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第73話 13体の傀皇


北海道のとある山奥——

ここは、SSS級ダンジョン「グリーンヴァレー」の入口である。


美月とそのチームのメンバーは現在、TOPギルドのメンバーと合流していた。


今回の任務には、TOPギルドから二人が派遣されており、そのうち一人は、TOPギルドの中でも、まさにトップに立つ副ギルド長、20年前から全国に名を轟かせているDelta3級の強者、「長門 龍治ながと りゅうじ」である。


彼の年齢はすでに60歳を超えていたが、その姿には老いの影すら感じさせない。

戦闘用ベスト一枚で、無駄のない筋肉が張り詰め、その体はまるで猛獣のように雄々しく、身長もほぼ2メートル。

体格は巨体そのもので、彼の前に立つ探査部部長の坂本ですらチビのように見える。特にその筋肉量の差は、まさに雲泥の差だった。


龍治と一緒に来たもう一人のTOPギルドのメンバーは、近年急速に名を馳せたDelta3級の「音師 颯おんし はやて」。


「琴魔」の異名を持つ彼は、見た目は普通の若者だが、目を引くのはその背後に掛けられた黒い布で包まれた巨大な何か――

内部は見えないが、その物体が放つ威圧感は明らかだった。


「よろしくお願いします」

颯は柔らかな微笑みを浮かべながら、美月と握手を交わす。


美月はその手を軽く握り返し、頷きながら答える。

「こちらこそ。では、出発しましょうか」


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ライーン会長のオフィス――


田舎のおじさんのような風貌をしたライーン会長は額に手を当て、TOPギルドの現ギルド長との通話を終えた。


「宮本って小僧…。北海道に来たばかりだというのに、もうダンジョンに行ってしまったか…。美月と一緒にグリーンヴァレーに行かせるつもりだったが、今となっては間に合わんやろうな…。それにしても、龍治くんがちょうど空いてて助かったのぉ。グリーンヴァレーの探索が遅れるわけにはいかんからな……」


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黒魂の城の大広間。

宮本の一言が明らかに霊巫王のプライドを刺激し、怒りを爆発させた。


「我が威厳を前にして、無知な者がそのように振る舞うとは、愚かにも程がある」


霊巫王は王座から一歩立ち上がり、手を振り上げると黒いエネルギーが凝縮され、激しい力を湛えたエネルギー玉が形成される。


手をひと振りすると、その破壊的な力を帯びたエネルギー玉が流星のように宮本の顔面を狙って飛び込んできた。


――が、宮本は微動だにせず、冷徹な表情を浮かべたまま両腕を交差させしっかりとガードを固める。


バンッ!!!


黒いエネルギー玉が宮本に接触した瞬間爆発的な衝撃が走り、周囲に激しい気流が巻き起こった。

爆風と煙が立ち込め、空気が震える中、宮本は一歩後退し、ようやく体勢を整えた。


霊巫王の実力を試すため、攻撃をすべて肉体で受け止めた宮本の顔には冷徹な微笑みが浮かんでいた。


(ふーん。この偽夜帝、きっと伝説級モンスターの霊巫王だろうな。にしても、これだけじゃ黒竜の方がダントツ強いな…。ふむ、モンスター化の力をフル解放すればもしかしたら一撃で……)


宮本は数瞬で自分の戦闘スタイルを再評価し、次の行動を考えていた。

その間に、無駄に終わった攻撃を見た霊巫王は内心で驚きを隠しきれなかった。


彼が放った「黒霊球」は、物理攻撃と精神攻撃の両方を兼ね備えた強力な技であり、その真の強さは破壊力だけでなく、相手の精神を侵食することにあった。


だが、宮本がその攻撃を肉体で受けても、身体的にも精神的にも異常を感じることはなかった。


――霊巫王はその事実に戸惑いを感じた。


ジーナと戦った際には「黒霊球」一発で彼女の精神を完全に粉々にしたが、宮本には全く効かない。

確かに宮本はジーナより強いと言えるだろうが、これほどまでに完全に無反応でいるとは思っていなかった。


霊巫王が動揺するのも無理はなかった。

なぜなら、彼は宮本の “”について何も知らなかったからだ。


宮本の体に流れる力――

それは単なる遺伝子解放や筋力強化ではなく、バルトの力による肉体と精神の融合だった。


宮本はこれまで精神の力に触れたことがなかったため、意識的に利用したことはなかったが、その力は自動的に宮本を守り、霊巫王の精神攻撃を完全に無効化していた。


霊巫王は一瞬だけ動揺したが、すぐに冷静さを取り戻すと、再度攻撃を仕掛ける代わりに手を空中に振り上げ、黒い杖をあらわした。

その杖はまるで霊巫王の威厳を象徴するかのように、深い闇を宿していた。


「我が存在が貴様の理解を超えていることを、今ここで教えてやる」


杖にあったヘビの目のような宝石が妖しげな光を放った瞬間、広間の両側に立っていた十二体の石像がまるで命を吹き込まれたかのように動き出した。


「宮本よ、貴様はこの我が定めし運命に従い、必ず傀皇となる。その力を、今ここで試すがいい」


霊巫王は冷酷な笑みを浮かべ、傀皇の力を示すべく、指示を下した。


霊巫王の言葉が終わると同時に、十二体の石像が活気を取り戻し、ジーナと同じく目に白目が無く、全てが黒い瞳に変わった。


――そして、ジーナ含め、総勢十三体の傀皇が一斉に宮本へ向けて凶暴に突進してきた。


この十三体の傀皇は霊巫王が30年もの歳月をかけて集め、強化した精鋭たちだ。


最も弱い傀皇でも、かつてはGamma級の強者であり、半数はDelta級の実力を持っていた。

しかも彼らはかつての人間としての姿を完全に超え、霊巫王によって強化された存在となっている。


その中でも特に強力なのがジーナで、宮本が現れる前までは霊巫王が最も期待していた存在であり、一度霊巫王によって準Epsilon級にまで昇格させる計画が進められていたほどだ。


十三体の傀皇による攻撃が開始され、宮本はその圧倒的な威圧感に今まで感じたことのない危機感を覚えていた。


「モンスター化!」


――迷うことなく、宮本は即座に自らの力を解放した。


遺伝子解放者としての時間はまだ浅いが、戦闘経験だけが豊富な宮本は躊躇なく黒い物質に覆われた両腕を振りかざす。


次第に、黒い物質が全身を包み込み、彼の体に広がっていく――


その力に無意識に興奮した宮本は、獣のような低い唸り声と原始的な咆哮を響かせた。


ウェイスグロ防衛戦では、宮本はバルトのモンスター化の力を兵器に加えたが、今回はその力を初めて自分自身に直接施すこととなった。


その感覚は全く異なり、すべてを圧倒し、粉砕し、飲み込むような感覚が体中に広がっていく。



宮本の配信では、視聴者数が未だに恐ろしい勢いで増加し、多くの探索者すら配信を見始めていた。

:うわっ真っ黒

:伝説級モンスターとマンツーマンなんて…Delta3級のグループでも作戦を練らないと倒せない相手だぞ

:明らかに人数の差で不利じゃないか? 卑怯だろこれ

:カメラ目線よい

:これぞ男らしい戦いだな

:えーん、遺伝子誘導薬を注射したばかりでまだ弱いけど、現場に行って力を貸したい…!

:(10000円投げ銭)だいぶ日焼けしてるけど、服さえ着なければそれでよし

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