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共通の世界

のどかな昼下がり。俺は昼休みに空腹を満たしてささやかな昼寝をするのがなにより好きなのだった。しかし……。

「教えて教えて~っ!」

「またか……今回はなんだよ」

異世界でナビゲーターをすることになった優梨が俺になかなかの頻度で連絡を入れてくるようになった。

信じられないことだが優梨は死んでしまったのに別の世界で別の人間として転生したのである。だからまあ……本当はちょっと嬉しかったりするのだけど……。

「あ、またその人?」

「ああ、ちょっと待っててくれ」

「むぅ……」

同じクラスの吉野と昼休みにゲームをやることにもなってしまったのでもはや俺ののどかなお昼寝は完全に期待できないものとなってしまった……。

「で?今日はどうしたんだ?」

「んー、一応まーくんに拒否権はないことを前提にきいておきたいんだけど最近忙しい?」

「さらっと嫌なこというな……友達とゲームやるようになってな。昼休みにやる約束してるんだ」

「ふ……ふ~ん。……それって、茂野くん?……だよね?」

探りを入れるかのように優梨が訊いてくる。

「ん?違うよ?」

「えっ。まーくんそんなに友達いたんだね」

「いや……結構つきまとってくるというか……」

「聞こえたよ~!」

「うわっ!ちょっ……入ってくるなよ……」

吉野が電話口まで近づいてくる。

「まいのこと話してたでしょ~っ!」

「えっ!女子!?どういうこと!?」

優梨は動揺した声を上げる。

「えっ……女の子と話してたの?……もしかしてカノジョさん……?」

吉野も同様に動揺したように質問する。

「あ、いや……彼女ではないんだけど……幼なじみなんだ」

「ふぅん……ねっ!スピーカーにしよ!」

そう言うと吉野は俺の携帯をひったくりスピーカーボタンを押してしまった。

「あ、こら勝手に……」

「やっほ~!きこえる?私ね、まいだよ。あなたは?」

そしていきなり自己紹介を始めるのだった。

「あ……あらあら……まいちゃんって言うんだぁ~。私はね、まーくんのち~~さい頃から一緒にいた優梨っていうんだよ。よろしくね~!」

やけに一部を強調した自己紹介だこと。

「まーくん?」

吉野が首を傾げる。

「あ~わかんないよね~まーくんって言ってるの私だけだもんね~」

勝ち誇ったような言い方でそんなこと言ってる。

「まいも呼んでいい?」

しかしとぼけたように吉野は言う。

「だめっ!絶対に……だめっ!」

優梨はものすごい剣幕でそれを否定する。

「なんで~?」

「私の特許だからです」

「まぁ天太の方が呼びやすいからいいか」

「くんをつけなさいっ!」

「なんで~?」

「距離感!」

「こんなにくっついてるのに?」

受話器越しだから伝わらないと思うが吉野はあえて俺の腕を掴む。

「ちょっと!どういうこと!?まーくん!そっちの状況を説明しなさいっ!」

「あぁーめんどくさいなぁ!なんだよお前ら!揉めるなら俺の携帯使うなよ!」

勝手に人の電話でやかましく盛り上がるのでついカッとなってしまった。

「ご……ごめん」

「どうどう」

「とりあえずお前は依頼があるんだろ?聞いてやるから状況を説明しろ」

「あ、うん……今回の依頼は魔法使いからなんだけどね」

「魔法使いか……」

「……ん?なんのはなし?」

唐突にこんな話をしてもわからないだろうからあえて言うまでもないだろう。適当にはぐらかすことにしよう……。

「あぁ……ゲームだよ。別にきいてなくていいよ」

「ストスト?」

「……とはまた別かな?」

「ふぅん」

それだけきいて吉野は携帯の画面に目を落とす。

「それでね、またもちものから見て欲しいんだけど……」

「またかよ。前回でわかったろ?」

「そうなんだけど……バンソウヨウだけ持たせるのもなぁって」

「まぁ魔法使いだからな。どうせMPみたいなのがあるんだろ?だったらそういうのを回復させる水があるはずだ」

「水って……色々あってわかんないよぉ」

げんなりとした情けない声を上げる。声だけしか伝わらないんだからちゃんと探してくれ……。

「魔力を回復させる水だ。絶対ある」

「魔ろやかな水だぁ~!」

吉野が声を上げる。

「あ、これかな?」

どうやら見つけたようだ。

「やった~」

「おう、あったか」

「ありがとうまいちゃんっ!」

優梨は素直に吉野に礼を言う。

「えへへ~」

それを受けて吉野は嬉しそうに笑った。

「……ん?おい、ちょっとおかしくないか?」

「なんで?」

「いや……今の会話には違和感があった。絶対あった」

「まあいいや。じゃあ次は武器!」

「いいのかな……」

俺の主張を無視して優梨は話を続ける。

「今回の魔法使いのナツちゃんは、やっぱり初心者なんだ。普段はお姉ちゃんと一緒にいるから戦闘はあまりしてないんだって。確かお姉ちゃんは……なんだっけかな……姉妹合わせると香辛料みたいな名前になったんだけど……」

「いや、いい。危ないから」

「あ!それって!」

「やめろ」

何か言わせてはいけないような気がして俺は吉野の言葉を制した。

「それでね、この子も武器からなんだけど。どうかな?」

「杖でしょ?やっぱ」

「そんなアバウトな……」

「まじないワンドがいいかも」

俺の曖昧な答えに困惑した優梨に対し再び吉野が声を上げる。

「あ、これか!ありがと!まいちゃんすごいじゃん!」

どうやら該当する杖があったようだ。

「えへへ~」

吉野はまた嬉しそうに笑った。

「そうだよそれだよっ!」

俺は違和感の正体に気づいた。

「え?」

「いや……名前!なんでそっちの世界のアイテムの名前知ってんの!?」

「天太覚えてなさすぎね」

「覚えるも何も……え?なに、何の話?」

「だって、これストストでしょ?2人してイジワルなんだ。まいのことなかまはずれにしようとしたでしょ」

そう言って吉野は口を尖らせる。

「は?ストスト?」

「そうじゃんね。アイテムの名前、バンソウヨウでぴんときたよ」

「そういえばストストの回復アイテムって……そんな名前だったっけ……?え?じゃあ何?お前ストストの世界にいんのっ!?」

吉野の言葉が本当かどうかはわからない。しかし偶然にしてはあまりにも名前が一致しすぎている。ひとまずは優梨にそのことを確認してみる。

「え?何言ってるの?ストストって何?」

「ストストの世界?どしたの天太?」

「いや、全員で疑問符を出しても仕方ない……一回整理しよう……。この際だ。吉野、お前もきけ」

「は~い」

こうなったらもう吉野にも全てを話してしまうとしよう。

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