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第69話 ジーナ


キヌスを倒した宮本は配信を見ていた視聴者たちと交流しながら、仲間たちの状況を知り、すぐにでも向かおうとした。

しかし、彼が動き出そうとした瞬間——


ズバァッ——ン!!!


遠くから疾風のような影が迫る。空気を切り裂く衝撃音とともに、地面を叩く強烈な着地音が響き渡った。


砂埃が舞い、地面には細かい亀裂が走る。

その場に降り立ったのは、一人の女剣士だった。


彼女は精緻な銀の鎧をまとい、しなやかで引き締まった体を際立たせている。

肩にかかる金色の髪が微かに揺れ、手には鋭く輝く西洋剣を握る。

冷徹な瞳はまるで氷のように澄み切っており、美しい容姿とは裏腹に、近寄りがたい威圧感を放っていた。


(……モンスターか? それとも、人間……?)


突然の乱入者に宮本は足を止め、警戒しながらじっと相手を見据えた。しかし、相手の正体を見極める間もなく——彼女は一瞬にして動いた。


剣が放つ鋭い銀光が、流星のように宮本へと迫る。


「——ッ!」


それはまさに一撃必殺の刺突だった。

宮本の反応速度をもってしても、ほんの僅かに回避が遅れそうになるほどの速さ。


シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ、シュッ——!!!


七閃。

まるで舞うように繰り出される連続攻撃。


神業ともいえる剣術は、宮本の回避行動すら完全に封じていた。


「チッ…!」


宮本は瞬時に体をひねり、なんとか六撃を回避したものの——


ビリッ!!


最後の一撃が宮本の胸元に命中し、服が裂け、剣先が銀光を放ちながら、宮本の胸に浅い傷を刻んだ。


(……これ、絵里さんが買ってくれた高級シャツなんだが?借金まみれの俺にとって超貴重な服なのに…!)


宮本はため息をつきながら破れたシャツを見下ろすと、一瞬躊躇した後思い切り破り捨てた。

現れたのは戦いに鍛えられた鋼のような肉体。完璧な筋肉のラインが露わになったが、彼の目にはほんの少しの「惜しさ」が滲んでいた。


宮本の配信では、女剣士・ジーナの登場によりコメント欄は嵐のように溢れ返った。


:すげぇ…めちゃくちゃ美しい剣術

:この女剣士、どこかで見たことあるような…

:やばい、心臓止まるかと思った!服が破れただけでよかった……

:モンスターじゃないよな?

:こんな剣術を使うモンスターなんて見たことないよ

:あっっっ!!思い出した!!あの人だ!!!

:風刃の剣豪・ジーナだ!!T社のトップダンジョン配信者の一人!!

:マジかよ!?あの日本最強の女剣士って言われてるジーナ!?

:まって、最後にジーナの配信を見たの、半年前だぞ…?

:たしかあの時も魂の監獄を攻略してたような

:その後、突然配信をやめたんだよな。ネットでは"引退説"や"ダンジョンで死亡説"まで流れてたけど

:ってことは彼女、ずっとこのダンジョンに…?

:おじさん、相手は人間だよ!モンスターじゃなくて探索者!きっとなんかの誤解だよ!!

:いやいやいや、これヤバくね? 失踪した“風刃の剣豪” vs “ウェイスグロの英雄”って、ガチで歴史的対決じゃん…


…………


コメントが次々と流れ、宮本はその情報を即座にキャッチし、驚きを隠せなかった。彼は眉をひそめ、目の前の女剣士に問いかける。


「君はジーナだな? 俺も君も探索者のはずだ。なぜ俺を襲う?」


宮本が相手に説明を求めようとしたが、それを遮るように音速を超えるほどの銀光が瞬いた。

鋭い銀光が空気を切り裂き、宮本の左胸を目掛けて迫る。

その一撃はただの攻撃ではなく、確実に命を奪うためのものだった。


「――ッ!」


宮本は純粋な戦闘本能だけで反応し、拳を黒い部質で包み込むと、「ガンッ!」という金属のぶつかるような音と共に、その鋭い剣光を叩き落とした。表情からは、すでに呑気さが消え去っていた。


「お前……人間じゃないな」


ジーナは返事をしないまま、さらに強烈な剣撃を繰り出す。


『風刃の剣豪』の異名を持つ彼女は、日本最高クラスの剣士と称される存在。その剣術の鋭さは、探索者の中でも頂点に立つ者のみが到達できる領域だった。

銀色の西洋剣が閃光のように舞い、無数の剣気が空間を引き裂く。


シュババババッ!!


