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友達の条件

「いやあ、なかなかいい冒険でしたなぁ」

戦いを終えてようやく一呼吸つく。

まぁボスとの戦いは避けられたからあまり苦戦とはいかなかったわけだが。

「しかしボス戦にあんな攻略法があったとは知らなかったな。吉野くん、君はやはり面白いな」

「えへへ~」

吉野は嬉しそうにぽりぽりと頭をかく。

「しかしアサシンも便利だな。ほんとに敵に気づかれないんだな」

「ソロだときついんだ。かといってマルチでも手数が多いわけじゃないから文句言われることもあるよ」

「長所短所あるからなぁ」

「そういえばまいがもらったリボンってどんなのだろ」

「あぁ、確かに気になるな」

「えぇと……これかな。ドラジェのリボン。あ、これ名前からしてユニーク装備だねぇ!」

吉野が驚いた声を上げる。ユニーク装備はプレイヤー全員が手にできるものではないらしい。あんまり仕様を知らなかった訳だがこの世界が実在する世界ならばドラジェのように意志を持った敵からひとつしかもらいない唯一無二のもの、ということだろうか。

「それ、めちゃくちゃレアなんじゃないか?」

「効果はね。風属性無効。さらに風の攻撃倍増」

「属性こそ限られているがめちゃくちゃ強いじゃないか……。特に吉野は風の攻撃使うから相性もいいし」

「ありがとう……ドラジェちゃん……!」

吉野はスマホを抱きしめてそう言う。

「これ装備枠は頭か?」

「うん。そうだね。防御力も高いね」

「どのくらい?」

「戦士系しか付けられない兜よりも高いよ」

「頼もしすぎるな」

「謎の多いゲームだよなぁ。入手法とかが決まってないから攻略班も機能してないらしいぞ」

このゲームの正体を知らない武志は難しそうに唸る。

「確かに謎が多いね……」

「何か知ってるのかい?」

「いやぁ?」

「しかし優梨はほんとに連絡してこなかったな」

「さっきからそのユーリってのはなんだい?」

「あぁ、俺の……幼なじみだよ」

「依頼だ何だってのは?」

「えーと……パーティ作ってもらうみたいな……そのだな……」

「……何か腑に落ちないがまあいいか」

なんとか誤魔化しきれたか。

「おっと、そろそろお昼が終わっちゃう!」

気がつけばもう昼休みは終わりが近づいていた。

「あ!まだ昼飯食べてないわ!」

「あ、大丈夫。食べといたから」

吉野が当たり前みたいに言う。

「何も大丈夫じゃねぇよ!処理することが目的じゃないんだぞ?」

その言葉通り俺の弁当箱の中身はすっかり消えていた。

「どれ、天太くん。僕の昼食を分けてあげよう」

武志が弁当箱を俺の方に向け蓋を開けた。

「……おい。お前はこの弁当の中だったら何がうまいと思うんだ?」

「何を言うか。メインで固めた素晴らしい弁当だろう?」

「あー、多分それでだ」

「は?」

「メインはことごとくまいちゃんのものってコト」

「吉野くん、何を言ってるのかな……?」

「見ろ、お前の弁当だ」

弁当箱の中を見た武志の目が見開かれた。

「……からっぽじゃないか……!」

武志はあんぐりと口を開けて驚いている。

「……不運だったな……お互いに……」

「ごちそうさまでした」

吉野が達観した様子で手を合わせた。

「というかほんとにいつの間に食べたんだよ……」

「アサシンにも負けないよ~」

吉野はふんすと鼻息を吹かした。

「それに関しては勝てる気がしないなぁ……」

「仕方ない。今日は飯抜きでいくしかない」

「大丈夫?」

「……誰のせいだ」

「じゃあ……はい、これ」

吉野が箸で何かを掴んで武志に渡す。

「お?吉野くん、結局とってあるのかい?」

「たまねぎ。にがて」

「……」

「……」



今日の授業が終わった。

「さて、帰るか」

帰りのホームルームが終わり俺はカバンを手に取り席を立った。

「ん?あれは……」

吉野と武志が話しているようだった。

「だからだね……もし良ければ一緒に帰らないか?」

