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第68話 宮本、霊巫王の興味を引く


宮本の拳が、まるでハンマーのように人型モンスターの顔面を捉えた。


そのモンスターが見せた、信じられないほどの恐怖の表情が一瞬で消え失せ、次の瞬間にはもう何も残っていなかった。


ただ一撃、モンスターの頭が腐ったスイカのように脆く砕け、その場で完全に命を失った。

そして、そのモンスターが操っていた傀儡たちは、モンスターが倒れた瞬間、何の動きもなくその場に立ち尽くした。



「え、ちょ、こんなに脆いのか…」


手に付いた血や肉の破片を払いながら、宮本は呆れたように呟いた。


あれほど大きな口を叩いていたモンスターが、まさかこんなに簡単に倒せるとは思っていなかった。


痛快な戦いを期待していたが、結局は一発KO。

あまりにも反差が大きすぎて、宮本は少しがっかりしたようだ。


が、宮本が気づいていなかったのは、先程彼が一撃で倒した相手が、実は「仮面ローブ」の一員であり、正式名称「傀儡操師」であるということだった。


傀儡操師はVII級のモンスターとはいえ、その実力はそれを遥かに上回っている。

その理由としては、彼らには傀儡を操る能力を持ち、その数と強さ次第では、X級モンスターにも匹敵する力を発揮できる。


だが、宮本の圧倒的な瞬発力で、キヌスが作り出した傀儡の包囲網はまったく意味をなさなかった。

宮本は一撃で王旗を突き破り、即座に仕留めてしまった。


その瞬間、宮本の配信には次々とコメントが流れ込んだ。

:かっけぇー!!!

:さすおじ!やっぱりみやおじの配信しか勝たん

:(10000円投げ銭)早すぎてワロタw

:なんか一瞬瞬きしたら終わっちゃったわ

:(5000円投げ銭)あのモンスターたち、人間っぽくねぇ?

:さっきのモンスター、人間の言葉話してる…

:(50000円投げ銭)かっこいいけど今度はちゃんと服脱いでね♡


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黒魂の城内、霊巫王の目に驚きの光が一瞬閃いた。

「キヌスが死んだのか」


侍女のように身を飾った女性剣士、ジーナがその言葉を聞いて立ち上がり、尋ねた。

「王、私が行って参りましょうか?」


霊巫王はすぐには答えず、口元に楽しげな笑みを浮かべて言った。


「仮面ローブの中でも数少ない傀儡操師、キヌスは数百体の魂を剥ぎ取った人間の傀儡を操っていた。その中にはかつてGamma級の探索者も含まれていたというのに、どんな者が彼を倒したのか、私も興味が湧いた。

 ジーナ、お前が行って確かめてきてくれ。ただし、相手には手を出さないで欲しい。そいつを黒魂の城に誘い込むんだ。キヌスを短時間で倒せるような者なら、私の傀皇にする資格があるかもしれん」


霊巫王は仮面ローブたちの王として、普通の傀儡を作る能力以外にも、遥かに強力な「傀皇」を生み出す力を持っていた。


彼が手を加えた人間は、死後その魂を秘術で操り、「傀皇」という戦闘兵器と言っても過言ではないものに変貌させることができる。

たとえば、ジーナもその一例であり、彼女は霊巫王が作り出した最も優れた傀皇であった。


傀皇にされた者は、生前の力をほぼそのまま引き継ぎ、肉体的な強さも格段に向上する。


長年、魂の監獄を守ってきた霊巫王が心を動かし、傀皇として作り上げた探索者は非常に少ない。

それも、霊巫王の力が伝説級モンスターに匹敵し、そんな存在が目に留めるような人間は極めて少ないからだ。


霊巫王の命令を受けたジーナは、静かに頭を下げて答えた。

「承知しました」

そして、次の瞬間、彼女の姿はまるで消えたように消え去った。


________________________________________



一方、沼地ではアリス、神楽、そして山崎は、激しい戦闘に突入していた。


最初は三人の実力をもってすれば、傀儡たちの包囲にもさほど苦しむことなく対処できていた。


しかし、百メートル先から現れた黒いローブに包まれた人型のモンスターが姿を現した瞬間、戦局は一変した。

それまで動きが鈍かった傀儡たちが、急に戦陣を組み、さっきの数倍の戦闘力を発揮して、一斉に無数の戦闘技術を放ちながら三人に襲い掛かってきた。


グキッ!


