ウェイスグロ北側での戦闘は突然始まった。
火蓋を切ったのは、VIII級モンスター「双頭ゴリラ」だった。
その巨体はビルのように大きく、狂気に駆られたような驚異的なジャンプ力で数百メートルを一気に飛び越え、ゴブリンのモンスター群や探索者陣営が接触するより先に、E12チームの防衛拠点に突入した。
双頭ゴリラが放つ恐怖の「踏みつけ」の一撃で、反応が遅れた探索者2名が無残にも肉片と化した。
その後わずか30秒足らずで、探索者たちとモンスター群との全面的な戦闘が勃発した。
数万ものクリスタルスライム、ゴブリン、スノーアナグマが次々と押し寄せ、北側防衛線に突入してくる。
これらの小型モンスターは、一体ずつならその場の一番弱い探索者でも容易に倒せる相手だった。
しかし、その数の多さは量が質を凌駕し、防衛線を瞬く間に突破し、北側の5つのチームを分断してしまった。
シュッ
つぼみを抱えた炎のスイレンが、突然防衛線を突破したモンスターの群れの中に現れた。
瞬時にスイレンが咲き誇ると、その鮮烈な炎が周囲を焼き尽くし、突破したモンスターたちをすべて灰にした。
五つの
イリスは冷然とした表情で後方に立ち、掌にもう一つの火蓮を掲げていた。
その冷たい眼差しの下、次々と出現する敵を焼き尽くしていく。
一方、E36が守る地域では、宮本たちがゴブリンの大群と正面から交戦していた。
先陣を切ったのは隊長のジェイソンだ。彼は遺伝子スキルを発動させ、肉眼でもわかるほど身体を巨大化させた――
瞬く間に身長は2.8メートルに達し、硬化した灰色の皮膚が隆起する筋肉と相まって圧倒的な強靭さを誇る。
強化系仙人スキル――「巨人態」
独特な狂気じみた笑い声を上げながら、ジェイソンは巨人の姿のまま肩を突き出し、モンスターの群れへ突進する。
暴走する戦車さながらの彼を止めるものはなく、触れたモンスターは紙切れのように引き裂かれていった。
彼が通過した後には無数の断肢と骸が雨のように降り注ぎ、モンスター群の数は一気に減少した。
探索者たちはそれぞれの力を駆使し、モンスターの猛攻をしのぎ切っていた。
12人の探索者はまるで鉄壁の防衛線のように堅固で、押し寄せるモンスターを食い止めていた。
宮本はまだ力を温存しており、神楽、川谷、山崎とともに30メートル範囲のモンスターを制圧できる隊形を整え、侵入してくる敵を着実に撃破していた。
宮本にとって、川谷が戦う姿を見るのはこれが初めてだった。
川谷の武器は蛇形の双剣で、その刃先は不気味な青い輝きを放っている。一撃でモンスターを仕留めるたび、川谷は軽やかに宙を舞うような動きで次の標的へと向かっていった。
単体攻撃主体の戦闘スタイルでありながら、川谷のキル数は、神楽が繰り出す酒呑童子の力や、山崎が駆使するメリケンサックマシンガン拳をも上回っていた。
（川谷ってこんなに強かったのか…！）
宮本は内心驚きながらも負けじと上半身の服を脱ぎ、鍛え上げられた肉体を晒しながらゴブリンの大群に飛び込んでいった。
ドン、ドン、ドン！
骨が砕ける音が次々と響き渡り、どのモンスターも宮本の進撃を止めることができなかった。
その頃、北、南、東、西の四方に展開された防衛線すべてがモンスターの攻撃を受け、ウェイスグロの全面戦争がついに幕を開けた。
________________________________________
Y社公式サイトのトップページでは、急増するユーザー数と大量のコメントが殺到し、Y社の技術部がすべての予備サーバーをフル稼働させて対応する事態となっていた。
：こんな大規模戦闘、マジで初めて見た！
：有名配信者、勢ぞろいじゃん！ヤバすぎる！
：うわっ、大島蒼悟とイリスが同じ画面とか神すぎない！？Y社の二大看板の夢コラボ
：モンスター多すぎて画面がカオス。目が追いつかなくて酔いそう…
：個人視点のサブ配信が見れるのマジありがたい…
：ランキング1位の人、貢献値15500って何！？名前あんまり見ないけど…美月？
：えっ超かわいい！ロリじゃん！
：ロリでこの戦闘力ヤバすぎるだろｗ
：配信者じゃないみたいだね
：信じられない攻撃範囲。近づいたモンスターが次々に自爆してるとか…チート級だわ
：その自爆、血が伝染して他のモンスターまで爆発するっぽい。グロいけどめっちゃ強い
：グロっ...
：人が多すぎて、トップ10に入らないと個別配信されないから探すのが難しい。
：死人出たっぽいって本当？
：みんな私たちを守るために戦ってるんだよね…
：がんばれー！！
：決めた！週末に遺伝子誘導薬の注射受けに行く！私も探索者になるわ！
：ことちゃんいなくない？推し探すのめっちゃ大変なんだけど
：宮本おじさんもいるはずだよね？ まぁでもあの人ならすぐランキング入りして個別配信するはず
