「おはよう」
登校中、吉野を見かけたので声をかける。
「んあ~……おはよ……ねむいね……寝てもいい?」
相変わらずの寝惚け顔でふらふらと歩いている。
「いいわけないだろ……」
「背中を出してごらん?」
「出さないっての!」
「お、2人とも奇遇だね。どれ、僕が背を貸そう」
武志がやってきて吉野に背中を差し出す。
「しーん」
しかし吉野は微動だにしない。
「はッ!?」
「昨日はなんか……ごめんな。よく考えたらわかった。俺って、自分のことばっかりだったんだろな」
全員揃ったところで俺は昨日の自分の非礼を詫びる。
「へぇ。天太、自分でわかるんだぁ~」
「全く、気づくのが遅いね……」
武志がやれやれと言うようにため息をつく。
「いや……正直お前にだけは言われたくはないんだがな……」
何食わぬ顔をしているが。
「とにかく、他人に対する思いやりを持つことにしたから!……こんなこと言うのも恥ずいけどな」
「んーん、やっぱり言ってくれたのは嬉しいな」
「はっは。友達、だからな」
そう言って2人はにっと笑う。
「……ありがとう」
「こちらこそ!ありがとうっ!」
「ありがとう!」
登校中にも関わらず感謝し合うってのは客観的に見たら結構ヤバイよな……。そう思うと急に恥ずかしくなってきた。
「……朝から何話してるんだって感じだよな。よし!行くか!」
「おーう!」
そう言って吉野は俺の背に飛び乗った。
「あれ?歩く気なし?」
若干張り付くような武志の視線を感じながら登校し、なんとか教室までたどり着いた。
「はぁ……はぁ……お前軽いのはいいけど長時間はやっぱきついわ……」
息を切らしながら吉野を降ろす。
「僕がかわったものを……」
「武志くんには乗らないけどね」
「ぐぬ……」
「さて、じゃあ仲良しなお前らには朝の仕事を任せていいか?」
「え?」
気がつくと先生が近くに立っていた。
「え~?なんでなんで~?」
「いやなに、少し1人で持っていくには大変な量の提出物があってだな。良かったら手伝ってくれんか?」
そう言って先生は持っていたプリントやノートの束を押し付けてきた。
「言っておきますけどぉ、まいに任せるなら往復した方が……」
「や、やりまーす!」
「うん、よろしい」
先生の顔に笑顔のまま殺気が滲み出たのを感じ取った俺は吉野の言葉を遮って承った。
「ふえぇ……なんでこんな重いものを持っていかなきゃならないの?」
「いや、お前……嘘だろ……?」
吉野が持っているのはプリント10枚だ……。
「俺たちはノート全員分を3種類……持ってるんだぞ?」
要するに32人のノート×3で96枚のノートだ。
「それにだね吉野くん……君が持っていない残り22人分のプリントはきちんと僕らが分配して持っているのだよ……?」
「えへ」
「なんの笑いだ……」
「ごめんねの笑い」
「なんだそりゃ……」
「まいね……重いものを持てないの……あれはまいがまだ小さかった頃の話なんだけどね……みんなのお弁当を持つのを任されてたまいは、段差でつまづいて全部こぼしちゃったの……。あの時のみんなの顔を思い出すと怖くなっちゃって……」
吉野は遠い目をしながら切なそうに語り出す。
「そんな事情があったなんて……わかった吉野くん、そのままでいい」
武志はすっかり絆されたようにそう言う。
「いや……多分嘘だぞ……」
「そんなわけないじゃないか!」
「……えへ」
「今のは?」
「バレちゃったの笑い」
そうしてようやく俺たちは教室から2階降りた職員室の前に着いた。
「あら、おはよう」
そこでまた……あの蛍に出会ってしまった。
こいつはまた俺に無視されると思いつつも平然とした顔で挨拶をしてくる。
「お……おはよう」
