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第9話 東京都知事は黒魔導士

 たくさんの足音が慌ただしく部屋の中になだれ込んできた。銃で武装した覆面の者たちが半円状に展開し、部屋の出口に向かっていたナオキの前に立ちはだかる。

 物々しい雰囲気にケイたち――その場にいる誰もが息を飲んだ。

「我々は東京都知事直轄・自衛隊だ。君たちに危害を加えるつもりはない。抵抗せずに従いなさい」

 覆面の一人が銃を構えて命令した。

「おいおい、なんだこりゃ」

 ナオキは渋い顔で銃口を見据えた。

「わ、私たち、怪しいものじゃないです」

 アズサは怯えたように両手をあげて抵抗の意思がないことを示す。

「そ、そうだぞ! 俺たちは何もしてねえ!」

 ペガサスは構成員たちの前に歩み出る。全く理解ができないという顔だ。

 ケイもわけが分からないまま、アズサをかばうように武装集団との間に立ち、成り行きを見守ることしかできなかった。

「ナオキ、それからメイドのアズサ、浮浪者のケイ。都庁まで来てもらう。歩け。シラユリ様が君たちを待っている」

「シラユリさんが!?」

 アズサはパッと顔を明るくして、目を輝かせた。

「なあ、シラユリって誰だ?」

 ペガサスがこっそりとケイに尋ねた。

「東京の都知事で、アズサとナオキはよく知ってるらしいけど、俺はあんまり」

「都知事ってことは、もしかして超偉いヤツなのか?」

「うん、そうだと思う……」

「だったら横浜の復興に力を貸してくれるかもしれねえな!」

「うーん、どうだろう……」

 ケイは浮かない顔で曖昧に答えた。

「あのクソババア。用事があるなら自分で来いってんだ」

 一方、文句を垂れたナオキの頭に、一人が銃口を押し付ける。

「シラユリ様を愚弄することは許さない。さあ歩け」

「チッ……」

 ナオキ、ケイ、アズサは指示に従って、歩き出した。

「おい待て! なんだか知らねえが、俺を置いていくとはいい度胸じゃねえか」

「……誰だ貴様は」

 たった今気付いたとでもいうように、自衛隊員が尋ねた。

「俺の名はペガサス! 横浜ペガサス会のリーダー。そしてこいつらは構成員たちだ」

 構成員たちはここぞとばかりに意味のなさそうな攻撃的な奇声をあげながら挑発的で下品な動きをして存在をアピールした。

 自衛隊員はそれを冷めた目で見ていた。

「だいたいわかった。全員ハマに帰れ」

「帰れるかボケがああああッ!!」

 ペガサスが唾を飛ばした。後ろの構成員たちも一斉に野次を飛ばす。

「都庁に行くなら俺も連れていけ! 都知事に会わせろ」

「貴様らのようなゴロツキをシラユリ様のところへ連れていくわけないだろう。都庁は動物の持ち込み禁止だ」

「なんだとてめえらこそ公権力のイヌだろーが!」

 言下に言い捨てた自衛隊員に、わーわーと野次が飛ぶ。

 そこにナオキが口を挟む。

「いや、こいつも連れていけ。役に立つかもしれん」

 ナオキの提案もすぐさま却下されるかと思いきや、自衛隊員はしばし考えてから、「いいだろう。だが後ろのヤツらは帰れ」と言った。

 当然また野次が飛んだが、今度はペガサスが黙らせた。

「いいか、おめえら。俺に任せとけ。おめえらは先にハマに帰って被害者を助けろ。俺も必ず帰る」

「アニキ……」「無理しないでくだせえ……」「どうかご無事で……」

 ペガサスは構成員たち一人一人と熱い抱擁を交わし、それが終わると、四人は自衛隊員とともに都庁へ向かった。

 自衛隊の装甲車に揺られること二十分。一同は東京都庁のツインタワービルに到着した。ツインタワーといっても、今は二本のうち一本しか残っておらず、慣習的にそう呼ばれているに過ぎない。

 広々としたエントランスホールには、ケイたちを連行してきたのと同じような格好をした自衛隊員たちが、左右の壁に沿って立ち、来庁者の不審者な行動に目を光らせている。本来、ケイのような貧乏人や子供が来る場所ではない。

