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 叡智──招雷しょうらい遊迷ゆめ


 サヤは自分とジャギルスに走る電気を頭上に向けた。


 その先は天井の穴。その先は雲。



 サヤは薄れゆく意識のなか電撃を天空へと放った。


 待ち侘びていた雷雲の発達が、最高潮に達していた。


 刹那。閃光が視界を奪い、雷音が轟いた。一筋の雷がポートツリーを貫く。


 辺りは光に包まれた。


 サヤ、モトリ、ジャギルスが光の中に閉じ込められる。


 消滅していくジャギルスの身体。モトリは一瞬で見えなくなった。


 そして……自分……。


 光の中で少しずつ崩れてゆく自分の身体をぼんやりと見つめた。


 やがて目がぼやけてきて、見えるものには形がなくなった。


(私、ちゃんと皆を護れたかなぁ)


 独り言ちる問いに答える人はいない。


 もう何も見えない。


 瞳を閉じるけれど、不思議と怖くない。瞼の裏には、大好きな人達の顔が笑って浮かんでいる。大好きだった村の風景、人の笑顔、空の色。


 これまで見てきた世界のすべてが目の前を流れていく。走馬灯だ。


 やがて走馬灯すら真っ白に塗り替えられた。耳はまだ生きていて声が聞こえる。


 誰の物かも分からないけどすごく楽しい気持ちになれる。


 サヤ……沢山の人達が呼んでくれた名前。


 この名を呼ぶ皆の声はいつだって嬉しそうな声だった。


 自分は沢山の人達に愛されて生きてきたんだ。彼らのためならこの命も惜しくない。


(……温かい)


 最後に残ったのは、肌の感覚。最後に抱きしめてくれた彼の温もりを覚えていた。


 初めてが最後だった。だけどサヤはそれで満足だった。


 目も見えない、耳も聞こえない。だけど確かに自分は今、少年の腕に抱かれている。


 幸せな気持ちだなぁ。


 消えていく意識の中で、もう一度だけつぶやく。


 皆の幸せ、護れたかな……?


 穏やかな心地のままサヤは再び、安らかな眠りについた。


『あなたは立派に護りゃしたよ』


 サラが待っていた。



§§§

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