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応急の参入

「今回は洞窟か」

山間深くの小道の先にあった絶壁に、薄暗い洞窟がぽっかりと口を開けている。ここが今回のダンジョンらしい。

「いいでしょ。ダンジョンって感じ」

「身を隠す場所は十分にあるようだな」

その時、ゲーム内のインフォメーションサウンドが鳴り響く。

「あれ、誰かパーティに入ろうとしてる」

洞窟の近くに人影が見える。どうやらその人物がパーティ参加申請を出してきたようなのだ。

「どうする?」

「まあ数は多い方がいいんじゃないか?」

「承認だ!」

『はじめまして、アイランと申します』

早速その人はチャットをしかけてきた。

『はじめまして!』

『よろしくお願いします!』

『はは、あまり畏まらんでくだされ』

渋い声で笑うその雰囲気にはどことなく威厳が漂っていた。

「ね、ねぇ……もしかしてこの人……」

「NPCかもしれないな……」

武志とは違って普通の人間はあまりゲーム内のロールプレイにこだわりがない。基本的にオンラインで出くわすボイスチャット勢力はキャラの見た目にこだわっても口調まで自キャラになりきる人間はそう多くない。

つまりこの人もこの世界で生きる者である可能性が高いということだ。便宜上NPCと呼ぶことにした。まぁプレイヤーはいないだけで意思はあるんだけど。

「ん?何を言ってるんだ?」

「ああ、まあ、うん」

『とりあえず自己紹介でもどうですかな?』

「なんかこの人面倒じゃないか?」

どの口が言うのか知らんが武志がアイランさんの口調に疑問を呈する。

「ほら、ネトゲにコミュニケーション求める人なんだよ。乗ってやろうぜ」

「そういうならいいが……」

『俺はユノス。ソーサラーだ。後衛の敵は任せてくれ』

俺が最初に自己紹介する。正直この中では1番レベルは低いのだが魔法を使えるので後衛にいれば敵に狙われにくく避けやすい。特にアイランさんのような戦士が盾になってくれればその隙に大きな魔法を出すこともできるのだ。

『マイマイはマイマイだよ!遊び人で場の撹乱が得意!』

またややこしい名乗りだがマイマイは先の戦闘でも見せたようなデバフの付与や属性攻撃に秀でる。遊び人の名に似合わず有効的な攻撃手段が多い強い味方だ。……まぁこいつがレベル上げまくってあるからスキル多いってのもあるんですけどね。

『僕はジヴル。アサシンさ。死角から強烈な一撃をくれてやる』

こいつは知らん。

『先程も名乗りましたが拙者はアイラン。戦士としてこの堅き身と鋭い剣で必ずやみなを護ってご覧に入れましょう』

最後に再びアイランさんが名乗り役割を明確にした。

『ふむ。皆の役割もはっきりしましたな。それでは参りましょうか』

アイランさんは先頭に立ち剣を構えるとノシノシと歩き始めた。

「なんかアイランさん信頼できそうだね」

「歴戦って感じするね」

「安心して前衛を任せられそうだな」

『むむ、早速敵が現れましたぞ!』

前方に3匹の大きな蝙蝠がいた。

蝙蝠たちはまだこちらにきづいていないようだ。

『よし、アイランさん、先制お願いします!』

『任せてくだされ!』

そう言うとアイランさんは大きな剣を抜き構えた。

『……』

構えたまま、アイランさんは動かない。

『……あれ?アイランさん?』

『……え、ちょっと、何やってんすか』

『そりゃあ!』

ザシュッ!

アイランさんが剣を振り下ろすと、蝙蝠のうち1匹がまっぷたつになった。

『おお!すごい威力!』

『いやでもなんか……気のせいかな』

『さあ来ますぞ!』

蝙蝠たちが襲いかかってきた。

『でいっ!』

『とりゃ!』

蝙蝠の突進に合わせて俺たちは剣を振る。

『ききっ!』

『よし、効いてる!』

蝙蝠が反撃を受け後退する。

『そこは逃げ場じゃないぞ!』

後退した蝙蝠のさらに背後から唐突にジヴルが現れた!

『喰らいなッ!』

隠し持ったナイフを逆手持ちにし、おどろきとまどう蝙蝠を切り裂いた。

『よし、あと1匹!』

『多分アイランさんがやってくれてるはず!』

『………あれ?』

アイランさんはまだ動いていない。

『ききっ!』

『ぬお!』

蝙蝠がアイランさんに襲いかかった。

『ふん、こんなもの痛くも痒くもないですぞ!』

アイランさんは蝙蝠に噛まれたがほとんどダメージを受けていないようだった。

『そりゃあ!』

そして遂に蝙蝠はアイランさんの斬撃を受け散った。

『あの~もしかしてアイランさん……』

『どうしたマイマイ?』

『めちゃくちゃ遅くないですか?』

『ほう、そこに気づくとは、なかなかやりますな』

ヒゲを撫でながら感心したように頷く。

『いや……重いなら脱いだ方がいいんじゃないですか?その鎧。ピンクだし……』

『いやいや、先程蝙蝠の攻撃を防いだ防御力を見てくだされ。……あと、色は関係ないでしょうッ!』

最もなことを言ったかと思ったら最後に怒鳴られた。

……色には触れない方がよかったか……。

『まあそういうことなら先制は任せないことにしますよ。硬さを活かしてもらいます』

『申し訳ない……』

不甲斐なさそうに肩を落とす。

……だってこの人だけターン制みたいに動くんだもん。重くて避けられないってこと?

『それにしてもどうしてユーリィは電話かけてこないのかな』

『今はいいだろ』

『むむ?ユーリどのの知り合いですかな?』

俺たちの会話を聞いたアイランさんが口を挟む。

『知っているんですか!?』

『最近話題の交信術師ですな。何しろ低レベルでもダンジョンをクリアできるとの噂でしてな。私もあやかりたいものです』

『へぇ、意外と頑張ってんじゃん』

『ただ、一かバチかみたいな面もあるらしく、日によって優秀さがかなり変わるのだとか……コンディション調整がまだうまくないのですかな』

『……俺がいる日がアタリってことだろうな……』

『もしよかったら紹介してあげよっか?』

マイマイが顧客の獲得へ向かう。

『ほう!それはありがたい!また次の機会にお願いさせてもらいます!』

『まいどあり~』

にししと笑いながらそう言う。……やり手だ。

『とりあえずここをぱぱっとクリアしちゃおうぜ』

『お~!』

『4人もいるんだ。すぐにクリアできるだろうさ』

『あ、忘れてた』

『失敬な!』

武志が姿を現してマイマイにツッコミを入れる。

『さて、それじゃあ進もう』

道中に散らばるアイテムを回収しながらダンジョンを進んだ。

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