「これが都庁……息が詰まるぜ」

 ペガサスは緊張した様子でつぶやいた。ケイもここは居心地が良いとは言えなかった。

 正面のエレベーターに乗り込み、ガタガタ揺られながら上層階へとあがっていき、チーンという音とともに扉が開く。

 目の間に広がった風景は、異世界と思ってしまうほど日常とはかけ離れた世界だった。ロウソクの灯かりが怪しく揺れて、薄暗い闇を照らす。壁には動物の骨や数珠や干からびたコウモリの羽が飾られ、床には魔法陣のような幾何学的な図が描かれている。

「いつ来ても趣味の悪いところだ」

 ナオキがぶつぶつ言いながら歩く。ケイも同感だった。あまり趣味がいいとは思えない。

 アズサはこの趣味に理解があるらしく、ぶら下がっている骨を手に取って、「この骨、可愛くない?」とペガサスに話しかけている。

「そうか? こっちのコウモリの羽のほうがイカしてるぜ」

「そう? なんかリアルでキモい」

「それにしても、よくこんなもの集めたな」

「これ、人間の骨だったりしてー」

「変なこと言うなよ、おい」

 先へ進んでいくと、ドアに行き当たった。ノックすると、「入れ」と女性の声がした。四人は金色のノブを回して、入っていく。

 そこはやはり、怪しげな薄暗い部屋だった。

 いつの時代のものか分からない、謎の器具や装置、水晶玉、装飾品などが机にも棚にも所狭しと飾られている。部屋の真ん中に大きな文机があり、その上に部屋の主――小柄な女性が膝を曲げ片手を突き上げたポーズを決めて立っていた。ケイにはなんのポーズかわからなかったが、ナオキやアズサの顔を見たところ、二人にもわかってなさそうだった。

 彼女こそが東京都知事――シラユリなのである。

 大きなつば広の帽子、黒いマントとスカート。丸メガネから垂れ下がったチェーン、指にはめたいくつもの指輪、頬に描かれた魔法陣。この部屋の装飾も、本人の身に付けている物も、一つ一つにこだわりが感じられる。

 骨のように美しい銀髪は、前髪を綺麗に切りそろえ、その下の顔は童顔で、身長が低いことと合わさって、なんとなく子供が背伸びをしている印象が否めない。しか魔法使い風のローブの胸元を押し上げる二つのふくらみは大変立派であり、彼女が大人の女性であることを証明していた。

「夢と現実の狭間の天空迷宮に迷い込んだ、哀れな羊たちよ。天空の魔法少女シラユリに何を求めるか?」

「てめえが呼んだんだろうがッ!」

 自称魔法少女に、ナオキが怒鳴り散らした。

「いきなり大きい声を出すな。マナが不安定になるではないか」

「素直にびっくりしたって言え」

「シラユリさーん、おひさでーす」

 アズサが親しげに手を振ると、シラユリは「おおっ、我が弟子アズサよ。よくぞ無事に帰還したな」と手を振り返し、マントとスカートをひらりとなびかせ、文机から飛び降りた。

「それから少年ケイも久しぶりじゃ。歓迎するぞ」

 メガネの奥のつぶらな瞳を向けられ、ケイは「どうも、お久しぶりです」と答えた。

「この者は初めてお目にかかるようじゃが?」

 シラユリがメガネを直しつつ、尋ねた。

「俺はペガサス。横浜ペガサス会のリーダーだ」

「ペ、ペガサスじゃとっ……!?」

 シラユリが大声を出した。

「なんだ? 知ってんのか?」とナオキ。

「否。しかし、ペガサスとは空飛ぶ馬……つまり天空の魔法少女の眷属に相応しい名じゃ。歓迎しよう」

「ケンゾク……? なんだそれ」

 ペガサスはナオキ、ケイ、アズサに尋ねたが、誰も答えなかった。

「で、いきなり乱暴に呼びつけて何の用だ?」

 ナオキが単刀直入に話を切り出した。

「まあ待て。今、椅子を用意する。暗黒呪文イース・ダーセ!!」

 シラユリが呪文――もとい命令を唱えながら杖を振ると、部屋の隅っこに潜んでいたらしい黒子たちがサッと椅子を四つ並べ、また隅っこに下がった。

「座るがよい」

「いちいち、めんどくせえヤツだな……」

 一同はそれぞれ椅子に腰かけた。

「お主らの耳――否、脳にも聞こえていたじゃろうが、東京――否、人類はヴァーギという侵略者に宣戦布告を受けた。敵――ヴァーギの情報はほぼ無いに等しいが、その技術力は人類を遥かに上回ると見られる。そのことは、ヴァーギが地球に放ったセルヴァという生物を見れば、一目瞭然じゃ」

