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第10話 ワープゲート

「集まったようじゃのう」

 翌朝、ケイたち四人は天空迷宮――シラユリの部屋を再度訪れた。それぞれ着替えや保存食の入った大きなカバンを持って、探検隊のようである。

「これからおぬしらには、ワープゲートで魔術都市ロンドンへ飛んでもらう。おぬしらが探す、人類最強レベルのサッカープレーヤーの名は、メイジー。本物の魔法使いじゃ」

「いや、フルネームで教えろよ」

「フルネームは分からんのじゃ。あと女であることが分かっておる。頑張って探せ」

「情報が少なすぎだろ、おい! ロンドンにメイジーは何百人いるんだ?」

「ナオキ、そいつが本当にすげえプレーヤーなら、行けばすぐに分かるんじゃねえか? 期待以下のプレーヤーなら、そもそも見つからなくたって構わねえし」

「ペガサスよ、その通りじゃ。実は、すでに手は打ってある。ロンドンで三日後に、ストリートサッカー大会が開催される。あっちの市長に話をして、お前たちのエントリーもしておいたのじゃ」

「三日後!?」アズサが驚愕している。ケイも思わず口が開いてしまった。

「急遽の開催じゃ。お前たちが優れたサッカープレーヤーなら、お前たちとメイジーは互いに引きつけ合い、ここで必ず出会うことになるのじゃ!」

「東京からすごいプレーヤーが来たと噂が広まれば、その人のほうから会いに来たり、その人もエントリーしてくるってことか。確かに」

 ケイはシラユリがこの四人に人探しをさせたい理由がようやく分かってきた。昨日からナオキが妙にやる気になっているのも、優れたプレーヤー同士は互いに引きつけ合うからか。

「それから、これはお守りじゃ」

「四人とも、こちらに参れ。ドーア・アーケロ!」

 シラユリが詠唱すると、デスクの向こうの壁が黒子たちによって開かれていく。

「ワープゲートはこの奥にあるのじゃ」

 ワープゲート。世界で十か所にしか確認されていない、瞬間移動装置。便利には違いないが、その技術は人類の理解を遥かに超えているため、各国で厳重に管理されている。限られた人間しか使うことのできない装置だ。ケイはそんなものを自分が使う日が来るとは思ってもみなかった。ここから先は東京ではない。日本ですらない、未知の世界だ。

「ケイ」

 呼ばれてハッと我に返ると、先に行ったナオキとペガサスの後ろ姿が見えた。その手前で、アズサがケイを振り向いて、手を差し出している。

「大丈夫? 行くよ」

「うん、大丈夫」

 ケイはふっと息を吐くと、アズサの手を握り、ゲートに向かって歩き出した。



「お待ちしておりました。ナオキ様方」

 ワープゲートの先で待っていたのは、キリッとしたスーツに身を包んだ老年の英国紳士だった。恭しくお辞儀をする彼の後ろには、豪奢な空間が広がっていた。長く続いていく廊下、見上げるほど高い天井、歴史を感じさせる石造りの柱や彫像、鮮やかなステンドグラス。まるで王様が住んでいる場所のように、きらびやかだ。

「魔術都市ロンドンへようこそ」

 一瞬で着いてしまったので、あまりに現実感が乏しい。一行はぽかんとして、しばし目の前に広がる光景を見つめていた。

「どうかなさいましたか」

「東京とは大違いだと思ってな」ナオキが言った。

「そうでしょうか。外に出ますと、また印象も変わるかと存じます」

「案内してもらえるか」

「ええ、もちろんですとも。皆様、こちらへ」

 老紳士に付き従って、ケイたちは廊下を歩く。コツ、コツと足音が天井高くに響き渡る。

「大会へのエントリーはすでにこちらで済ませてあります。大会は三日後、ここ国会議事堂から西へ少し歩いたところにある、セント・ジェームズ・パークにて行なわれます」

「うっわ。本当に三日後なんだ」

「ええ、急を要することですので。こういった大規模な大会には、必ずメイジーは現われます」

「大規模ってどのくらいなんだ?」とペガサス。

「一人一つの家が買えるほどの優勝賞金を用意しております。恐らくロンドン中の実力者たちが、こぞって参加するでしょう」

「うわぁ……そんな大会をエイヤーでやっちゃうところがまた……」

「人類のためですので。それにシラユリ様からのお願いでもありますので、我が市長がここまでするのも当然のことです」

「あの人、案外すごいのかもね」アズサがケイに耳打ちした。

「そうは見えないのにな」

「ところで皆様、今回、チームは五人制となっておりますが、もうお一人は?」

「いや、俺たちしかいないが?」ナオキが答えた。

「そうでしたか。でしたら、もう一人、メンバーを集める必要がございますね」

「四人で充分だろ?」ナオキがケイ、アズサ、ペガサスを振り返る。だが三人は困ったように互いの顔を見合わせた。

 ペガサスが三人を代表して口を開く。

「優勝狙うなら、人数が足りないのは厳しくねえか? 相手はロンドン中から集まった猛者たちだぞ?」

「変なヤツを入れて足を引っ張られたらたまらん」

「そりゃそうだが、五対四ってのはかなり不利だぞ」

「第一、あんたが動けるのって一分くらいでしょ? 実質五対三じゃん」アズサがもっともな意見を言った。「ケイが三人分働くならいいけど」

「無理だよ、そんなの!」ケイはそんなふうにこき使われてはたまらない、とばかりにツッコミを入れた。

「まあまあ皆様」埒(らち)が明かないと見て、老紳士が割って入った。「大会までまだ時間がございます。街を歩き回って、メンバーを探すのもよいかと存じます。なにせ、この街には、すでに続々と猛者たちが集まってきているようですので。まだチームを組んでいない者もいるかと存じます」

「そうするか。即席でも頭数はそろってたほうがいいだろ」

「俺たちの目的はメイジーだ」

「分かってるって。メイジーもメンバーも両方探そうぜ」

 行く手に大きな扉の形に切り取られた、外の景色が見えてきた。

「さあ、どうぞ、魔術都市ロンドンを心行くまでご堪能ください。お部屋はそれぞれにご用意させていただきましたので、用が済んだらまたここへお戻りください。では」

 老紳士がお辞儀をして去っていく。

 ケイたちはロンドンの街への一歩目を踏み出した。

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