しかし今日は、改めた考えを嘘にしないためにも俺はこの憎むべき女にさえ挨拶を返すことにした。
「……許して欲しいと思える行動ではなかったと思っているわ。でも、いつかこんな日が来るのだと思ってもいた。あなたが許してくれる日。それが今日だったなんて……」
いきなり語り出した蛍の瞳から一筋の涙が零れたのを見たが、彼女はすぐにそれを隠してしまった。
「……ごめんなさい。別に……許してくれた、なんて言うつもりもなかったわ。気まぐれよね……挨拶だけして一刻も早く去りたいわよね……私は消えるわ」
「待てよ」
そう言ってそそくさと離れようとした蛍を、無意識に引き止めていた。
「……なにかしら?」
「確かに俺はお前とは絶対に関わりたくなかった。もう許してやらないと思ってた。……でもお前のことを考えてはいなかった。あの時のお前と今のお前が違うことはわかっていたのにな。だから、一言だけ言ってやってくれ。そうしたら許してやれる気がする」
俺の言葉を聞いて蛍は目を伏せる。
「……そう。やはり許してもらえないのね……伝えるべき言葉は、もう届きませんものね……」
「いいや、届く」
俺は携帯電話でユーリと通話を開始した。
「え?なになに?」
「ちょっと……この声……」
蛍の顔が途端に青ざめる。
「そうだ。藍原 優梨。お前にとっては数日の顔見知りだろうが……俺にとっては親友だった」
「いや……そうじゃなくて……だって……」
口をぱくぱくとしながらスマホを指さす。
「あぁ、その声……蛍ちゃん?だよね?ごめんね、まだあんまり声も覚えていないうちに……その……私……」
「無理もないよな。俺も驚いた。でもこいつは確かにその電話の先に生きている。こことは違う世界でな」
「か……からかってるの……?」
蛍は信じきれない様子で冷や汗をかいている。
「信じられないと思うけど、本当なんだ」
「えっと、2人とも何を言ってるんだね?」
武志も事情を知らないから困惑している。
「あ、武志くんはとりあえずいいよ」
「くっ……」
めんどくさいからね……。
「あの、優梨さん?」
「は~い」
「私、3年前、あなたに不謹慎なことを言って、彼を傷つけたわ……でも今はそんなこと思ってない……本当に反省してるわ。許してくれる……?」
蛍は深刻な顔つきで縋るように優梨に語りかける。
「ん~、許すも何も……私は私が死んじゃったことすら記憶にないから、その後のことなんてなおさらわかんないんだよねぇ。でも天太を傷つけたのは……めっ!だよ!」
「ごめんなさい……」
「でもでもっ!その様子じゃ大丈夫そうね!これからは天太と仲良くね!天太もね!」
「あぁ。俺もようやく胸のモヤモヤが取れた気がする」
「よかった……私……あれから本当に後悔していたの。入学間もなくだからバカにされないようにって気を張ってて……そうしてあんなことを……」
そんな事情があったのか……高校デビューしたかったってことだろうが……あのキャラはムリがあったな。
「もういいさ。2年間一方的に恨んでたから、お前も深く苦しんでいたことに気づけなかったんだ。……俺ももう少し早く気づくべきだった。すまない」
そして俺も頭を下げる。
「あ……あなたが謝ることないじゃない……」
また蛍は泣き出してしまった。
「なんか複雑なことがあったんだね……」
そう言って吉野は背伸びしながら蛍の頭を撫でていた。
「俺が意地を張ってたんだ。それだけだ」
「天太くん……」
「お前ももう気にするな。ユーリは生きてるから尚更だ」
「うん……」
蛍はこくりとうなずく。
「あのー……僕にもそろそろ教えてもらっていいですかね?」
除け者にしていた武志が焦れったそうに顔を出す。
「あ、そうだった」
「武志、聞いて驚くなよ?」
