涼海 風羽(りょうみ ふう)
SFポストアポカリプス
2025年01月03日
公開日
10.2万字
完結
あなたがまだ知らない時代。
世界では血の通わない存在、無機生命体が地上を支配していた。
圧倒的な戦力の前に人類はかつて栄華を誇った文明を棄て、散り散りに逃げ延びていた。
彼らを生み出したのは他でもなく人類。
自分たちで作り出したものに滅ぼされてゆく人々は以前の豊かさなど見る影もない。
廃墟ばかりが横たわる世界で旅をつづける少女がいた。
「何か」を探してさすらう少女は、崩れた世界で何を見るのか。
極限世界で息衝く人間を描いたSFハードファンタジー。
──Notice〔報告〕──
スペシャルムービーが公開中です。
▶︎ https://youtu.be/kyZrFSN2yh8
書籍版の入手経路はここからアクセスできます。
▶︎ https://bookmeter.com/books/19457161
物語はこのサイト上で記された結末と異なります。
書籍版の終章は、完全書き下ろしです。さらに先の物語が記されています。
2022年_幻冬舎より書籍化及び発売
*
とめどなく降り続ける雨の中でガナノ=ボトム第三区画が陥落したのは、つい三日前の話だ。勝ち戦と思われていたこの戦闘で人類はまたしても「奴ら」を駆逐することができなかった。
いまだやむ気配のない雨に包まれて、少女は廃墟の街を見上げている。
砕けた雨滴で空は霞む。
フードから覗く藍色の髪は滴を落とし、蒼玉色の瞳には在ありし日の街並みが浮かんでいた。
その少女──エリサが最後にこの街を訪れたのは、二年前、英雄オネスの巡幸パレードが催されていた時だった。
あの日は誰もが喜びに満ちて歌い、踊り、笑いに溢れ、明日の繁栄を祈っていた。
「これで、九十三体目」
すでに過去のことだ。
剣に付着した機械油を振り払い、左腰の鞘さやに納めるともう一度、眼下の光景に視線をやる。降りしきる雨に濡らされながら、敵の屍しかばねが無数に転がっていた。
どれも一人の少女、エリサが倒した遺骸である。とはいえ地に伏すのは人の姿に比べると、はなはだ異形だ。斬撃の痕がはしる鋼色の胴体。火花と漏電が音を立てて散っている。
倒れている者は皆、機械でできていた。
雨音が掻き消すことを望むように、エリサは問う。
「もう此処ここには誰もいないのだろうか」
辺りは水滴の瓦礫を叩く音だけが響いている。
機械の死体と崩れた街並みは無言のまま答えない。人の気配は、どこにもない。
「……雨、やまないな」
少女はフードを深くかぶりなおして、ひとりごちる。色あせた革のケープを翻し、エリサは幽けし廃墟へと歩き出した。
垂れこめた曇天の下、街はひたすらに冷え続けていた。
§§§