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海の音

 静けさが漂っている。


 夕暮れの砂浜、いつもの場所に僕はいた。渚には、穏やかな波が打ち寄せている。


 ひと気のない、思い出の場所。世界中に僕しかいないみたいだと、かすかに思った。


 でも分かっていた。きっと彼女は、ここに来る。


 波と風が包む世界で、僕は静かに耳をすませた。









 歌声が聴こえる。


 潮騒が響く海辺で僕は顔を上げた。


 ひんやりと湿った風が汗ばむ頬を撫でた。


 水平線に太陽が沈んでいく。


 誰もいない夏の浜辺で、僕は確かに彼女の歌声を聴いた。









「海音、そこにいるのかい」


「わたしはいつでもここにいますよ。前にも言ったじゃないですか」


 すぐそばに立つ松林から、その声はした。


 ぼんやりとした宵闇から白い少女が姿を見せた。


 僕は握りしめていた手を伸ばし、ペンダントを彼女に見せた。


「海音、きみの事、勘違いをしていた。きみは、僕にとって誰よりも眩しくて、素直で、揺らがない存在なんだと思ってた。そんな風に見てしまっていた。ごめん、本当にごめん」


 海音の心に負ったものを取り除く術を見つけきれない、僕は無力だ。


 それでも僕は、海音の力になりたかった。でもなれなかった。


 手元からペンダントを取られた感触がした。微かに触れた指の冷たさが、僕のてのひらに残る。


「聞いたのですね、おじいちゃんに」


「あぁ」


「馬鹿みたいな話でしょう。わたしったら本当に何やってるんだろって夏樹さんも思いましたよね」


「海音」


「生きていればもっと良い事あっただろうに。わたし、いつもあの崖から見ていたんです、海にやってくる人達の顔を。みんな、みんな、楽しそうで、幸せそうで、命が輝くように見えていて」