「な……なんだね?」
「ストストの世界はこの世界と繋がっているんだ」
「は?」
武志は呆れたような顔をする。
「あの……優梨さんのお話だったわよね?」
「そうだ。ユーリがいる世界に優梨は死んでから転生したんだ」
「ん……ん?なに?」
「つまり現実で死んだ優梨が世界を超えてユーリの肉体に入ったんだ」
「えっと……天太クン。ゲームと現実は違うんだ。一緒にしてはいけないよ」
まぁ当然の反応だがこいつに言われるとやっぱちょっと腹立つな……。
「まあ……信じられないよな。でもな、お前のアバターのジヴルも生きているんだ 」
「あ……あぁ……そうかそうか。そうだったんだなぁ。ははは」
「はははは」
「ふぅ……それで?優梨くんは別の高校の子かね?」
ひとしきり笑ったあとで武志はまた別の切り口で優梨のことを聞き出そうとしてきた。
「いや信じてないな!」
「当たり前じゃないか!ゲームだぞ?人の作ったものじゃないか」
どうにも武志は信じきれないらしい。無理もないが……。
「人が作ったものじゃないとしたら?」
「……え?」
唐突に吉野が意味深なことを言い出した。
「お前……何か知っているのか?」
「何も知らないけど、もしそうだとしたらって可能性はいくらかあるんじゃない?」
「流石吉野君!君がそういうのならそうかもしれない!」
武志は手のひらを返すかのように意見をねじ曲げる。
「こいつ……」
「でも確かにその声は優梨さんのものだわ……」
「あれからずっと憶えていたのか?」
「……忘れられなかったわ……私、ひどいこと言ったから……」
そう言ってまた蛍はしゅんと肩を落とす。
「あー……もういいからさ。もう悩まないで」
「ごめんなさい……」
「そうそう。私も気にしてないからさ。枕元に立ってなんかいないよ?」
「やっぱりあれは思い込みだったのね……」
「立たれてたんだ!」
「そうだ、蛍。お前もしかして結構勉強してるタイプじゃないか?」
ふと思いついたので俺は蛍に勉強の話題を切り出す。
「どちらかと言えばそうかもしれないけれど……」
「ま……まさか天太……」
吉野が若干の動揺を見せる。
「勉強に付き合ってくれないか?」
「え?いいの?」
「なんか、ばからしくなってな。今までお前を避けていたことが。お互いにもっと歩み寄れるはずだったんだ俺たちは」
蛍はあのバカな素行をすぐに止め真面目路線に切り替えたことも実は知っている。とはいえ周りの目は変わらず孤立した文学少女になり図書室にこもりきりになってしまっていたのだが……それ故にこいつがどれだけ自責と後悔の念を持ち合わせているのかも本当はわかっていたのだ。
「あの~、じゃあ僕たちも~……」
武志と吉野がそーっと手を挙げる。
「お前らは邪魔しかしないだろ?」
どさくさに紛れて同行しようとした武志をばっさり斬り捨てる。
「そうかもしれないねぇ」
「じゃあいても……なぁ?」
やんわりと断りを入れようとしたところで、蛍が妙なことを口走る。
「あら、吉野さんがいてくれたら捗りそうよ」
「え?なんでだよ」
「わからない問題をいちいち先生に訊きに行く必要がなくなるからよ」
「はは。違いない」
なかなか攻めた皮肉を言うものだな。
「……信じてないだろうな」
「……あのね、蛍ちゃん……成績のことは天太にはナイショにして欲しいんだけど……」
「どうして?誇るべきことよ?」
「……なんか……嫌なの。見る目が変わっちゃいそうで……」
「そういうことならわかったわ。協力しましょう」
「ありがとう蛍ちゃん!」
気づくと吉野が蛍の背中に飛び乗っている。
「お前らも仲良くなったんだ」
「うんー!蛍ちゃん良い子みたいだから!」
さっき言われたのは皮肉……だったんだよな?
