目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
第40話 黒竜


宮本は巨大なハンマーを振るい、一撃でモンスターたちをなぎ倒しながら突進していった。

彼はもはや大部隊から完全に離れ、単独で戦場の人けのない深い場所へと進んでいた。


宮本は氷河を越え、聖ゴリル山の頂上を目指して容赦なく突き進む。

広範囲攻撃「地割れ」を使わなくても、圧倒的な力で天雷幻槌を操る宮本のモンスター討伐効率は驚くほどだった。

群れを成して押し寄せるモンスターたちは、一撃どころか、触れるだけで命を落とすくらい、宮本の攻撃に敵う者は一匹もいなかった


戦闘の興奮に浸っていた宮本は、次第に押し寄せるモンスターたちの数が減り、群れの勢いが弱まっていることに気づかなかった。

気づいた時には、山の中腹に達していた宮本の周囲百メートル以内には、もはや討伐するべきモンスターが一匹もいなくなっていた。


ドローンの視点から見ると、北側防衛戦では依然としてモンスターが荒れ狂っていたが、宮本が進んできた3キロ先では、まるで切り離された川のように、モンスターの数が急激に減少していた。

そして後方を見下ろすと、地面一面にはモンスターの遺体が散乱しており、生き残っているものはほとんどいなかった。


聖ゴリル山の山腹にある広大な平地には、上半身裸でハンマーを肩に担ぐ宮本がひとり立っていた。

周囲にはもはや生きているモンスターの姿は一切なかった。

この異様な光景を生んだのは、もちろん一人でモンスターの群れに突入した宮本だった。


その時、彼はモンスターたちの血で全身が血染めになっており、振り返ると、自分が所属するチームの北側防衛線が圧倒的な優位を見せているのがわかった。

残り二、三キロのモンスターを掃討すれば、全滅を完遂するだろう。


(さすがだな…人類を守る力を持ってる探検者チーム、やっぱ強い!)


宮本が折り返すか、さらに頂上に向かって突き進むかを考えていたその時、空が突如として巨大な影に覆われた。

驚愕の中、鼻先に濃厚な硫黄の匂いが漂う。


宮本が頭上を見上げる間もなく、恐ろしい高温を帯びた炎の渦が彼に向かって押し寄せてきた。

不意をつかれた宮本は、慌てて天雷幻槌を振り回し、巨大なハンマーを盾として前に突き出し、炎の襲撃を防ごうとした。


聖ゴリル山の真上、空には全長百メートル近く、翼幅がバスケットボールコート一面を覆うほどの黒竜が赤い瞳を輝かせていた。

その鼻からは熱い硫黄の粒子が絶え間なく噴き出し、口を大きく開けて再び炎のドラゴンブレスを吐き出した。

標的は、もちろん宮本だった。


ウェイスグロの最強X級モンスターである黒竜が、最初に攻撃対象として宮本を選んだことは、彼のこれまでの殺戮がいかに異常なものだったかを示していた。

宮本の連続な殺戮は、ウェイスグロの意志によって彼をターゲットとしてロックオンさせ、その結果として黒竜が現れ、一人である宮本を狙うこととなった。


ハンマーを盾に三度の黒竜のドラゴンブレスを防ぎ、宮本を中心に半径数十メートル以内のすべてが激しい攻撃の下で灰と化した。

宮本でさえ、危険な気配を感じ取った。


炎が消え去る瞬間、宮本はやっと頭上から急降下してくる黒竜を見上げた。

黒竜の全身を覆う巨大な鱗は夜のように黒く、触れる光をすべて吸収し吞み込もうとしているように見えた。

威厳に満ちた巨大な頭には、二本の鋭い角が斜めに突き出ており、まるで槍のようだった。

竜の瞳には赤紫色の炎が宿り、狂気を帯びた妖しい光を放っていた。


激怒した黒竜と目を合わせた宮本の第一反応は恐怖でも、慌乱でもなく、

むしろ目を輝かせ、抑えきれない大笑いを放ち、燃え上がる戦意を爆発させた。


「ハハハハ!」

(モンスター図鑑、297ページ。伝説級になりそうなX級モンスターの一つ――黒竜。全身が宝物だらけだ!

鱗、血、ひげ、翼、骨、爪、角……

これ、取引所に持ち込んだら、想像を絶する財宝になること間違いなしだな!)