神楽を守るため、山崎は巨躯の傀儡の重い一撃を受け止めた。その左腕が、激しい音を立てて折れる。

痛みが走るが、山崎の表情は一切変わらない。右手の拳を振り下ろし、巨大な傀儡の胸元を連打して吹き飛ばした。


普通の人間なら、この一撃で戦闘力を失っていたに違いない。


が、相手の傀儡は胸から血と肉で滲み、骨が突き出ているにもかかわらず、まるで何事もなかったかのように戦闘の勢いを失うことなく再び攻撃してきた。


その姿は、死を恐れず、疲れをしれず、まるで戦闘マシーンのようだった。


「くそっ…!こいつらまじでしぶといな」


山崎は怒鳴りながらも、傷ついた体を無視して反撃を続けた。

(どうなっても零ちゃんを守らなきゃ……)


神楽は素早く治療系の式神を召喚し、山崎の傷を癒しながら攻撃に大量の魔力を注ぎ込んだ。

すると、酒呑童子の力が爆発し、周囲を焼き尽くすような炎が噴き出した。


一方、アリスは三人の中で最も危険な状態にあった。

彼女が一番弱いわけではない。むしろ、最も強いからこそ、敵は最強の傀儡を操り、アリスに集中攻撃を仕掛けてきていた。


「神楽さま、山崎さま!このままではダメです!突破しないとですわ!」


アリスは仙人スキル「影魅」を発動し、最強の状態に突入した。

すると、背後から十数の影が飛び出し、短時間で傀儡たちの猛攻を防ぐことができた。


「オッケー!」

山崎は神楽の元に駆け寄り、まるで護衛のように立ち向かった。


三人は次第に、傀儡の数が比較的少ない西の方向に向かうべきに気づき、そこへ突撃することを決意した。


百メートル先の黒いローブを着た傀儡操師は、三人の動きに気づいたようだったが、何も行動を起こさず、ただ不気味に笑うばかり。

まるで最初からその展開を予測していたかのようだった。


ゴゴゴゴゴゴ――


三人が一斉に突破を試みたその瞬間、地面が激しく震え始めた。


その震動の中から、巨大な傀儡が地面を破って現れた。

その姿は、黒い金属製の鎧に身を包み、3メートルを超える巨人のようだった。

手には巨大なハンマーを2つ持ち、三人の前に立ちはだかる。


「シッシッシ…逃げようだなんて、そう簡単にはいかないぞ!これが、我がミダロンの最強の傀儡だ」


ガン!


その巨大な傀儡が、たった一撃で全力を込めた山崎を弾き飛ばした。

酒呑童子の炎をもってしても、まったくダメージを与えることはできなかった。


巨大な傀儡が三人の前に立ちふさがったことで、三人の突破は完全に断たれ、アリスが発動させた影魅の影たちでさえも無数の傀儡たちによって引き裂かれてしまった。



三人は完全に絶体絶命の状態に追い込まれていた。



…その時。

神楽の服の中から小さな銀白色のもふもふ頭がひょっこり現れた。


キュウは眠たそうな目をこすりながら、ショタボで言った。

「せっかくよく寝てたのに、起こさないでよもう…。…あ…あれ?零ちゃん、誰かにいじめられたの…?」


ルビーのような目をパチパチと瞬きしながら、キュウは周囲を見渡し、仲間たちが全員傷つけられている状況にようやく気づいた。


「…………」


小さなきつねの姿が神楽の懐から閃光のように飛び出し、地面に足をつけた瞬間、周囲の空気が膨張し、その姿は瞬時に本来の形に変わった。


「お前ら全員殺す」


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