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第5話 合気の神童VS空手の天才少女





 これまた人助けを趣味とする天ノ川流合気術の神童師範。流火るか


 そんな流火るかだが毎日ボヤき続けている。


 ああ今日も憂鬱だ。見た目と心が一致しないのがトランスジェンダー。でも私は見た目も心も女の子。平らな胸と足の付け根にあるソレを除いて。


 そう、性別的に男でかつ無敵。これでイケメンで女子にモテるとかなら一般男子なら満足だろうけど、私はこの見た目が気に入ってる。


 このままを受け入れてくれる可愛い女子こそ理想だけどそんな人いない。


 そして今、チカンから助けてあげた非常に私好みの子が迷ってる。




「あの……流火るかさん、私、助けてもらって……気に入ってくれて……嬉しかった。 でも自分より可愛い男子と付き合うなんて屈辱……受けたい女子なんていないから! ごめんね~っ!」



 あうぅ! またか……はぁー……



 何処かにこんな私でも良いって言ってくれる、この護身術で護ってあげたくなる様な人居ないかなぁ……。


 そうだ! あの公園に行ってみよう。



 あの凛々しくて可愛い子、今日も来てるかな……

 って……ちょっと私、ストーカーっぽいかな……



 とそこへ妙な老婆がやって来て話しかけてきた。かなり腰の曲がった姿。顔の皺の多さが不気味さを助長している。



「そこのコ、アンタ、死相が出てるよ。気をつけなされ」



 え……何このおばあさん。ボケてる?



「もし近い内、その境遇を理解してもらえる様な事が有ったらその時こそ危ない。今は誰にも心を開かぬ事じゃ」


「そんな……ヒドイ! でもそんなの嘘。 だってどうせ理解なんてされっこないし」


「信じるかは自由。じゃが警告はしたゾ」


 余りの唐突さとその内容。去り行く老婆をただ呆然と見る流火るかだった。



 * * *



 いつもの黄昏公園。ルナのお助け活動の帰り道。



 ルーティンで立ち寄ると、取り囲まれて酷くやられている少年が白目をむき、口から泡を吹いている。


 それでも蹴り続ける暴漢達の姿。

 それを目にしたルナは逆上し、


「ヤメロ―――ッ」


 取り巻く四人に襲いかかり全員蹴り倒すと更に執拗に殴り続ける。



「どうだ、やられる側の気持ちはっ!

 これでもっ、まだっ、こんな風にっ、

 されたんだぞ!」



 既に血まみれでヘタッている四人。

 だが、怒りが収まらず殴り続けるルナ。



「―――それ以上はダメだよ」



 そう言ってルナの振り上げた拳を合気術でいなす赤袴の美少女(風の男子)――流火るかである。



「ちょっと! 邪魔しないで! だってコイツラはサイテーな奴らなんだっ!」


 だが声の主に目を合わせるルナに衝撃が走る。余りに見た目がドンピシャで好みだった。


 異様に目立つその赤袴にルナの病気『可愛いもの好き』がロックオン。


 ……か、か! カワイイ――ッ!

 何? この人は巫女さん ?!



「あなたは正しいけどこれじゃ犯罪になっちゃう! あなたが困る所を見たくないの」


「いや、でもコイツら懲らしめとかないと!」


 と流火るかを振り払おうとしたがその瞬間、



 フワリッ!



 合気技で投げられる。何とか宙で翻し着地。

 その隙に逃げようとするやから達へ即座に再攻撃のルナ。


 ちょっ……


 しかし流火るかに立ち塞がられ、その手もいなされ思う様に出来ず。


 え……このボクが振り切れない?


 と、その妨害を払おうと躍起になってゆくルナ。 

 徐々にエスカレートし、そして直ぐに分かった。相手の底知れぬ実力があるのを。

 やがて手合てあい以外の選択肢など全く感じず勝手に体が動き出す。


 そう、敵対でも何でもなく、純粋に己の武術力に対するプライドを懸けた競り合いに。



 ――― 初の二人の激突が始まる。



 本気で向き合う二人。


 ルナはフェイントをおり混ぜた秒に7、8発もの正拳突きと廻し蹴りで振り払おうと放つが通用せず驚愕する。


……ボクの複合コンビネ連打ーションが! それどころかいなしながら関節をめに来る! スゴイ!


――やっぱこれは……合気 ! ……


 惹かれ合う二人の技の応酬。繰り出す手数は更に増すがその全てがいなされるルナ。


 くっ! これでもまだ ?! とばかり苛立いらだつ。


 一方、流火るかも流れるようにさばきながら合気の当て身、投げ、固め技へ持ち込めずあせる。

 師範のプライドにかけて強引に攻めるもめ切れず、『こんなの初めて』と驚く。


 しかも可憐な女子の息もつかせぬ空手技に舌を巻く流火るかは、


 なんて豪胆かつしなやかな空手! そして攻めよりも更に速い引き戻し! 何より双方の次の動きが既に想定されている!

 ……神童と言われた私の技が全々極まらない?!


 いつまでも決定打はならず。


 とそこヘ杖をついた老婆が前も良く見ずヨタヨタやって来て、すぐ近くでつまづいたではないか。


 速攻で闘いを放り出し地面スレスレで受け止める二人。



「おっとっと~、ヒヒヒ……あんた達イイ子だねぇ。忠告、しっかり覚えてるかい? んじゃ、ア~リガ~トネ~……」




 去りゆく老婆を見送る二人。二人はその老婆に見覚えを感じると、『あの死の予言』をした者だ、と思い出す。だが視線を感じ、互いへと目を移す。


 加害者の男達と少年も既に消えていた。微かに笑みを浮かべ向き合う二人。


「ねえ、ありがとう。よくボクを止めてくれたね……あのままじゃヤバかったかも」


「だって……こんなに可愛い人が捕まったらやだもん。にしてもその空手……素晴らしい……

 私は流火るか。合気術をずっと学んで来たの。でも本気で決めきれなかったの初めて」


「ボクはルナ。ボクの打撃が全ていなされるなんてもう感動。それに……分かる。キミの強さからは優しくてスゴクいい人、それも感じた。いつかまた手合わせしたいね」


 うなず流火るか。目が離れず胸が苦しくなる程熱くなる。だが二人は互いに武道家。語るのは言葉ではなかった。

 少し興奮気味に、しかし満足気に、その日はそこを後にした。
















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