第十話 君は僕のもの
煉夜が妖の討伐へ赴いたある晩の夜。
金色は、居候する事となった湊音が寝静まったのを見計らって、外へ出た。
すぐ側にある川の畔で夜空を見上げる。
煉夜に見せる無邪気な幼子の姿ではなく——本来の姿で。
視線を落とした川の水面に映るのは、彼女よりも少し背の高い成人した自分の姿。
毛色は白髪。
これこそが、本来在るべき姿だ。
だが——。
体中に電撃が走った。
比喩ではなく、正しく電撃だ。
此れは金色の力を封じる呪。
「うぅ……っ!」
駆け巡る痛みにうずくまり、苦悶を漏らす。
暫くすると痛みからは解放されたが——代わりに体は幼子のもの、毛色も金色に変容していた。
「……忌々しい。未だに封印の影響がある」
なんとも頼りない両手を握り締める。
「この前は危うく湊音にしてやられるところだったし……気を付けないとね」
煉夜との約束を果たすためにも、と自戒して、金色は彼女の姿——九尾との戦いで見せた姿を思い浮かべた。
「神威を纏い、炎と踊る煉夜。美しかったな」
自身に満ち溢れた表情。
何事にも動じぬ胆力。
癖毛ながらも艶のある黒髪を靡かせ、意思の強さを窺わせる柘榴石のような瞳に敵を捉えて——。
「殺気混じりの情熱的な視線……懐かしい眼差しだ」
金色は恍惚と頬を染め、「ほぅ」と息を吐した。
惜しむらくは、あの瞳に映っていたのが自分ではないと言う事。
「今も昔も、君に纏わり付く虫が多いね。
蒼に湊音、九尾、そして——外つ国の五陽五神。
この様子だと、まだまだ湧いて出てきそうだ」
煉夜の清らかなる魂と、その性質が彼らを惹き付けるのだろう。
金色は眉を顰め、軽く舌打ちした。
けれども、焦燥する必要はない。
抗えぬ時間の波に飲まれ、過去の思い出が藻屑と成り果てた今でも、煉夜との間には消えぬ絆がある。
魂に刻んだ〝約束〟と言う繋がりが。
「……渡さないよ、何者にも」
想いを胸に、金色は空を仰ぎ見る。
すると、輝く星が孤を描いて流れた。
幾重にも。幾重にも。
箒星の軌跡。
まるで、天が味方しているかのような演出だ。
幸先の良さを感じながら金色は手を伸ばし、紡ぐ。
「煉夜。君の身体も、心も、魂も。
——全て僕のものだ」