ウェイスグロに入る前、ジェイソンは戦利品の分配ルールを伝えていた。

基本的には、大部分の戦利品は後で個人の貢献値に応じて配分されることになっている。

しかし、強力なIX級やX級モンスターを倒した場合、討伐者は多額の貢献値を得るだけでなく、討伐時の貢献度に応じてそのモンスターの素材も獲得できる。

つまり、ソロで討伐を完了すれば、その討伐者がすべての素材を独り占めできるわけだ。


もちろん、ジェイソンがこのルールを伝えたのは、あくまで公平を期すためのものだった。まさか自分のチームに、ソロでX級モンスターを討伐するような隠れ強者がいるなんて、ジェイソンは想像もしなかった。


そして実は…宮本の心の中にはもう一つの望みがあった。

それが、彼の戦意を燃え上がらせる要素となっていた……


(ドラゴンスレイヤー!)

それこそが、すべての男が密かに抱いている夢そのもの。


(俺が死ぬ前に、世にも珍しいドラゴン討伐のチャンスをもらえるなんて…最高!!)

宮本の興奮は言葉に表しきれないほどで、思わず体が震え始めた。



次々と、Y社のユーザーたちがトップページの配信チャンネルを離れ、宮本の配信に流れ込んできた。

まさか、X級モンスターの黒竜が現れるなんて…。


しかも、さっきの戦いで宮本は現在、貢献ランキングの2位に確定していて、貢献値は427,000点に達していた。

1位の美月には、たった13,000点の差しかない。


ランキングの上昇が宮本に大きな注目を集め、黒竜の出現に気づく視聴者がますます増えていた。

同接数:152,032…186,200…235,787…296,588…317,741…

登録者数:416,634…495,546…586,665…696,932…725,588…


:(2000円投げ銭)おじさんすごっ!

:黒竜!???

:黒竜はやばいって…大丈夫かな……

:ドラゴンブレス、あれドラゴンブレスだったよな!!初めて見た!

:(5000円投げ銭)ダンジョン配信は何年も見てきたけど、本物のドラゴンを見るのは初めて

:人類はドラゴンの前ではちっぽけすぎる、逃げたほうがいいよ。

:これ、普通のX級モンスターじゃないよ。伝説のトップ10モンスターの一つだぞ…おじさんは確かにめちゃくちゃ強いけど、さっきも結構体力消耗したでしょ…?今は危ないんじゃ…

:(6000円投げ銭)生きて!!

:(50000円投げ銭)あなただけが頼り…死なないで、お願い…!!


________________________________________


黒竜が宮本を狙っているのと同時に、シャドータイガーとレインボースライムキングも東西両方向から戦場に突入してきた。


氷原と大島はすぐに戦闘態勢を整えた。

X級モンスターの強さは、Gamma級やBeta級の探索者たちがいくら協力しても太刀打ちできないほどだ。そのため、彼らのようなDelta3級の強者でなければ、せいぜい接近戦で持ち堪えるのが精一杯だ。


それに、仮に二人の強さでも、勝利を確約することはできない。


________________________________________


聖ゴリル山の山頂、嵐の雷竜の巣穴の中。

石川と龍太は、緊張した面持ちでダンジョンズコアをじっと見つめていた。


「もうすぐ金色に変わりそうだ…」

龍太は額の汗を拭いながら言った。

「龍太、巣穴の入口で待機しててくれ。 下層の転送ゲートが開いたら、ニーセル様からの指示を完了させに行く。 それが終わったらすぐに合流する。

…いいか、何があっても巣穴にはもう入らないで。もし5分経っても俺が戻らなかったら、仙人スキルで即座に離れろ」


龍太は一瞬戸惑い、眉をひそめて言った。

「でも…」

石川がその言葉を遮った。

「命令だ」


龍太が巣穴の外に歩き出す背中を見送ると、石川は死を覚悟した決意を胸に秘め、ポケットから恐ろしい魔力を帯びた十五角形の不規則な水晶を取り出した。

この水晶は、SSS級ダンジョンで手に入れた貴重な空間秘宝で、非常に価値が高い。

そして、これはニーセルが「空間封印魔法陣」を発動し、ウェイスグロを永遠に封印するための道具だった。


石川の任務は、ダンジョンズコアが完全に変異した後、この魔力を大量に宿した水晶を下層の転送ゲートに投じること。

それが、ニーセルの「空間封印魔法陣」が成功するための、最も重要なカギとなる。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?