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第74話 影の奇襲


沼地の一角——

アリスたちは、すでに戦況に圧倒されつつあった。


アリスは、ペンダントを粉々にして膨大な影の力を吸収した結果、全く動かなくなっている。

その間、神楽、山崎と九尾は必死に彼女を守り、周囲の傀儡軍団に対して立ち向かっていた。


百メートルほど離れた場所で、ミダロンが耳元まで裂けた口を大きく開け、狂ったように腰の太鼓を打ち続けている。

その太鼓の音に支配された傀儡軍団は着実に優位を占めており、時間が経つにつれ、その優位性はますます拡大していった。


――何しろ、傀儡には疲れという概念がないからだ。


が、ミダロンは気づいていなかった。

彼の位置から少し離れた陰の中から、驚異的なスピードで何かが近づいていることに。


その影は音もなく進み、警戒をかける間もなく迫ってきた。

ほんの一瞬のうちに、その影が地面を突き破るように現れ、急に空を切る稲妻のように、その速さは音速を超えるほどだった。


――突如として、太鼓の音が止まった。


周囲にいた傀儡たちも、その音の停止を察し、すぐに動きを止め、目を虚ろにしたままその場に立ち尽くしていた。


そして、その影が空を裂くと、ミダロンの醜悪な首が空中に浮かび上がり——


それが断首されていることが明らかになった。


ミダロンの体は、慣性でその場に立ち続けていたが、首からは惨めな緑色の血が噴き出していた。

その光景はあまりに異様で、不気味なものだった。


アリスの口から口笛が発せられると、ミダロンの首を切った影(何か)が、彼女の肩に飛び乗った。


みんなもようやく「影」の正体を知ることとなった――


それは、ほんの腕ほどの長さで、全身がふわふわした毛で覆われた真っ黒なフェレットのような生き物だった。

現在、アリスの肩に乗り、まるで功績を誇るかのようにドヤ顔で「チー」と鳴きながら可愛らしく振る舞っている。


神楽たちの好奇心満ちた目線が、アリスに向けられているのを感じ取ったアリスは、力の過度消耗により疲れた顔を微笑みで和らげながら言った。


「皆さまに紹介しますわ。こちらは私のVIII級ペットモンスター、影獣ノクシスです。普段は私が空間系秘宝で作った影の空間で寝ているのですが、私の仙人スキルと完璧に相性が良くて…血を惜しまず影の力を注ぎ込んだ結果、この小さな子でも、あのモンスターを倒すことができるのですわ」


その言葉を聞いた二人は目を丸くし、アリスのペットの実力に感心しながらも、ノクシスを可愛がり始めた。


一方、神楽によって揉みくちゃにされノクシスを見た九尾は心の中で嫉妬心が芽生えた。

特に、ノクシスが神楽の胸の中で転がるのを見た瞬間、九尾は即座に子狐の姿に戻り、スッと神楽の胸元に飛び込んだ。


キュウは「無意識」に尻尾を振り、まるで自分の縄張りを守るかのように、ノクシスを払いのけた。


________________________________________


黒魂の城の広間——


宮本は半身をモンスター化させ、まるで古代の凶獣が現れたかのような、最も粗暴で直感的な戦い方で、十三体の傀皇と激しく衝突していた。


その戦闘はまさに力対力の衝突であり、周囲の空気を震わせる轟音と共に激しさを増していく。

戦いの音は大地を裂くようで、どこか異常な迫力を感じさせ、視聴者たちの息を呑ませていた。


宮本の暴力的な戦い方に対し、傀皇たちも一切引かず、激しく衝突を繰り返している。


その音が立つたび、周囲の視界が揺れるような迫力が広間に広がり、戦いはますます激化していった。


配信を見ていた視聴者たちはその光景に圧倒され、コメントすら送れないほどだった。

:(3000円投げ銭)ヤバすぎ

: なんか以前黒竜を瞬殺した時より強くなってない…?

: このエセ夜帝、今頃後悔しているだろうなw

: 俺も遺伝子解放者になったら、宮本さんみたいに強くなりたい!

: これぞ最強おじさんだ!!

:(100000円投げ銭)私もそういう乱暴な扱いされたいです♡



霊巫王は、その深い黒い瞳にほんのり怒りの色を浮かべていた。

――宮本の強さは彼の予想をはるかに超えていた。


「っふん、宮本よ。貴様が力をつければつけるほど、我にとっては喜ばしいことだ。その肉体も、魂も、やがて完全に我が支配下におかれることになる…」


霊巫王が言いながら不気味に笑い、手に持った杖を軽く振った。


その瞬間、宮本を取り囲んでいた十三体の傀皇たちの圧が急激に高まり、戦場の空気が変わった。

――まさか、それぞれが仙人スキルを解放したとは。


突如として爆発的な力が放たれ、宮本のプレッシャーは一気に増した。

もしもモンスター化した防御力がなければ、Delta3級の者でもこの攻撃を耐えることは数秒が限界だっただろう。


傀皇たちの仙人スキルは個性豊かで、互いに絶妙にシナジーを発揮し、1+1が2を超えるような連携を見せつけた。

それは霊巫王が30年の歳月をかけて築き上げた恐るべき実力の結晶そのものであった。


――ドン、ドン、ドン、ドン、ドン!


宮本は数発の攻撃を直に受けた直後、その巨力で一時的に体が制御できなくなって吹き飛ばされたように見せかけ――

本当は途中で足元を踏みとどまらせ、急転直下の攻撃を繰り出した。


その拳から放たれた衝撃波は、音障を破り、爆風のように広間を震わせた。


次の瞬間、宮本の拳は霊巫王の目の前、わずか10メートルの距離で振り下ろされていた。


(…この霊巫王を倒せば、彼たちも目を覚ますだろう)


戦いが進む中、宮本は依然として誰にも致命傷を与えようとはしていなかった。


もし本気を出していたなら、あの黒竜すら瞬殺する力を持つ宮本が、十三体の傀皇を完全に圧倒するのは間違いない。


――宮本の目標は、最初から最後まで一貫して霊巫王だった。


その拳があまりにも速く、霊巫王は考える暇もなくその攻撃は既に目の前まで迫ってきていた。

霊巫王は、魂の監獄の唯一の伝説級モンスターとして、その強大さは精神能力にあり、肉体的な力ではX級の黒竜にすら劣る。


そのため、もし宮本のモンスター化した全力の一撃が当たれば、間違いなく瞬殺できる。



――が、その時、突然どこからともなくトラの咆哮が響き渡る。


三メートルほどの高さと六メートルもの長さ、そして明らかに全身が力に満ちた赤と金色の剣歯虎けんしこが、突如として現れた。


その前足に輝く鋭い爪を光らせて、空気を裂いて宮本の拳と激しくぶつかった。



――それはジーナのモンスター化。


――力と速さの究極の融合。


虎帝ガリオンである。


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