どうやら武志が吉野を口説いているようだな……。声をかけるのは少し待つとしよう。

「うーん、まいはねぇ……その……あんまり良くないかなぁ……」

「そ……そうか……わかった……すまない」

武志は吉野に断られがっくりと肩を落とした。

「あ、えっとその……武志くんが嫌とかそういうんじゃないの……ただまいは……」

「いや、いい。今日君たち2人と遊んでわかったよ。……僕はやっぱりいない方がいい。楽しかったよ。でも僕は君たち2人に避けられてるのがよくわかった」

フォローした吉野の言葉を遮るように武志はそう言う。空気が読めないだけかと思ったがやはり本人にも自覚はあったようだ。

「それは否定しないけど……そうじゃないの」

……否定してやれよ……。

「まいね、放課後まではいっぱいいっぱいみんなと仲良くするけどね、そのあとは、ちょっとだけひとりになりたいんだ。家に着くまでの間だけ。この時間だけはまいだけのもの。だから、別に一緒に帰るのが嫌なわけじゃないよ?」

吉野は上目遣いで武志を見据えると申し訳なさそうにそう言った。

「なるほど、そういう事情があったんだな」

俺は頃合だと思ってそう言いながら会話に参加しようとした。

「あ、天太。帰ろー」

俺を見つけた吉野はすぐさま顔を上げ下校を誘ってきた。

「は?」

「ん?」

「え?」

吉野はとぼけたような顔をしている。

「……今お前何の話してたの?」

「えっと、言い訳をしてたの」

「………僕は、失礼するよ……」

あまりに辛辣な態度を直撃せられた武志はとぼとぼと教室を出ようとした。

「おい待てって。……今のはあんまりだと思うぞ吉野」

武志を引き止め吉野を咎めた。

少なくとも武志にも人の心はある。気に食わなかったとはいえこんな風に扱ってやるのも少しかわいそうだ。

「ごめんなさい……」

素直に謝罪して見せるがやはりその顔は納得いっていなさそうだ。

「まあなぁ、わからなくもないぞ?武志。お前のアプローチの仕方は少し良くない。上から目線だしな。喋り方はまぁいいとしても自分勝手でしつこいと引かれるのは当たり前だ」

「ぐ……返す言葉もないよ」

武志は苦い顔をする。

「吉野が今日嫌がってたのも気づいてなかったのか?」

「……ほんとは気づいてたさ。でも、やっと話せたんだ。僕は2年間、ずっと話せなかったから。それなのに……それなのに天太くんッ!君はどうだね!はじめて同じクラスになったくせにやけに吉野くんと親しいじゃないか!」

いきなり自分語りを始めたと思ったら急に武志は感情的になってしまった……。

「いや、俺は別に……」

「正直、妬ましい!」

今にも泣きそうな顔をして渾身の叫び声を上げた。

「正直だね……」

「それってぇ、まいとともだちになりたいってこと?」

それを聞いた吉野は何かに気づいたように武志に問いかける。

「そうだ!いや、そうです!是非とも!」

「にへっ。それならいいよ」

そしてようやく吉野は歯を見せて笑った。

「え?」

「嫌なんじゃなかったの?」

「だって武志くん、そんな感じじゃなかったんだもん」

もしかして吉野は好意には気づいてなくて厚かましくそこに居座られたと勘違いしていたのか……?

鈍感なやつだ……。

「まあ、そうだよな。上から目線じゃ対等な友達とは言えん」

友達というからにはお互いが認め合わなければいけない。ただ、それだけ。それだけが友達の条件なんだ。

「……すまない」

「また一緒にストストしようよ。武志くん」

「……よろしくお願いしますッ!」

ようやく吉野と通じ合えた武志は嬉しそうに深くお辞儀をした。

「よろしい~。じゃ、帰ろっか」

3人で学校を出た。新しい友達とはいえ少し癖の強い武志。根は悪いやつじゃないんだろうがいきすぎることがありそうだ。……また騒がしくなりそうだな……。

そういえば結局騒がしい奴からは連絡が来なかったな。……来なきゃ来ないで少し寂しいのはわがままか。何かあったわけじゃなければいいが……。

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