「じゃあこの3人で勉強会がんばろうな」
「ナチュラルに省かれている…ッ!?」
武志が愕然とする。
「なんてな、ここまできてお前を除け者にはしないよ。お前も勉強しようぜ、武志」
そう言って武志と肩を組む。
「あ……天太君!」
「じゃあ……真の除け者は私ってわけだ」
携帯電話から拗ねた感じの声が届いた。
やや盛り上がりつつあった場がしんと静まり返る。
「あ……優梨は……」
「いいなぁみんな楽しそうだなぁ~」
ちょっとおどけた風に言い直したが、本気で寂しがっているに違いない。
何しろ俺たちの騒がしい声だけが聴こえるんだ……そこに参加することもできず優梨はひとりで受話器を握りしめているんだ。
「ユーリィ、またお仕事一緒にやろうよう!」
吉野が優梨に声をかける。
「ありがとうまいちゃん!でも……私……」
「なぁに?」
「……邪魔……だよね?」
震える声で優梨は吉野に問う。
「そんなわけないでしょー!!」
吉野はアホみたいにデカい声で叫ぶ。
「ユーリィがいなかったらこんな風にみんなで集まってないよ!ユーリィがいなかったら天太はね、もっと冷たくて蛍ちゃんとも仲直りできてないよ!まいだってね、ユーリィを助けられるってきいたからもっとストストやるってなったんだから!だぁからぁ!!ユーリィがいなきゃだめなんだって!」
その勢いのまま吉野はまくし立てるように続ける。
「うぐ……でも、そもそも私が依頼しなかったらゲームさせて時間使わせることもなかったし……」
「ううん、違うよ。みんなさせられてるなんて思ってない。まいだってユーリィの気持ち考えたら絶対助けたいし。それってさ、世界が違うなんてこと関係ないじゃん?友達が困ってるのに助けない理由、ある?」
「とも……だち……」
「そうでしょ?」
「……うん!」
優梨は鼻をすすりながら元気よく返事する。
「あ、そうだ!蛍ちゃんも一緒にやろうよ!」
吉野は今度は蛍にも声をかける。
「なに?」
「ストスト!」
「さっき言ってた……優梨さんがいる世界と繋がったゲームね……」
理解が早くて助かる。
「なんとユーリィはこの世界で冒険者を助ける仕事をしているのだ!」
「そうなのか優梨君!」
「そうなんだよ!」
調子よく優梨が返事する。
「だからまいたちがその冒険者のプレイを手伝えばユーリィは助かるってワケ」
「もしかしてこの間のNPCってのは……」
「そう!この世界の住人だったのです!」
「通りで話し方がそれっぽかったわけだ……アイランさん」
「いや、お前もな……」
「優梨さんの助けになるというのなら私もやらせてもらいたいわ」
蛍は快く承諾した。
「やったぁ!決まりだね!」
吉野が跳ねて喜ぶ。
「あ~でもお前ら、ちゃんと勉強もだからな」
「わかってるよ~!」
わかってなさそうなんだもん……。
「よろしくねみんな!今度は顔を見合わせて話せるようにしておくから……」
「楽しみ~!頑張ってねユーリィ!」
「……!うんっ!」
「あー……優梨」
やや照れくさいが俺もこいつに伝えておきたいことがあった。
「なぁに?」
「……俺も、お前の顔を見て話したい」
「まーくん……!」
「頑張れよ」
「うん!」
「そうそう、それだよそれ!」
吉野が俺の脇腹を小突いてきた。
「茶化すな……」
「えへへ。でも嬉しいな。まーくん友だちたくさん増えたね」
「みんなお前とも友だちだ」
「もちろん!」
「僕もいいのかい?」
武志がずいと近寄ってくる。
「てめーはだめだ」
「ぐあぁッ!」
俺が一蹴すると武志は床に崩れ落ちた。
「冗談だ」
「ははは。そうだろうそうだろう」
次の瞬間にはもういつものようにキメ顔で笑っていた。どういう情緒だよ……。
「じゃあユーリィ!早速お仕事みんなで行こうよ!」
「嬉しいんだけど……今日はまだ依頼人がいないの。ごめんね……」
「それじゃあ仕方ないね……」
……ていうか今先生のおつかいの最中だからな……?
「まあいつでも呼んでくれたまえよ。天太君の親友というのならば文句は一切ないよ」
「うわぁ、武志くんありがとう!」
「んじゃ、とりあえず昼にまたな。職員室の近くでこんな固まってるわけにいかんし、そろそろ先生に声かけてこないと」
「あ、そうだった」
やっぱ忘れてたよこいつ……。
「じゃあね、ユーリィ」
「はーい」
通信は切れた。
「蛍ちゃんももしよかったらお昼一緒にどう?」
もうそろそろ職員室に入ろうというところで吉野がにこにこしながら蛍を昼食に誘い出した。
「え……いいの?」
「どうなの?天太?」
吉野が一拍遅れて俺に確認をとる。
「……んー。いいよ」
「いいの?私なんか……」
蛍は申し訳なさそうに指を突合せている。
「俺も悪いと思ってるんだ。こいつと仲良しになったんならその方がいいだろう。……まぁ別に俺の席で集まる必要もないんだが……」
「まいはストストもやらなきゃだから必要あるの~!」
そう言って吉野は頬を膨らませる。
「はいはい」
「じゃあまた後でね。よろしく、天太君」
「はいよ」
手を振る蛍と別れて3人で職員室に入った。
「遅かったな」
運搬を終えた報告をするために職員室に入ると既に先生が待ち構えていた。
結構長話してたからな……。
「先生のおかげでまいたちおともだちができました!」
……それわざわざ言う必要ある?