四方八方から降り注ぐ剣の嵐が、宮本を包み込んだ。

もし宮本が局部モンスター化によって防御力を大幅に強化していなければ、今頃すでにズタズタになっていただろう。


「……強いな、でもまだまだ足りねぇよ!」


宮本はついに苛立ちを隠さなくなった。

拳から紫電がほとばしり、ジーナの剣へと叩きつける。


ガガガガッ!!


拳と剣が衝突するたびに火花が散り、衝撃波があたりの大気を震わせる。


二人の攻防はあまりにも速く、わずか数秒の間にすでに百を超える打ち合いが繰り広げられていた。


ジーナの剣——宮本の拳——


二人の戦いは、まるで芸術作品のような流麗な殺し合いとなり、配信を見ていた視聴者たちを完全に釘付けにした。



:ヤバい、こんな戦闘、映画でもなかなか見られねぇぞ

:切り抜いてY社サイトにアップしたら1000万再生いくレベル

:これが遺伝子解放者の戦闘力か…!かっけぇ!

:もうちょっと死亡率が下がったら試してみたいかも

:オワタ…おじさん、これマジでやべーやつだわ…

:(10000円投げ銭)がんばれー!

:ところでなんでこいつら殴り合ってるんだ?

:そうだよ仲間じゃねぇのかよw



________________________________________


ルートギルド、本部


巨大スクリーンに映し出された配信を見つめ、花山烈央は目を見開いた。

「ジ…ジーナ!? ジーナだ! ジーナ無事だったんだ!!」


彼は食い入るように画面を見つめる。

そこには、半年以上消息を絶っていた「風刃の剣豪」ジーナの姿があった。


「やっぱ魂の監獄にいたんだ…! 今すぐ行く! 俺がジーナを連れ戻す!」

彼の声には、抑えきれないほどの情熱が滲んでいた。


ジーナは、彼と同じルートギルドの一員であり、そして、彼が長年想い続けた女性でもあった。


三年間追い続けた恋がようやく実ったその時——

「魂の監獄」から帰還したら正式に交際を始める。

彼女はそう約束してくれた。


しかし、それ以来、彼女は消息を絶ち、まるでこの世から消えたかのように、一切の痕跡を残さなかった。


花山はこの半年間、五度にわたって救出隊を編成し、「魂の監獄」に潜入。

さらには莫大な資金を投じて、探索者の中でも「トラッキング」のエキスパートを雇い、徹底的な捜索を行った。


それでも、ジーナの手がかりは一切見つからなかった。

「花山、落ち着け。ことはそんな単純ではない」


重々しい声が響くと、背を向けていたチェアが静かに回転し、

その座には、ルートギルドの創設者であり、Epsilon級探索者の「流淵 鬼道るえん きどう」が座っていた。


「俺は行く、今すぐにでも!」花山は声を荒げる。

「…止めはしない。ただし、一人では行かせない」流渊は静かな声で続けた。


流淵はしばし考え込んだ後、言った。

白冥はくめいを同行させろ」

「……は? 白を……?」

その名前を聞いた瞬間、花山の顔色が変わった。さっきまでの熱気が、ほんの少し冷める。


「アイツ……禁固処分じゃなかったのか?」


流淵は淡々と答えた。

「白冥みたいな奴を、本気で閉じ込められると思うか?」

「……」

一瞬の沈黙。


「白冥には俺から連絡を入れておく。洞爺湖の入口で合流すればいい」



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