目次
ブックマーク
応援する
4
コメント
シェア
通報
第4話 失った理解者を求めて





 それは一瞬の出来事。


 飛び込んだ刹那、六人同時に卒倒。やられて初めて攻撃されていたと分かる不可視のヌンチャクの猛襲に頭から血を噴き出して倒れていた。


 残った四人は踏み込むブラフだけで恐れて逃げ出した。



「ただコレ、金属製で重いから当たるとマジ頭蓋骨骨折するわ大出血するわで無慈悲なんだよねー


……出来れば使わせないでね。じゃぁね~っ!」


 ドクドク流れ出る血の海をヒョイと乗り越えてく元気印風の空手美少女。



 でもちょっとやり過ぎ? 神様への腹いせっぽかった? いや、人助けの延長! あっちが悪い。

 にしてもこの天才の名を欲しいままにしたボクを満足させる奴はいないのか?! 手応えないね~!


 で、もう一つ手応え無いのがそう、



 ボクの恋愛事情だぁ――っ。



 今日も助けた可愛い子に精一杯の勇気を振り絞り、声をかける。あの妙な老婆にカノジョを作れと言われたのも気になっていた。



「ホントにありがとうございます。何かお礼出来ることがあれば……」



「じゃあ、その……ガールフレンド……っていうか、例えばカノジョとして付き合ってくれるって言うのは、どうカナ……」



「……え ?!」



 美少女ルナに交際を申し込まれる ?!


 感謝の笑顔が怪訝けげんそうな顔に固まって行き、言葉に詰まる女の子。




「え……と、てゆうか、あなたスッゴク強いですけどメチャ可愛いですよね。……やっぱり……女の子……ですよね?……単にフレンドでもいいですか?」


「でも強いから守ってあげられるよ、だからカノジョとかの方で……ダメ……かな?」


 さりげなく友達から始める、とかも出来ずこんな言い寄り方、ビビられるに決まってるが工夫も出来ない不器用ポンコツぶり。


「ごめんなさい……あ、でもお友達なら……え、待って~」


 真っ赤な顔をうつむき気味に隠し、ソソクサと走ってその場から逃げ出すルナ。




 これで遂に30回目だーっ! あーん、やっぱこんなヤツ誰も理解なんてしてくれないよー!

……確かにボクは同性愛者じゃない。けど自分も相手も可愛いくないと!

 だって可愛い事こそ正義! 可愛い子じゃなきゃダメなんだ~!


「だれかこんなボクに救いの手を――っ! 」


 そう言って街を駆け抜けるルナは心中で呟く。



 ……そう、ボクは日々さ迷ってる。 

 失った理解者を求めて。だから分かってる。

 多分恋人が欲しい訳じゃない。

 でも、訳あって可愛い子を求めてしまう……

 可愛い子、可愛い子、カワイイ子っ!


「おっとぉ……!」



 走り去る道すがら、道路に飛び出す小さな子供を事故寸前で制止。


「いい子にするんだよ」


 と優しく声をかけて走り抜けるルナ。

 声高に礼を言う母親にニコやかに挙手。


 いつもの場末の公園に逃げ込むと、夕日に向かい黄昏たそがれる。


 それを物陰からじっと見つめる美しき袴姿の人影。




 ねえ、お兄ちゃん……。

 今日もちょっと良い事出来たよ。これで褒めて貰えますか? 恩返し出来てますか?

 あの星空からちゃんと見ててくれてますか? ……


 もう守られてばかりの女の子じゃない。

 弱い者イジメなんか絶対に許さないんだから!


 木陰にそっと手を伸ばすルナ。

 蜘蛛の巣に捕まった蝶を優しく解き放つ。 


「ほら、もう捕まるんじゃないよ」

 と、愛らしく柔らかな表情で見送った。



「ああ、にしてもまたフラれた~……」



 でもメゲてちゃダメ、もっと守れる強い人にならなきゃ。お兄ちゃんみたいに強い男の人の様に……


 ケド可愛さも捨てちゃダメだよね……。



「はぁ――っ……」



 ため息と共に、また頑張るか~、と空を見上げるルナだった。





  ***





 とあるヒト気の少ない街路。


 白と朱赤のはかま姿の美少女の姿。

 ムサい男子から言い寄られ困っていた。



 真っ白な肌、子鹿の様に優しげで黒目勝ちな瞳を伏し目にしてはかなげに見える。


 少し下がった眉がそれを助長し気弱な従順さを想像させる。誰が見ても綺麗な巫女などを思わせる。



「なあいいだろ、俺と付き合おうぜ~(けどムネがネェなぁ~。ま、可愛いからいっか)」


 美少女の微かな嘆息たんそく―――




 私は身をまもるプロにして天才。

 天ノ川流合気術の師範。流火るか・高1。


 ただ、神童とすら呼ばれるこの才能を無駄使いさせるこの世が虚しい。

 こんなに素晴らしい技術を持っていても、それを使う『価値あるもの』に出逢った試しがない。


 イジメられてる人や襲われてる人を探して助けたりする事がせめてもの慰め。


 コイツもサッサと片付けて、また人助けにでも行こう……




 男は妙に馴れ馴れしく肩に手を回そうとしたがその瞬間、体が宙にフワリ……



 ドスン。


「イッテ――ッ……何だよっお前、つよっ?! これ合気道? まさか男?」


「そう、私は男。つまりトランスジェンダー(性別越境者)。私は女の子になりたいの。だけど女の子が好き。……だからキミに用は無いから」


 先程まで気弱な姿はたおやかさを伴った凛々《りり》しさに変わって去ってゆく。






コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?