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王族の依頼

先生から渡された手紙に書かれていたのは俺たちへの警告だった。

なぜ先生が?それにジュダストロの秘密とは?

あえてこの紙を渡してきたということは俺たちと直接その話をするつもりはないということだろう。きっと話を持ちかけてもはぐらかされるに違いない。

「なぁ……ストストのことなんだが」

朝、教室にいた吉野に問いかける。

「どうかしたの?」

「何か探る方法はないかな?」

「んー……それに関してはまだどうにもできないんじゃないかなぁ……。ひとまずはユーリィのお手伝いをしていけば何かがわかるかもしれない」

「そうか……じゃああいつの手伝いをする理由がひとつ増えたわけだ」

「ん、そうだね。これなら天太もどーこー言わないよね」

「いやまぁ言うけどな」

「今日はユーリくんはどうしてるかな?」

ひょっこりと武志が顔を出す。

「お、武志」

「君たちがそんな深い事情を持っていることも知らずに、僕は遊び気分だった。ユーリくんには全面的に協力させてもらうよ」

真剣な面持ちで決意を表明してみせる。

「あー……そんなに気張らなくてもいいよ。打つ手だってないわけだし」

「ユーリくんを1人にしてはおけないだろう……!常に気を配ってやるべきだ!」

「そうだよ!」

武志に同調するように優梨の声が響く。

「おわっ……聞いてたのか優梨」

「んーとね、今日は依頼が入ってるよ」

「おっ!本当かね!?」

「うん!2人組!」

「どうする?誰かパーティに入ってやるか?」

「その2人組の職種をきこうか!」

「えっとね……王子と姫だって」

「は?」

「おいおい……それって職業というよりかは……」

武志が頭を抱えた。

「どうするんだよ。それってなんていうか……観光的な要素を持った護衛任務ってことだろ?」

「いやいや、王子と姫も立派に戦うよ。ただ、なれる人が限られた職業ってだけだね」

「そうなのか」

「この王子さまの持ってるレイピアは硬い筋繊維や鎧の隙間を突くから動物や鎧を着た敵に大きなダメージを与えられるんだよ!」

吉野が詳しく説明してくれた。

「流石まいちゃん……王子さまについても知っているの?」

「もちろん。でもなれるプレイヤーが限られてるってことからまだ見たことはなかったけどね」

「でもこのお姫様は流石に戦えないだろ……」

「なんとそっちのお姫様はペガサスに乗っているのだ!まぁそれ以外はよくわかんないんだけど」

そんなのまでいんのかよ……。

「ペガサス……もしかして槍を使う?」

心当たりがありそうに吉野が言う。

「え!これも知ってるの!?」

「そのお姫様も強いと思う。特に魔法に強いよ。でも弓とか風魔法には注意した方がいいかも……」

「もうお前だけでいいんじゃないか……?」

「そんなことないよ!まーくんもいてこそじゃん!」

「とはいえ最初らへんからこいつが1番よくわかってるんだよな……」

「えへへ……」

吉野は嬉しそうに頭をかく。

「ま……まぁまぁ!人が多い方が情報も出やすいしー!」

「そ、そうだぞ天太クン!」

2人して俺を励まそうとしてるらしい……。別にほんとに勉強させてくれていいんだけど……。

「まあそれでいいか。で?王子様とお姫様にはどういうパーティでいく?」

「それなら……蛍ちゃんに行ってもらおう!」

吉野が手を叩いて提案する。

「え?もう始めたの?」

「うん。お昼休みに一緒にやろうって言ってあるからその時に依頼をやろうよ」

「わかった!そうしよう!」

「おいおい、大丈夫なのか?始めたばかりで王族の依頼なんて……」

「あ、大丈夫大丈夫。ダンジョン探索においてはそういった地位や財産の一切は責任を請け負わないから!」

「そうなのか……まぁそういう決まりがあるなら大丈夫か」

「うん!安心していいよ!」

「じゃあお昼にまた集まろう」

「はーい!」



そして早々にお昼。

「お待たせしたかしら?」

別のクラスから蛍が来た。

「いや、悪いな。来てもらって」

「蛍ちゃん!こっち座って!」

吉野が隣にあった椅子を叩く。

「お邪魔します」

ただの教室の椅子なのにやけにお行儀よく座る。

「あ……僕の席は……?」

武志が困惑気味に問う。

「武志くんは………」

「さて、始めようか」

蛍の言葉を遮って吉野がゲームを開始する。

「まだ話の途中ッ!」

武志は慌てて別の椅子を持ってきた。

「えーと、蛍はどういったキャラになったんだ?」

「私は学者ね」

「なんか蛍ちゃんらしい!」

「キャラの名前は?」

「……タルタル・ピーカ……」

やや恥ずかしそうに蛍が名乗る。

「……ぷっ」

俺は思わず吹き出してしまった。

「誰っ!?笑ったのは!」

顔を赤くして蛍が上ずった声を上げた。

「いや……なんか蛍らしからぬ名前だなと」

「なんか……ピンときたのよ。これ以外は考えられなかった……」

「あっちの子とリンクしたって感じだろうね」

どうやらその仮説は本当らしい。蛍が自分でも恥ずかしがるような名前をつけることは有力な証明素材になる。

「でも僕はフルネームまでは入れてないぞ」

「多分蛍ちゃんは既にあっちの世界の話を聴いていたから、強く惹かれたのかも……」

「なるほど……」

「それで?ピーカちゃん?今度の依頼やってみる?」

武志が軽い口調で言う。

「なんかムカつくわね」

蛍が露骨に舌打ちした……。

「じゃあまいはルピーちゃんって呼ぶね」

「あ、その方がいいわね」

吉野に呼ばれて蛍はにっこり笑った。

「じゃあルピーには早速優梨を手伝ってもらおうか」

「ユーリィ!」

「はいは~い!」

「はやいなほんと……」

「決まったみたいだね!今回は蛍ちゃんが手伝ってくれるんだ!」

「よろしくお願いします」

蛍は受話器に向かって頭を下げる。

「そっちでの名前はルピーだ。よろしく頼む」

「こちらこそだよ!じゃあ早速2人を待機させるね!」

「さて今回のダンジョンは?」

「海賊退治だって」

「ダンジョン……だよな?」

海賊ってことは海があるのか?

「そうだよ!海賊系の敵が多いんだとか!」

「サーベルにピストル……武器メインの戦闘が予想できるわね……」

「あと海賊は基本的に水魔法に強いからそこは注意!」

てかそれもう人じゃない?

「わかったわ」

「じゃあ早速きてね」

ユーリは回線を切り替えたようだ。

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