「あんたも見たのか?」

 ペガサスが尋ねた。

「直接見たわけではないが、報告はあがってきている」

 きっと荒唐無稽な報告だったに違いないが、シラユリはそれを信じたということか。

「三か月後にヴァーギは平和的な手段で人類と勝敗を決めると言っている。その決着の方法は人類が決定権を持っている。ここまで、お主らも聞いたじゃろう?」

 四人とも首を縦に振った。

「ヤツらと戦争しても勝てない。ならば、サッカーで勝つしかない。そうは思わんか?」

 他に選択肢はないのか? 戦争を回避し、侵略されずに、人類が生きていく道は……?

 ケイが考えていると、ナオキが口を開く。

「ヤツらもこっちがサッカーを選ぶことは分かってるはずだ。あんなに自信満々なんだぞ、空を飛んだり、瞬間移動したりするくらいはできると考えておいたほうがいい。どうやっても人類に勝ち目はない」

「空を飛ぶことも、瞬間移動も、禁止すればよい。なんせ、ルールはこちらが作れるんじゃから。決戦の時までに競技のルールを改定してはいけない、とはヤツらは言っておらん」

「それは……」

 ナオキが黙った。

「ゆえに、そういう、考え得るチート行為をルール上、片っ端から禁止だと明記しておく。その上で、人類最強チームを作ってぶつければ、まあ、少しは勝てる可能性があるじゃろう?」

 確かに、とケイは思った。もしもルールを改定することによって、人類とヴァーギが対等に戦えるとしたら、歴史上、長くサッカーをしている人類のほうが有利なのではないか。

「我は最強のルールブックを作る。ナオキ、お前は地球軍リーダーとして人類最強チームを作れ」

「お断りだ」

 ナオキが椅子から立ち上がった。

「それはもう俺の仕事じゃない。俺は引退したんだ。もう帰るぞ」

「侵略者にビビッておるのか? お前らしくもない」

「黙れクソババア!」

「じゃあお前は我と同じで三十五なんだから、ジジイじゃ!」

「マジか!?」ペガサスが目を丸くしたのも無理はない。「俺はてっきり、十四くらいのガキかと……」

「十四歳で都知事になれるか、たわけ。ちなみに我は十歳ですでに都知事じゃったが」

「……なれるじゃねーか」

「とにかく俺は引き受けるつもりはねえぞ」

「まあ待て。ヤツらが降りたのはニューヨークでもロンドンでもなく、この東京。現代サッカーの聖地であり、我が天空迷宮の足元。どう考えてもここに地球軍のリーダーに相応しい者がいるからこそ、ヤツらは東京を選んだのじゃ」