 海音はいつもの調子でしゃべり始めた。


「生きていれば歌ったり、笑ったり、恋したり……今更になって分かってしまったんです。生きているって自由なんだって」


 自由……。


 おやじさんの話と海音の言葉が自然に重なる。彼女が求めていたものは、何だったのか。


「海音はたくさんの人に期待をされていたんだろう。とても苦しかったんだよね」


「あなたは分かりますか。この気持ち。わたしは後になって気づいたのですから」


「海音、きみは」


「ほら、夏樹さん、見てくださいよ。星がきれいですね」


 しかし空に、星は出ていない。


 夕日の影に海音の姿があるだけだ。


「空はまだ明るいよ、星なんてまだ少ない」


「いいえ、星がきれいです。もっとよく見て」


「海音」


「きれいだと言ってください」


「……そうだね、星がきれいだ」


 僕はこぼした。茜色の水平線を見つめる海音の横顔が、どんな気持ちかわからない。


 僕のもとを離れた海音は、波打ち際まで歩き出した。


「わたし夢見てたんです。星みたいに輝く人生を過ごしたいって。歌と一緒に、自由なところで」


「自由なところで……」


「諦めなければよかった!」


 海音は、後ろ手に振り返った。


「ずっと胸が苦しかった。わたしは何のために歌うのだろう、誰のための人生をわたしは歩むのだろう。怖くて、不安で……」


「海音……」


「だけど夏樹さん、あなたは孤独や不安と闘いながら、それでも歌が好きだと言っていました。わたしはあなたの心の強さに憧れています。わたしは、あなたになりたかった」


「僕に、なりたい?」


「今が辛くたって諦めなければ、いつかきっと、本当の自由を手に入れられてたのかも」


 海音は目を伏した。長いまつ毛で目元が隠れる。


「でも、まっ、世の中そんなに甘くはないっ。なぜか、こんな姿になってまでこの世に残っているなんて、わたしどうなっちゃてるんだろう。本当、ばかみたい」


「そんな事はない。きみは真っすぐだったんだよ。誰よりも強く歌と共にいようとした。その気持ちは本物だ」


 目が熱を持ってくる。彼女の気持ちを考えるとかける言葉も見当たらない。


 草木の揺れる音が、潮の匂いと共に流れる。


「やさしい言葉をかけてくれるのですね」


 にっこりとした顔を向ける彼女。その表情で口にするのは自分を傷つける言葉。


 僕には耐えられなかった。


 海音、僕はきみに何かを与えられる人間じゃないけれど、僕は、きみを……。


「……同じだからさ」


「どういう意味ですか」


「僕も、きみになりたかった」


「えっ」


 微笑みをたやさなかった海音の顔に、驚きが少し出る。


「正直言って海音、きみは天才だ。歌と共に生きて、自分自身が音楽かのように生きている。僕がどんなに努力しようと辿り着けない感性と才能がある。そんなきみに、僕はずっと憧れていた」


 命に代えても欲しい物が目の前にずっとあって。


 どんなに手を伸ばしても僕の物にはならなくて。


 そんな歯がゆさを抱えながら、悔しさを情熱に上塗りしながら、僕はきみという才能に近づきたい一心で、毎晩この海に来ていたんだ。


「ずっときみに近づきたかった」


「こんなに、近くにいたのに」


「お互いの背中を見合ってたようだ」


「一緒って、思ってもいいんですか」


 震えた海音の声に僕はうなずく。


「一緒だよ」


 そして海音は高らかに笑いをあげた。


「ふふふ……あははっ。いやぁ、照れますね。わたしと夏樹さんが一緒。そんな風に思ってくださってたなんて。あははっ、あはははははっ」


「海音?」


 海音の様子がおかしい。彼女の声は潮風を払いのけて、波の音さえかき消している。


「あーあ、わたしってば、あーあ。あははっ、ほぅら、夏樹さんも笑ってくださいよ。これでもわたし、小さい頃は嵐を呼ぶ子なんて言われてたんですよ。一緒に笑ってください」


「海音」


「はぁ、なんて楽しいんでしょう。一緒です、一緒です!」


「海音!」


 僕は彼女の肩を掴んだ。彼女の肌の冷たさが僕の体温を吸い取っていく。


 その瞳を見ながら、僕は頼むつもりだった。


「もうやめようよ。無理をして、ていねいな言葉でしゃべるのも」


 海音の笑いが、一瞬だけ止まった。


「無理なんてしてません」


「きみの言葉はとてもきれいだ。でもいまのきみの言葉はとても辛そうに聞こえるんだ」


「してないからっ」


 彼女は僕の手を払いのけて、後ろに下がった。肩が大きく上下している。「してないから」ともう一度同じ言葉を小さく言った。海音の唇が震えている。


「無理なのは、今から夢を追うことですよ。夏樹さん。死んだら、おしまいなんです」


「死んだら、おしまい……」


「わたしの体、冷たかったですよね。こんな体じゃ、もう夢は叶えられません。…………悔しいなぁ! とても悔しい。でも、後悔しても遅いんです。もっともっと……生きればよかった」


 空を仰いだ海音の頬には、銀色の光が伝っていた。


 僕はその時どう動いたのだろうか。気がついた時、僕はすでに行動していた。


「えっ」


 再び耳にする、海音の呆気にとられた声。


 僕は、海音を抱きしめていた。


「……おれはっ!」


 今までした事もない、今までの僕じゃありえない事をやってしまっている。


 バカになった。


「おれはっ! その夢をっ! 叶えたいと思いますっ!」


「なつき、さん?」


「おれにください。海音の夢」


 僕の口から出た言葉。いま僕はとんでもない事をしている。バカのような気持ちになってる。


 何を言ってるかも分からない。心臓がちぎれて爆発しそうな強さで跳ねている。


「その夢、おれが代わりに叶えますっ。海音の分まで生きて、歌って、みんなを笑顔にしてみせますっ。おれが夢……叶えますっ。絶対にっ、海音の夢っ、一生懸命っ、頑張りますからっ」


