第一部☆アレク
第二章☆クラウド13歳
「お母さん、行ってきます」
騎士の見習いとして、少年は旅立とうとしていた。
母親はこの日が来るのをわかっていたのに、どうしても別れづらい気持ちを押し殺し、ぎこちない笑顔で見送った。
城では、第11ドラゴン騎士団までが勢揃いで、登城してくる少年らを出迎えた。
「僕1人じゃないんだ」
同じ歳の頃の少年が合わせて11人。各騎士団に1人づつ配属される。
何か、示し合わせたように式典が執り行われる。クラウドは不思議だった。
「どうして、同じ日にみんな集まったんだ?」
あらかじめ告知されていたのなら合点がいくのだが、クラウドはたまたま今日を選んだ。
荘厳な宮殿にドラゴン騎士団がずらりと並んで、少年たちを値踏みするように見ている。
青竜がずい、とクラウドに迫った。
「や、やあ」
おっかなびっくりでそっと手を伸ばす。不思議と怖いという気持ちは湧かなかった。
「ようこそ。俺はアレク。このドラゴンはアレハンドラ。君に祝福のしるしを与えたもの」
「アレハンドラ……。お前のせいで、僕は家業のパン屋を継げなくなったぞ」
とん、とアレハンドラの胸を叩く。
ぎゃーす。
アレハンドラが鳴いた。
「君は俺の後継者として精進しなくちゃならん。ドラゴン騎士団随一の強い騎士になれ」
アレクは無茶を承知で言った。
クラウドは、アレクの額のうっすらと浮かんだしるしを見て、小さくため息をついた。
他の少年たちを見回すと、彼らには祝福のしるしはない。どうしたことか?
「君は特別な存在なんだよ」
アレクが微笑んで言った。
「なんてこったい」
クラウドは先行き不安だった。
せめてこのしるしさえなければ、騎士団に入団するのを断って自由になれるのに。
クラウドは、きっ、とアレハンドラを睨んだ。
アレクは、良い少年を選んだとばかりに、クラウドをひょいと担ぎ上げ、一緒にアレハンドラの背中に跨った。
「え?なに?ちょっと待て!」
アレハンドラはあっという間に城の上空まで舞い上がった。
遅ればせながら、他の少年を乗せたドラゴンたちも飛び立って、城の周囲を旋回し始めた。
「いい風だろ?アレハンドラはどんなドラゴンより高く、速く飛ぶぞ!」
アレクがクラウドに囁いた。
少年は空を飛ぶことがいっぺんで気に入ってしまった。