「まあ、ヤツらが東京に降りてきたってのは偶然じゃねえだろう。ヤツらなりに調べた上だ」

「それってやっぱり、ナオキがいるからじゃ……?」

 アズサがナオキを見たが、ナオキはそっぽを向いて出口へと歩き出していた。

「10年前なら俺はそう思っただろうが、今はもう違う。時代の主役はもう、お前らなんだよ。だから俺はやらない」

 ナオキはドアの前で立ち止まる。どうやらまだここにいてくれるらしい。

 ケイとしては、実績も実力もあるナオキが人類最強チームを率いるのは、妥当に思える。引き受けてくれればいいのだが……。

「では、ケイ。お前が人類最強チームを作れ。リーダーじゃ!」

「は? ……いやいや! 俺じゃ実力不足だっ。まだ十六だし!」

「我は十歳から都知事だったと言ったじゃろう」

「それはそれで、とんでもないけど、人類代表のリーダーなんて、さすがに……」

「意気地なしじゃのぅ……。じゃあアズサ、頼んだぞ」

「はあ!? 無理無理無理! 無理なんですけど!?」

「なぁに、女だからと遠慮する必要はないのじゃ。我の弟子として地球を救うのじゃ!」

「無理です遠慮してません!」

「じゃあ、ペガサス! と言いたいところじゃが、今日会ったばかりで実力も知らんしのぅ……」

「だけど誰もやらねえなら俺がやるしかねえだろ」

「いや、お前は却下だ」とナオキ。

「おい、なんでだよ」

「お前が地球のリーダーだと、なんとなくムカつくし、人類がアホだと思われる」

「なんだとコラァ!?」

「ペガサスはナシなのじゃ! なんとなく!」

「あたしもペガサスはナシだと思う」

「おいお前ら俺の実力見せてやろうか!?」

「お前の実力はもう見たから結構だ。地球のリーダーはどう考えても、若い二人のどっちかしかないだろ。アズサ、ケイ」

「イヤよおおおおお!! サッカーうまい人なんてそこら辺にいくらでもいるでしょーが! なんであたしが地球のリーダーとかやんなきゃいけないの、あたしはメイド喫茶の店長ができれば満足なのに!」アズサは頭を抱えて、ツインテールを振り乱してもだえる。

「俺も、地球のリーダーなんて、イメージ湧かないし、もっと相応しい人が、世界を探せばいくらでもいると思うし……」ケイは俯きがちに呟く。

「おい、これじゃ埒(らち)が明かねえぞ。やっぱり俺がハマの実力を――」

「いいのかケイ、お前がやらねえと、こんなヤツが地球軍リーダーになっちまうぞ? それで胸張って生きていけるのか?」

「いや、そんなことになったら、人として二度と上を向いて歩けない」

「あたしも、そんな気がする……」

「お前ら、俺の扱いひどすぎねえか……? ヨコハマビトに対する差別か?」

「よーし、決めたのじゃ! 地球軍リーダーは保留にする。その代わり、人類代表チームのメンバー探しには協力してくれ。最終的に集まった猛者の中から何らかの方法で決めるのじゃ!」

 それを聞いて、ふう、と安堵の息を漏らすケイとアズサ。

「できることなら協力するよ」「あたしもお店の合間なら」

「だがよ、メンバー探しなんて必要ないんじゃねえか?」

 そんなことを言い出したのはペガサス。

「だってヴァーギとの決戦の場所は、東京なんだろ? だったら世界中の猛者たちが勝手に集まってくるんじゃねえか?」

「確かに! どう考えても人類はサッカーで戦うしかないから、サッカーに自信のある人なら、東京を目指してくるはずだ」

 ケイはペガサスの言う通り、何もしなくてもよさそうだと思った。だがシラユリが首を横に振った。

「もちろんそのくらい、我も予想しておるのじゃ。すでに世界中の人類代表候補者をリストアップするよう、部下にも命令してある」

「なら、あたしたちがわざわざメンバーを探しに行く必要もないんじゃないの?」

「いいや、あるのじゃ。ケイ、アズサ、ナオキ、ペガサス……おぬしらには、何人かのド級の猛者を東京へ連れてくるために、世界を回ってもらう。どれも一筋縄ではいかぬじゃろうが、仲間にすれば、人類が勝つ確率は跳ね上がるじゃろう」

「そんなにすごい人が……!?」

「ヴァーギにも通用するような人間がいるってのか?」

「恐らく、とてつもない資質、才能、技を持っておる。そこにおる、伝説のプレーヤー、ナオキの全盛期をも凌ぐほどのな」

 ケイは、ナオキのこめかみがぴくりと動いたのを見た。その瞬間、シラユリが帽子のつばの下でにやりと唇を歪めた気がした。

「ナオキ、お前は最強じゃったが、真っ当なヤツらの中での最強にすぎん。じゃが、世界には人間という領域から片足を踏み外したようなヤツもおるのじゃよ」

「おいイカレ都知事。お前の情報は確かなんだろうな?」ナオキが食ってかかった。

「当然――と言いたいところじゃが、眉唾物じゃ。それでも確かめる価値はある」

「けっ……! ダメじゃねえか」

 ナオキが悪態を付く。

 だけど、そんなにすごいヤツがいるのか? 真っ当な人間を超えた人間? そいつらは、一体どんなサッカーをするというのか? この目で見てみたい、という好奇心が沸々と湧き上がる。