 言葉が勝手に出てきている。次から次に心の奥から海音への気持ちが飛び出している。


「それに海音が冷たいなんてはずがない」


 海音を包む腕の力を思いきり強めた。


「きみの涙は、こんなにあったかいじゃないか」


 さわればたやすく壊れそうな少女の体を力いっぱい抱きしめる。


 自分でも何言ってるか分からない。


 目から熱い物が溢れている。


 心臓が跳ねすぎて胸が痛い。海音にも聞こえているだろう。


 だったらもう、振り切ってしまえ。


「おれ、きみのことがすきだ」


 言ってから、鼻をすすった。涙が勝手に垂れてくる。


 腕の中で海音はもぞもぞと身をよじって、顔を上げた。


「……なんて表情、してるんですか」


「おれ、嘘がつけないんだ」


 少し苦しそうにしているのに気づいて、腕の加減を緩くする。海音は困ったような笑みをした。


「変な人」


 そう言ってから、


「でも……ありがとう」


 温かさを感じる優しい声で、僕のシャツの裾を掴んだ。その時、海音は初めて僕に言葉をくずした。本当の彼女に触れられた気がした。


 海音の体は冷たくて、幽霊だと言う事実をいやでも思い知らされる。だけど抱きしめる胸の中には、生きている人間と変わらない温もりがあった。


 そして彼女は僕を見た。ずっと望んでいた太陽よりもまぶしい笑顔が、僕の前に現れた。


「きみと会えて、よかった」


 それは海音の言葉だった。笑って言った彼女の瞳の美しさは、僕から返す言葉をうばった。


 僕は何も言わずに、うなずいた。安心した。どっと全身の力が抜けていく。


 やがて海音も心が落ち着いたのか掴んでいたシャツの裾を離し、そっと僕の手をとる。


 僕は重ねてその手を包む。


「来年の夏もまた来るよ。また一緒に歌おう。それまで待ってて」


「……夏樹さん」


「どうした?」


「初めて会った日のことを覚えていますか?」


「うん、もちろん」


「外から来た人でわたしを見つけてくれたのは、夏樹さんが初めてでした。とても嬉しかったです。ありがとうございました」


「海音が選んでくれたからだ」


「まだありますよ。それから毎晩ここに来てくれて、ありがとうございました。あと、わたしとお話してくれて、ありがとうございました」


 指折り続ける海音の言葉。なんだか体がこそばくなる。


「一緒に歌ってくれて、一瞬に笑ってくれて、歌を好きになってくれて、たくさん優しくしてくれて、たくさん……たくさん、ありがとうございました」


「もっ、もういいよ。照れるから、もう」


「最後に」


 海音は手を離して、晴れやかな笑顔でこう言った。


「シアワセをありがとうございました。わたし、もう思い残す事はありません」


 …………え?


「海音。いま、何て言った。思い残す、こと?」


「ごめんなさい夏樹さん。今年の夏が、最後です」


「どういう事だ、どうしたんだ海音……うっ」


 海音の体が光りだす。茜色の砂浜にわっと白い光が広がった。


 真っ白な粒が海音を包んで、空へと舞い上がっていく。


「お別れです、夏樹さん」


「何だ、これは……」


「わたしの思い残す事は無くなりました。だから、行かないと」


 宙を舞う光の粒は、海音の体から散っている。


 光の中で、海音の姿がいつの間にか透けているのが分かった。


 このままでは海音が消えてしまう?


