北方防衛線
後方で待機していたイリスが、ついに戦局に完全参戦した。
彼女の全身を覆うのは、紅蓮の火。その炎は彼女の体から溢れ出し、漆黒の美しい髪が狂風に吹かれるように後ろへとなびいていった。
髪の先端には火が燃え盛り、炎が全く消えることなく輝き続けている。
イリスの冷徹で無感情な雰囲気が一変し、今や情熱的な力をまとった存在となった。
イリスに触れるすべてのモンスターは、瞬く間に紅蓮の炎に包まれ、燃え尽きる。
高ランクのモンスターでさえも、彼女の前ではただ焼き尽くされるだけだった。
イリスが全力で火力を放つ中、北方戦線はモンスターとの激しい戦闘において、圧倒的な優位を得ていた。
このまま進めば、北側のモンスターの波を完全に掃討するのも時間の問題だろう。
もちろん、それにはもう一つの重要な要因があった。
それは、宮本が北方線を延々と突き進み、聖ゴリル山へ向かう過程で無数のモンスターを討ち取ったことで、北側のモンスターの波自体がすでに限界を迎えていたからだ。
一方、その頃、川谷、神楽、山崎、そして式神・酒呑童子の四者は、三角戦陣を組んで戦闘を繰り広げていた。
この戦陣では、圧倒的な火力を持つ山崎、範囲攻撃に長けた酒呑童子、そして機動力に優れた川谷が三角となり、神楽は陣の中心に立ち、全体の統制を担っていた。
「川谷さま、宮本さまはどちらへ…?」
神楽零は、多くの体力を消耗するまで禁符を使い、より強力な「日和坊」の能力を発動させていた。
この式神は、桜の精をしのぐ守護と治癒の力を持っており、彼女のサポートのおかげで、川谷と山崎は攻撃に専念でき、怪我や体力の消耗を心配せずに戦える状態だった。
神楽の問いに対して、宮本の実力をよく知る川谷は笑い声を上げて答えた。
「心配するな、宮本の強さは僕たちの想像を遥かに超えてる。仮に僕たち全員が戦死しても、彼だけは無事でいるだろうさ」
その言葉に、近くで巨腕ゴリラの頭部をマシンガンパンチで粉砕したばかりの山崎も同意し、血で汚れた顔を拭いながら言った。
「零ちゃん、今は集中して。俺たちが目の前の敵を早く片付ければ、それだけ早く宮本を探しに行ける」
神楽零の瞳に浮かんでいた不安は少し和らぎ、彼女はうなずきながら答えた。
(宮本さま…お願いだから、必ず無事でいて…!)
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聖ゴリル山の山腹
神楽零が心配している宮本は、この瞬間も黒竜からの激しい攻撃を正面から受けていた。
ドラゴンブレス、爪、しっぽ、そして牙…すべてが凶暴に襲いかかる。
かつて緑豊かだった山腹は、黒竜の猛攻により今や荒れ果て、無惨な姿を晒している。
宮本は手にした竜牙双刃で黒竜と真正面から戦うのではなく、ひたすらガードに徹していた。
というのも、現在宮本の体内ではモンスター化の試行のため、意識によって遺伝子の異なる組み合わせを試しながら正しいモンスター化の配列を探っているところだった。
通常、第四段階の遺伝子ロックを開放しDelta1級に達した人間は、自分に最適なモンスター遺伝子を選び、長期間の試行錯誤を繰り返しながら再構築と融合を行う。
この過程には大きな運も必要で、全てのモンスター遺伝子が適合するわけではなく、失敗すれば遺伝子の反作用によるリスクも伴う。
全てが順調に進めばDelta2級に進化でき、そこからようやくモンスター化が本格的に始まる。
そのため、この世界で宮本のように黒竜と激戦を繰り広げながらモンスター化を試みる者など前代未聞だった。
短い5分間で、宮本はすでに15回もの遺伝子再構築を試みていたが、未だ正しい配列を見つけることはできていなかった。
ドン!
黒竜の鋼のように硬い尾が、宮本の体側を正確に打ち据えた。
宮本は素早く腕を上げて防御したが、その圧倒的な力で100メートルも吹き飛ばされ、十数メートルの高さの岩塊に激突し、体が岩に深く埋まった。
舞い上がる岩塵があたり一面に広がり、視界を遮る。
宮本が受け身を取るこの瞬間、視聴者たちの不安が急激に高まっていった。
:どうしたんだ?なんで反撃しないんだ!?
:さっきの戦いで体力を使いすぎたのか?もう見ていられないよ…おじさん、黒竜に殺されちゃうんじゃ…
:まあ、相手はウェイスグロ最強のX級モンスターだしね。おじさんは強いけど、こんなモンスターを一人で相手にするのは無理あるよ…
:俺もその場にいて少しでも力になりたい…おじさん、がんばれ!
:誰か助けに行ける人いないのか?
:(投げ銭50,000円) あなたなら絶対勝てる!!!
一方、岩の中で、宮本は第16回目の遺伝子再構築を試みていた。
その瞬間、脳内に何かが走り、宮本には自分のものではない記憶が、まるで潮のように流れ込んできた…。
冷たく、孤独で、邪悪で荒涼とした暗黒の領域。
黒い山の山頂から小石が転がり落ち、一つ、十個、百個…と増えていく。
やがて、山が崩れ、黒い山が真っ二つに裂けた。その光景は、まるで巨大な斧で一刀両断されたかのように恐ろしいものだった。
裂け目から、漆黒の不気味な生命体が蠢き出し、暗黒の世界を長い旅路で彷徨い始める。
その途中で、その生命体は宮本の見たこともない様々なモンスターを次々と飲み込んでいった。
そしてある日、その不気味な生命体は、ついに伝説級のモンスターを呑み込んだ後、忘れがたい強敵に出会った。
それは、伝説級のモンスターを遥かに超える存在感を持つ生物だった…。
だが、記憶はここで途切れ、宮本はその強大な生物の姿を見ることはできなかった。
ただ、「
やがて岩塵が晴れ、宮本の姿が現れる。
その両腕は、異常な速さでモンスター化が進んでいた。
漆黒の物質が指先から手、腕、そして肩までを覆い尽くし、ようやくそこで止まった。
その瞬間、恐れほど圧倒的な力が宮本の腕に伝わり、漆黒の物質に包まれた両腕は瞬く間に2倍の太さになり、筋肉が爆発的に膨れ上がり、竜牙双刃さえも小さく感じるほどだった。
(これがモンスター化の力か…!)
(バルト…。君がどこに行ったのか、ようやくわかったよ…。 君は、俺の一部となり、吸収されたんだね…。可哀想だ…。 君はろくでもない存在だったと記憶の中でわかったけど、それでもこの力を得られたことには感謝している。 俺を夢の場所へ導いてくれて、ありがとう)
(…だが、なぜ、部分的だけモンスター化したんだ? まだバルトを完全に融合できていないからか?)
(それに、テホムヘルシャー…。伝説級のモンスターさえ恐れる存在って、一体何なんだろう…)
(違う、今はそんなことを考えている場合ではない。 この
(一撃必殺、決めとくか…!)
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