<プロローグ>
紅蓮に染まる灼熱の世界の中、その少女は人智を超えたスピードで壮絶に戦っていた。
人々の未来を懸けて、最高の
数時間に及んだ闘いにケリを付けるべく、残りの力を振り絞る。
その敵の不可視の移動と攻撃。それを捉えるべく、感覚を
全てが数万分の一のスローモーションのよう。
だが、万倍速でも捉えきれぬ瞬間移動。
その逆に、
祈る様な姿勢で背後から感覚加力する
超絶スキルが流れ込みチャンスを探る。
スゴイ! この敵ですら次第に動きが掴めてくる……この一手に全てをかける!
……お兄ちゃん、どうか見守ってて下さい!
《ねえ、お願い! キミの全部の力を貸してっ!! 》
求められたその美しき
《任せて! その光速級の攻撃力に私の超知覚読心と予知力が加われば無敵なハズッ!》
《今だっ!!》
《いっけぇ―――――っっ! 》
その放たれた究極の一閃。 そして確かな手応え。
見事な的中と敵の散る姿。
その瞬間、脳内で二人の歓喜の念が衝突し、花火の様に炸裂した。
《やった――――――っ!!》
だがその想いは天国から地獄へ。
完全に予想外の眩い閃光。
空間を歪める程のエネルギー。
それは敵の撃破により巻き起こった巨大爆発。
《え?!……そんなっ ?! 今すぐ逃げてっ !! 》
テレパスで懸命に乞い願うも無視され、その愛しき
《裏切り者―――っ》
そう全力でなじったが聞く耳を持たず満足気に抱えられた。庇い返そうにも自分の体は体力尽きて動かない。迫りくる爆圧と死の覚悟。そして絶望。
ああ、また一番大切なものを守れない……。
この悔いだけはもう二度と受けたくなかったのに。
失意の中、巨大なエネルギーに二人して呑まれてゆく。
バラバラになる間際、冥土へと移りゆく意識の中で光の塊が飛び込んで来て自分と
その一瞬、光の中に垣間見えた幻影。
えっ !! お兄ちゃん?!
今度こそ迎えに来てくれたの?
もうお兄ちゃんの所へ行ってもいいの?……
刹那、消え行く微かな意識と共に全てが真っ白な光の中に溶けていった――――
* * *
新緑を楽しむ様な小鳥のさえずりが聴こえる。
ん? 鳥?……死後の世界?……
揺れる春の木漏れ日に
愛らしく整った小顔の頬に伝う雫。
それをあご先から手の甲へ落としてぼんやり見つめた。
――― 夢か……
あれ? 涙……泣いてた?
『……やっぱりボクは……壊れてる……』
にしてもすっごくヘンな世界だったな。
妙にリアルだったし。
それにあのラストシーン……。
机上の少女は完全に夢から覚めて涙を拭う。そして兄が小学校の工作で作ったペン立てを見つめながらボヤく。
「でも、仕方無いよね。お兄ちゃん……。
この
―――助けないで欲しかった。
ボクなんて助けないで欲しかった……
……どうしてボクが生き残ってしまったんだ……
アクリル製のペン立てには月と星のマークが彫刻されていた。それを愛しそうになぞりながら、
……ボクは
そう、ずっと……。
高1になった今でも、あなたを忘れた日なんか一日だってない……
ボクの命より大切だった人……。
この少女、ルナは中学時代の大半を引きこもりに費やし闇落ちしていた。
……ボクが弱い女の子じゃなければ、お兄ちゃんを守ってあげれたのに……
ルナはその弱さを自分が女子であるせいにしていた。自分を事故から守った兄の中に強き『
とは言え女子である事を完全否定するのもはばかられた。か弱き存在だったからこそ、兄は心底大切にしてくれたのだから。
そう、『可愛い妹』のままで居たい想いと、『強い漢』に成りたいとの矛盾にいつも振り回されていた。
そんなルナが遂に一年近く前に一大決心。
――― 失った人生を取り戻すために。