「ん?ふぅん、よかったな」
先生も椅子に座ったまま目も合わせずに適当に流す。
「うん!」
「じゃあお前らには褒美をやる」
「ええっ!なになに!?」
褒美という言葉に吉野が目を輝かせる。
「ほら」
そう言って先生が俺たちに差し出したのは、ひとつの箱だった。長方形で白く柄もないシンプルな箱。
「なんですか?」
「ま、開けりゃわかるよ」
そう言うとそれを俺たちに押し付け先生は去っていった。
「な……なにこれ……」
期待したより随分適当なものが出てきたので吉野は呆然としている。
「雑用の報酬なんだ。大したもんじゃないだろう」
「宝箱を開ける時ってのはいつだって興奮するものさ……!」
武志はむしろやけに嬉しそうにその箱を見つめている。
「じゃあ武志、開けていいぞ」
せっかくなので微妙なものだったら逃げられるようにさせてもらう。
「あ、なんか離れすぎじゃないかな?」
「天太の考えもわかるよ……。でもまあ大丈夫なんじゃない?」
「ではなんで君は離れた天太君のさらに後ろにいるのかね……」
吉野は俺のさらに後ろにくっついている。
「いちおうってやつ」
「まあいい。開けるよ」
「ごくり……」
武志が箱を開けた。
「な……なんだねこれは……ッ!」
いつも変な反応するからこいつの反応はわかりづらい。でも爆発するようなものじゃなかったようなので俺と吉野は近づいてみる。
「なんだなんだ?」
武志の開けた箱を覗き込むと……。
「え?紙?」
箱の中に入っていたのは1枚の手紙だった。
「あの先生がなんでこんな回りくどいことを……」
「いたずらじゃない?やりそうだよ」
「まあ中を見てみようじゃないか」
「それもそうか」
俺はその手紙を手に取り開いた。
『警告 ジュダストロの秘密に触れるな』
ただ1文、それだけが書いてあった。
「……は?」
「なに……これ」
「やっぱりいたずらじゃないか。しかしあの先生にしてはやけに子供だましだな」
いたずら……なのだろうか?警告と書いている以上は何かしらを止めさせるような強い圧を感じるが……。
「っていうか……ジュダストロってなんだ?」
「天太、どうもこれは遊びじゃ済まなくなりそうだよ……」
吉野がいつになく真剣な顔で呟いた。
「え?」
「何か知っているのかね?」
「ユーリィのいる世界……まいたちのゲームの世界。それがジュダストロなんだよ」
唐突にジュダストロとやらとゲームの世界を関連付け断言する。
「な……何を根拠に……」
「ストスト……何の略か知ってる?」
俺の質問に答えずにいきなり吉野が訊いてくる。
「あぁ、ド忘れしてそのままだったな。タイトルなんて気にしないから……」
「じゃあわかんなくて当然かも……だってストストは……ジュダストロ・ストーリーの略だから」
「ジュダストロ・ストーリー?それが何の……あ……」
「ジュダストロと、そう言ったんだね?ということは……」
手紙に書いてあった名前と一致する。つまり吉野の言う通り同一の世界だということか。
……しかしほんとこいつはよく覚えてるな。
「そう。こんな警告をしてくるくらいだから、もしかすると危ないことなのかも……」
吉野は心配そうに呟く。
「いやさ……でも、そうだったとしても、俺は気にしないぜ」
「どうして?」
「優梨がいる世界だからな。俺はもうあいつを1人にしない。約束……しちまったしな」
「天太……わかった!まいも続ける!」
俺に呼応するように吉野は拳を握りしめる。
「君たちが続けるというのなら僕もそうしない訳にはいかないな」
武志もそれに続き髪をかきあげる。
頼もしい仲間たちだな。
警告……というのは少し気になるが俺たちはストストを続けることを選んだ。
やがてその選択が、俺たちの日常を大きく変えていくことをこの時の俺たちは知るはずもなかった。