「東京ワープゲート、オープン!」

 シラユリが唱えると、ケイたちとシラユリとの間に、突如として巨大な光の魔法陣が浮かび上がった。ぼうっとした青白い光を放つそこから、細かな光の粒子が重力に逆らって天井へと登っていく。

「これが、世界に十か所しかない、ワープゲートの一つ……!」

「そのレプリカじゃ」

 よく見ると黒子たちがライトアップしているし、立ち昇っているのは湯気だった。

「おいババア! 本物を使わせろ!」

「分かっておるから、そう急かすんじゃない。マナが乱れるじゃろうが。それに随分とやる気のようじゃの?」

 シラユリはニヤニヤした顔をナオキに向ける。

「べ、別にやる気があるわけじゃねえ! こいつらだけじゃ、いろいろと心配なだけだ」

「ほほう、ナオキは随分と優しいのう」

「おい何が言いてえんだ、ババア?」

「別に何も言うつもりはないがのう……。ナオキが後輩を心配するとはのう……雪でも降るんじゃなかろうか」

「もう宇宙人が降ってんだよ。雪くらいじゃ誰も驚かねえ」

「そうじゃの」

 シラユリは勝手に何か納得したように何度も頷いた。

「お前たち、そういうことなのじゃ。世界を飛び回り、最強メンバーをスカウトしてくるのじゃ! 準備ができたら、再びこの天空迷宮を訪れるがよい」

「……あたしたち、どこに飛ばされるの?」

 アズサが行きたくなさそうにケイに尋ねる。

「最初のワープ先は、魔術都市ロンドンなのじゃ!」

 地獄耳シラユリがケイの代わりに答えた。

「そんな遠いところ嫌よおおおおおおお! あたし、お留守番したい! っていうか協力するとは言ったけど、そんなところまで行くとは言ってないんですが!?」

「アズサよ、諦めが悪いのじゃ。我の弟子ならイギリスでもエジプトでも黙っていくものじゃろうに」

「ロンドンの次はエジプトなのね!?」

「さあ、導かれし者たちよ。旅は想像以上に厳しくなるのじゃ。しっかりと準備をすること。では、去るがよい。……暗黒呪文ドーア・アーケロ!」

 シラユリが杖を振ると、黒子たちがサッと動いて背後のドアを開けた。

「帰って準備するぞ」

 ナオキが立ち上がって、ドアの方へ向かう。

「ちょっとナオキ!? あんた最初は全然協力する気なかったのに、なんなのよ!?」

「俺もちょっくら準備してくるぜ」

 ペガサスが続いた。

「ちょっとー! あんたたち、なんでそんなに物分かりがいいのよ……」

 あとには、ぶくっと膨れているアズサとケイが残された。

「お店が壊されなくて済んだかと思ったら、ロンドンに飛ばされるって、どういうこと?」

「全部、とんとん拍子で決まってったよな……。俺、ほとんど何も発言しなかったし……」

「ケイ、自分の意見はちゃんと言ったほうがいいよ。嫌なことは嫌だとか」

「ロンドンですごいプレーヤーを探すのは、嫌ってわけじゃないけど、あまりにあっという間に決まっちゃって、まだ現実味がないというか……」

「ケイは嫌じゃないんだ? 行きたくないのは、あたしだけかー」

「覚悟を決めろってことかな……。東京から出るなんて、初めてだ」

「そういえば、あたしも初めてかも。こうなったら世界旅行と割り切って楽しんじゃおうか」

「そうだね、すごいプレーヤーを見つけるのはナオキとペガサスに任せておけばいい」

「それはいい! あいつら、やる気になったら、あたしたちなんていらないよ! 着替えとかいろいろ準備しなきゃ~」

「じゃあ、シラユリさん、俺たちも帰ります」

 ケイは頭を下げる。

「シラユリさん、またね」

 とアズサが手を振る。

 シラユリはうんうんと頷き、手を振り返した。

「たっしゃでのう、二人とも」

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