目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
欲望の対価

ナビに回った優梨の指示を受けたのか、ナツがこちらに話しかけてきた。

『お待たせ!私も準備できたよ!』

『よーし、いこ~!』

ナツとマイマイはキャンプを離れダンジョンの中へ足を踏み入れた。

『今回のダンジョンは森林地帯がメインみたい。私が炎魔法で援護するよ』

『じゃあマイマイは踊るから!』

『えっと……こうげきしよ……?』

『大丈夫!』

何が大丈夫なんだろう……ナツも困惑の声を上げている。

『あ、前見て!モンスターがいるよ!』

ナツの声掛け通り、前方には手足のついた球根から髪の毛のように草が生えたモンスターがいた。

その球根には愛らしい顔がついており、毛髪を思わせる草も相まってマスコットのような見た目である。

しかし見た目はかわいかろうと相手は魔法生物。

その小動物のような口許からは牙を覗かせ、鞭のように靱やかな草髪も敵意を持って振り抜かれては無事では済まないだろう。

『ん~?あれは……アルクサだね』

マイマイがすぐにモンスターを識別する。

「なぁ、お前って実は頭良いだろ?」

「別に~」

『私の得意分野だね!先制攻撃は任せて!』

『おねがい!』

『ストレイト・ファイアっ!』

ナツがアルクサに向けてかざしたまじないワンドの先端から直線に炎の玉が飛んだ。その火球は見事にアルクサの草髪に当たり炎上させた。

『おーっ!すごい!』

『まだだよ!』

火球を受けたアルクサがこちらに視線を向ける。髪を燃やしながらもマイマイに向かって突進してくる。

『甘いよっ!』

マイマイは遊び人特有のゆらゆらとした身のこなしでアルクサの突進を避けた。

『そして、おまけをあげちゃうっ!』

突進を避けられがら空きになった球根の背中に小刀を突き刺した。アルクサはその勢いで地面に叩き伏せられしばらくじたばたと動いていたが炎上した髪から球根にも引火し、やがて動かなくなった。

『先制攻撃大成功っ!マイマイすごいね!』

『いやいや、ナツちゃんの炎のおかげだよぉ~』ナツが駆け寄ってきてマイマイとハイタッチした。

『この調子で進もう!』

『おー!』

2人は意気揚々と先へ続く道を歩いていった。



一本道をしばらく進むと開けた場所が見えた。

円形に草むらの広がるその空間の中央には木製の宝箱があった。

『あ、お宝だ!』

『うわ~い!』

「おい待て……」

二人は目前の宝箱を目指し広間に足を踏み入れた。その時、唐突にナツとマイマイはその足を動かせなくなった。

『あ……これ……なに?』

『これは罠だッ!』

地面から伸びた蔓が2人の足を絡め取ったのだ。

「気づくのが遅いぞ。あからさまに怪しかったからな……」

「夢中になっちゃいましたぁ」

吉野は頭を軽く叩きながら舌を出してみせた。

『いたた……マイマイ大丈夫?』

『大丈夫だよ。この蔓……ヴァインはこれ以上いたいことしないから。あ……でもあんまりゆっくりしてられないねぇ……』

動けなくなった獲物を狩りに来たかのように、周囲から多数のアルクサが集まってきた。

『アルクサの逆襲だ……!』

『動けない……どうしよう』

身軽なマイマイが身を捩り抜け出そうとするもヴァインは脱出を許さない。そうしている間にもアルクサがにじりよって来る。

『私が魔法でなんとかする!』

ナツが杖を天にかざした。

『スプレッド・ファイア!』

呪文を唱えたナツを中心とした周囲に燃え盛る炎が広がる。あたりを包囲していたアルクサは炎に包まれた。

『お~!これでもう慌てることはないね』

『あ……まずい……』

しかしその小気味よい逆転とは裏腹にナツが苦い声を上げる。

『え?』

『ヴァインに引火してる……』

『あ……』

2人を拘束していた蔓にアレクサの炎が引火してじわじわと炎が迫り来る。

『やばい……こんがり焼かれちゃうよ~!』

『ごめんなさーい!』

『あ、そうだ』

マイマイが思い出したかのように声を上げる。

『何か手があるの!?』

『シルフィード・ターン!』

マイマイは風を纏いながら身体を回転させその勢いのままナイフを振り回した。

その刃は不完全燃焼のアルクサを切り裂きその螺旋は足許に絡まったヴァインの蔦を引きちぎった。

『おお~っ!回転で蔓がちぎれた!』

『あっ風が……』

だが周囲を覆っていた炎がその風に煽られさらにその勢いを増す!

『うわぁ~!万事休すだよ~!』

『足が空いたから……いける!飛ぶよマイマイ!』

『ふえ?』

ナツはマイマイの身体をがっちりと掴むと杖を地面に向けた。

『ストレイト・ツリー!』

杖の先端から地面に向かって勢いよく太い木の根が射出された。そしてそれが地面に打ち付けられる時……衝撃とともに2人は吹き飛んだ!

『うわぁあぁあ!』

『よーっし!』

炎の包囲を抜け草の上に着地することに成功した。

『危なかったぁ……。罠って怖いねぇ……』

「いや……お前らが自分でハードモードにしたんだけどな……」

少なくとも火が無ければ焼死するリスクは無かったはずだ。

『このまま進もう!』

『宝箱……』

名残惜しそうにナツが呟く。

『あ、そうだ。取りに行こう』

マイマイはその言葉を拾い燃焼の治まりつつある広場へと踵を返した。



『うぅ……』

そこには変わり果てた宝箱の姿があった。

『まぁ……あれだけ燃えちゃったら木箱は耐えられないよね……』

『仕方ない……灰だけでも持って帰ろう……』

落胆しつつナツは宝箱だった灰をかき集めはじめた。

「いや、別に蘇生とかできないから持って帰るなよ……」

『あ、待ってナツちゃん!』

『ん?』

『灰の中!』

『あー!』

そこには何か棒状のものが落ちていた。

『これもしかして……!』

ナツがその棒を拾い上げると灰の中に埋もれていた先端が顕になった。

『すごい……炎の力が凝縮されてる……!』

その杖の先端の魔石は紅く輝いていた。

『ねぇねぇ!これもしかして結構珍しいんじゃない?』

『うん!たまたまうまい具合に魔石が反応したんだ!普通だったら壊れちゃうんだよ!』

『すご~い!』

『早速装備してみよう』

ナツはまじないワンドを紅魔石の杖にとりかえた。

『どう?』

『今の杖より全然良さそう!絶対これ持って帰るぞー!』

ナツは腕を高く挙げて気合いを入れる。

『もう手に入れたのに?』

『ナビゲーターさんに代金払わなきゃならないでしょ?この杖多分価値が高くなるから他のアイテム売ってでも買い落とすよ!』

『じゃあ他にも色々探そう!』

そうして2人はダンジョンを隅々まで回った。

『この杖やっぱりすごい!このあたりの草系のモンスターなんて敵じゃないよ!』

ナツの杖の威力はすさまじく、炎に弱いモンスターには効果てきめんだった。

『マイマイもなんか欲しいな』

『あはは……ごめんね』

物欲しそうなマイマイを見るとナツはやや申し訳なさそうに苦笑した。

この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?