいな。でも手を差し伸べる隙なんて与えてくれなさそう……


 そっとしてあげたいけど気になる……

 だって自分は辛そうなのに人の為に頑張って……


 だったらこういう子にこそ何かしてあげたい!


 このルナって人……

 多分、ホントは弱いのに、なまじ武術が凄いから強がって。でも支えを必要としてる……そんなカンジ。


 もし私がこの子の支えになれたら。でも心を開いて貰うにはまず共感が大事。この子には、そう、コレだ!


「私もね、この合気術で役に立ちたくて人を助ける様になって、段々それが生き甲斐に……

 そもそも弱い者虐めなんて卑劣よ! そう言うの見過ごせないの。ルナさんと同じ」


「ううん、ボクもそうだけどキミは虐げられて来た訳でも無いのに人の気持ちが分かって行動もするなんて、ホント優しいんだね。

 なんか尊敬しちゃうよ。自分もそんな風に純粋に人助けしないと。昔を思うとついムキにこの空手でやっつけちゃって」


「いえ! あなたこそ立派だわ! 被害者から立ち上がって救う側になんて、普通そこまで出来ない。

 私はただ強制で武道やらされてたから感謝されるのが嬉しいだけ。あなたの方が偉いわ」


 そう言ってかき上げた髪を耳にかけ、優しげな大きな瞳を細めてルナに微笑みかける。


 息を飲んで唖然とするルナ。






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