「そんな、海音、待ってくれ、行かないでくれ!」


 だめだ、だめだ。そんなの、だめだ。


 もう一度ふれようと伸ばした両手は、海音の肩をすり抜けた。


 諦めずに何度もその手を取ろうとするが、彼女の手はもう取れない。


「そんな、海音」


「夏樹さん……」


 海音の実体はすでに無かった。


 影さえも消えている。


 彼女の肩の向こうには、夕暮れの闇が迫っていた。


 信じられない速さで現実が進んでいた。


 僕はどうするべきなのか。


 何をするにも時間がない。


 どうすればいい。


 分からない。僕は地を叩きつけた。


「どうして、どうして! きみの思い残した事って何だ、どうしてきみは満足気なんだ。分からない、分からないよ!」


 あんなに元気だったじゃないか。いつでも笑っていたじゃないか。歌が好きだっただけじゃないか。それなのに、どうしてこんなに背負わないといけなかったんだ。


 なぜ。


 なぜ?


「夏樹さん、私はもう大丈夫なんです」


「そんな、だって、きみは」


 上げられない視界に光が差す。


 海音がそばまで来ていた。光のせいで、涙で濡れた砂の色が丸わかりだ。


 顔を上げると、海音の顔がすぐそばにあった。真っ白な頬を赤く染め、大きな瞳から大粒の涙が溢れていた。彼女も泣いていた。


 なのに笑おうと、綺麗な顔をくしゃくしゃにして僕の方を見つめている。


「わたし嬉しいです。わたしのために夏樹さんが泣いてくれて。それだけ想ってくれる素敵な人に出会えたんだと、改めてシアワセを感じます。あぁ、なんて素敵な付録だったんだろってね」


