モンスター化したジーナの戦闘力は、沼地で宮本と戦った時よりもはるかに強化されていた。
――鋭い虎の爪が宮本が放った一撃と衝突した瞬間、まるで雷のような轟音が広間に響き渡った。
宮本の突進は一瞬で止まり、二つの巨大な力の衝突によって彼の体がわずかに揺れた。
その一方、剣歯虎の姿をしたジーナの体はその一撃を受けて多少耐えたものの、制御が効かず、数メートル後ろに飛ばされてからようやくバランスを取り戻した。
単純な力の面では、モンスター化したジーナよりも局部モンスター化した宮本の方が圧倒的に強かった。
――だが
その一瞬のジーナによる妨害で、残りの傀皇たちは次々と仙人スキルを発動させ、さらにはモンスター化して宮本を取り囲み、霊巫王に向かう宮本の進行を妨げた。
「チッ…しつこいな」
宮本は十三体の傀皇の攻撃を必死に防ぎながら右手を空中で握りしめ、雷霆の力を集め始めた。
周囲の者から見ればほぼ一瞬のことだったが、お馴染みの巨大なハンマーが虚空から凝固し、現れた。
「やっぱこいつらを先に片付けないと、か…」
ハンマーを握った宮本の腕には黒い物質が絡みつき、紫色に輝くそのハンマーに不気味な黒が加わっていった。
――ズッズッズッ
宮本はハンマーを振り上げ、空中に向かって一閃し……
すると、黒に近い濃い紫色の雷球が次々と生まれた。
瞬く間に百個以上まで生成された雷球が、アサルトライフルの連射ように飛び出した。
シュシュシュシュシュシュ…
雷球は一瞬で十三体の傀皇に向かって飛び交い、攻撃を始めた。
宮本の配信は、同接数は既に驚異的な数字に達していた。中には多くの探索者たちもその戦いを観戦していた。
:霊巫王って汚い手しか使わないよな、ザコたちを操るくらいしかできないじゃん
:ザコじゃないだろ、全員Gamma級やDelta級だぞ。それがザコだったら俺らはドブ以下だわ
:こいつらを倒さないと難しいだろ
:でもこれって人間を殺すことになるんじゃ?みんなまだ人間だろ…
:殺すか殺されるかだよ
:でも全員英雄だから…殺すのはちょっとな
:別にいいんじゃね?だって今完全に霊巫王に支配されてんだし、おじさんもこの戦況で他に選択肢ないじゃん
:殺したら後々炎上されそう
:ここで命落とすよりかは…
……
視聴者たちはその戦況に引き込まれ、コメント欄はますます熱気を帯びていった。
――ライーン会長のオフィス。
年老いた会長は、パソコンの画面に視線を集中させ、意味深な笑みを浮かべながら、指を素早くキーボードに動かし、宮本の配信にコメントを送信した。
そのコメントには、彼のフルネームが表示されている――
――ライーン・ハーディス
ライーン・ハーディス:夜帝を名乗ったあの混沌とした輩を、小僧、お前が片付けてくれ。だが、無関係な者を傷つけぬよう、くれぐれも注意しよう。
ライーン会長の地位と影響力により、彼のアカウント名は特別な表示方法で視聴者の目に映る。
——コメントが送信されると、すぐにハイライトや固定表示が施され、視聴者の注目を一瞬で集めた。
:えっ
:ライーン会長…!?
:?!??
:会長が宮本おじさんに難題出してるw
:ライーン会長みたいな方もダンジョン配信を見るんだ
:おじさんくらいの強者じゃないと会長の目を引けないのでしょうね
:霊巫王を倒すだけでなく、彼が操る人間たちを守るなんて、おじさん大変
宮本は激しい戦闘の中で、配信デバイスを通じてライーン会長のコメントを瞬時にキャッチした。
(会長、俺の配信を見るとは………暇か…?)
(まあでも、言われなくともそうするつもりだぜ!よしっ、みんな、見ててくれよ!)
雷球が一見すると強力に見えるが、その攻撃対象は霊巫王に強化されたGamma級とDelta級の強者たち。これだけじゃ彼らにはあまり効かない。
…それどころか、その中の強めの傀皇は雷球を一振りで軽く叩き落とした。
しかし宮本は全く気にせず、ハンマーから次々と雷球を発射し続けた。
――百、千、万。
その数はあまりにも多すぎて、点と点が繋がり、段々と線、面となった雷球が、宮本を中心に半径50メートルの範囲を包み込んでいた。
その間、宮本はただモンスター化した驚異的な肉体を駆使し、十三体の傀皇の猛攻をそのまま身体で受け、モンスター化されたジーナよりほんの少しの傷まで負った。
これらの雷球は、十三傀皇に対して大きなダメージすら与えることができなかったため、冷静に見守る霊巫王を含め、誰もこれらの雷球の威力に気に留めていなかった。
宮本の配信内では、コメントも次第に混乱し始めた。
:この攻撃強さが足りない!
:防御すら突破できてないじゃん
:効かない攻撃をそんなに撃ってどうすんねん
:やっぱおじさんまだ戦闘経験が足りないかも…こんな広範囲の攻撃は今の状況には向いていない
:もっと強力な技使ったほうがいいよ
:今まで使わなかった技だな…まだ何か隠しているとか?
――が、その時、パソコンの前に座るライーン会長は手でひげを撫でながら、目を細めて笑みを浮かべた。
(ほほう。これはこれは、なかなか面白い戦略だな。しかも何の学習も受けていない、まさに生まれつきの本能によるものか…)
「宮本次郎…実に面白い小僧やのぉ」