「海音……」


「でも、できればもう一つ、贅沢を言わせてください」


「……なんだい」


「笑ってください。わたしは、いつも笑顔をくれたあなたが大好きです。だから立ち上がってください。どうか前を向いてください」


 立ち上がる海音。白がひるがえる。彼女は笑顔を僕に向けた。


 そして白い手を差し伸べた。


「夏樹さん。さ、歌いましょう?」


「海音……」


「歌で巡り合ったわたし達だから」


 彼女はもう迷ってなどいなかった。自分の運命を受け入れている。


 海音は手を差し出したまま、僕が立つのを待っている。


 ……そうだ、はじめから、わかってたじゃないか。


 悲しいのは、自分だけじゃない。悔しいのは自分だけじゃない。


 僕がやりたかったのは、落ち込む事じゃない。


 目の前には泣いてる人がいる。


 だったら……僕がするべき事は一つのはずだ。


「……っしゃあぁ! どうした江藤夏樹。お前のやりたい事はみんなを元気づける事だろう! 目の前の女の子ひとり笑わせないでどうする!」


 顔を拭って立ち上がり、光の中で僕は叫んだ。


「うぉおぉっ! おれは、いつでも元気なんだぁっ!」


 笑い声が聞こえた。


「さすがです、夏樹さん。やっぱりあなたでよかったです」


「どういう事だい」


「わたしの歌はあなたの心に宿ったみたい。夏樹さん、あなたの歌にわたしの命は生き続けます。どうか、繋いでくださいね」


「……命の歌」


 思わず出てきた歌の名前に、海音は大きくうなずいた。


「夏樹さん、連れていってください。あなたの生きる素敵な未来へ」


 僕の言葉に、決意が満ちていくのを感じた。全身が熱い。目の前がはっきりと見えている。


 呼吸が深い。海音への返事は、これ以上にない気持ちのこもった言葉になった。


「分かった。僕は、生きるよ。きみとの証、絶対に忘れない」


「……ありがとう!」


「海音、さあ、歌おう!」


「うん!」


 だけど、ここで大事なことを思い出した。


「っと、そうだった。ごめん海音! お願いされた歌、間に合わなかった」


 海音はからからと笑った。


「じゃあ今から作りましょ。練習通りにやればすぐにできます。わたしと夏樹さんの世界でたった一つだけ。誰も知ることのない歌を」


「きみとなら作れそうだ。海の彼方まで届くように、二人だけが歌う歌」


「あなたの歌は死の歌で」


「きみの歌は生の歌」


 二人で波打ち際に並び、繋ぐように手を重ね合わせた。


 たゆたう波を見ていると、ずっとこのままでいたい気持ちになる。


 だけどそれは叶わない。


 彼女に伝えたい想いは言い足りない。


 僕も彼女のすべては知らない。


 お互いを理解するのに許された時間はあまりに短い、短すぎた。


 ……でも僕たちは知っている。


 言葉よりもずっと素直な心の伝え方を。


 海音の光が一層強まる。


 肩の力を抜き、同時に息を吸い込んだ。









 歌うのは、夏の日の思い出を語る、名も無き二人の海の唄。









 § § §



 この歌が聞こえますか? 青い海に浮かぶ唄が


 浜辺であなたは笑ってた その目に映る私も笑った


 夢のような時間だった 美しかった


 心は夜空へはばたいて 素敵だった


 砂につづった旋律も とうに海へとけていた


 どうか届けて細波さざなみよ 私は今も笑ってますと



 海の唄が空へと響く 高く深く果てしなく


 海の唄よ奏でて遠く 遠く届けどこまでも


 忘れないよ 何度夏が過ぎようと



 ──ずっと祈ってます あなたのシアワセを


 ──ありがとう



 星の海よ輝け永遠とわに 海原照らすしるべとなれ


 明日の光よ未来を巡れ 彼方へ響けこの音よ


 忘れないよ この夏の日の想い出を


 ずっと輝いているよ 君とみた海は



 この歌が聞こえますか? 広い浜に揺れる唄が


 歩き続けよう 歌い続けよう また会える日まで


 響け


 海の唄よ



 § § §











「それじゃおやじさん、今日までお世話になりました」


「おう、バイト代はしまったか?」


「はい、ばっちりと。一か月間、本当に、ありがとうございました!」


「んだよ、かしこまるなよ堅苦しいな」


「すみません、クソ真面目な僕なので」


「馬鹿野郎……風邪ひくなよ」


「……おやじさぁんっ」


「あぁっ、分かった分かった! ほらっ、早く行かねえとバス出ちまうぞ!」


「うわっ、そうだった! おやじさん、どうかお元気で!」


「おうっ、ビッグになったらまた来いよな! 少年、夏樹!」


 朝日が世界を照らしている。蝉の声が残る林を僕は駆け抜けた。曲がりくねった林道はどこも日陰で、吹き抜ける風が心地よい。


 やがて正面が明るくなり、太陽の下に出た。


 その先は、真っ青な景色が広がる、海辺の崖。


 ここからの景色を、もう一度見ておきたかったから。


 青い空、大きな入道雲、そして果て無く広がる海。


 見るならやっぱり明るいうちが良いな、うん。


 一人で納得しながら、ポケットから一枚の紙切れを取り出す。


「おじさん、ごめんなさい」


 あの晩にもらった名刺を細かく破き、海へ向かって放り投げた。


「もう少し、自分の力で頑張らせてください」


 一陣の風が吹く。宙を舞う紙片はどこまでも舞い上がり、やがて見えなくなった。


 あーあ、やっちゃったぁ……。って、感慨にふけってる暇は無いな。


「うわ、バスに遅れる! 急げ!」


 海を後にして、再び走り出す。海岸線を吹く風が背中を後押ししてくれる。


 街へ向かうバスのクラクションがすぐそばに聞こえている。


 足取りは軽く、気分は良い。


 再出発には最高の日だ。







 夢は遠いから夢なんだ。誰かが言った。



 果てが見えない長い道のり。もちろん怖いさ。



 それでも僕は笑って進んでいくだろう。



 汗だくになって、泥だらけになっても足を止めたりしないだろう。



 旅路は長い方が楽しいものだ。



 僕は、これから進み続けるよ。



 この声が、海の向こうに届くまで。



 未来で待ってる僕の夢がこっちに来いと呼んでいる。



 どうか、見守っていて欲しい。



 そしていつか、また歌おう。



「さあ、江藤夏樹、頑張ります!」



 首元で藍色のペンダントがまぶしく光る。



 大空を見上げると、高く上る雲の形が、笑ってるあの人に見えた気がした。




【おしまい】


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