現在、人間とモンスターの壮絶な戦いがトムール草原で繰り広げられようとしている。
魔法陣の東側から3キロの地点、氷原は険しい岩の上に立ち、腕を組みながら前方を見据えている。目の前に迫るモンスターたちは、まるで津波のように押し寄せており、その速度は驚異的だ。
その岩の両側には、戦闘部隊のエリート隊長たちが指揮する数千人の探索者たちが戦闘準備を整え、横一列に並んで、狂暴なモンスターの群れと対峙する瞬間を待っている。
魔法陣の南側から3キロの地点、美月はすでに剣を左手で握りしめていた。
その剣「血飲み」は、主の真剣な気配を感じ取ったかのように、剣身が唸りを上げ、鮮やかな血の光を放ちながら戦いの準備を整えている。
その背後には約千人の試練参加者による防衛ラインが完成し、全員がこの二次試練の危険性を理解している。
震える者、緊張する者、興奮する者、期待に胸を膨らませる者…
「万億の物資提供」「星5任務」「1000ポイント」「全編Y社とT社で生配信」
ライーン会長は、参加者の心を揺さぶる報酬を惜しげもなく提供してくれた。
魔法陣の西側から3キロの地点、大島蒼悟は飛行ジャケットを羽織り、フロッグメガネをかけてリラックスした表情を崩さずにいた。背後の防衛ラインを築いた千人の探索者たちとは対照的に、彼はこの先に待ち受ける真の戦いを理解していた。
迫り来るモンスターは、あくまで序章に過ぎない。
真正面からの戦闘は、ダンジョンズコアが変異を完了した瞬間から始まる。
下層モンスターによる最初の侵攻こそが、「プロジェクト・オーシャン」の中で最も重要な戦いとなる。
北側、聖ゴリル山の近くで地域を守るのは、冷徹で美しい女性だった。
彼女はスタイルよく、長い髪が肩に流れ、白く滑らかな肌は精緻な彫刻のようで、凡人の目には届かないほど高貴な気品を漂わせている。
ぴったりとした赤紫色の皮ジャケットを着、精巧な金属パーツが施された戦闘服で体形を引き締めている。
腰には太刀が下げられており、刀の柄には赤い宝石が埋め込まれて熱を帯びている。
イリス・シリウス。Y社で800万の登録者を持つ人気ダンジョン配信者で、「星の少女」の異名を持つ彼女は、探索者協会戦闘部8人の副将のトップに立っている。
実は、イリスはすでに大将レベルの実力を有しているという噂があるが、彼女は大将に昇格するよりも、ダンジョン配信に時間とエネルギーを費やすことを選んでいた。
イリスの背後には40人以上の試練参加者が整列し、迫り来るモンスターの群れに目を凝らしている。
巨大な三日月型の魔法陣内では、白い光が次々と閃き、探索者たちが魔法陣内に現れていく。
魔法陣の前では、約100名の研究員が忙しく動き回り、転送された戦闘部隊長たちと接触して任務の配分や防御の配置を行っている。
三輪の太陽が輝く下、空中には1000台の最先端の配信用ドローンが散らばり、50キロを死角なく監視していた。
シュシュシュ…
魔法陣内で白光が走り、ジェイソンを隊長とするE36小隊がウェイスグロ内に転送された。
転送後、目の前の光景を見た宮本は驚き、目を見開き、口を大きく開けていた。
その表情には信じられない気持ちと、同時に再び運命を変えるダンジョンに足を踏み入れる興奮が隠しきれなかった。
(ウェイスグロ…?まさか転送先が、俺の運命を変えたこのダンジョンだなんて! 興奮しすぎて震えてる…! そうだ、もしかしたらバルトと再会できるかも…!ま だ感謝を伝えられてないんだ)
(命の終わりが近づいている俺が、こんな歴史的な戦いに参加できるなんて…頑張らないわけにはいかない。 最強の無畏な姿勢で、俺の人生に完璧な終わりを迎えてやる…!)
宮本がしばらく呆然としているのを見た川谷は、彼が目の前の光景に圧倒されているのだと思い、肘で軽く突いて言った。
「宮本、行くぞ。僕たちの防御地域は北側だ」
「おう!!」
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ある有名な匿名掲示板サイトでは、「ウェイスグロの異変」に関する議論が急速に広がっていた。
その事件に関連するスレは、ウイルスのように恐ろしい速さでネット上に拡散している。
さらに、ウェイスグロに関する事件はネットニュースや記事でも多く取り上げられていた。
1. 【速報】ダンジョン出現30年、下層モンスター侵入はすでに3回―新たな危機が迫る
2. 緊急警告:ウェイスグロで異変発生
3. 福島封鎖の真相明らかに――下層モンスターが現実世界に侵入していた可能性
4. ダンジョン出現後の世界、依然として不安定。ウェイスグロが引き起こす人類滅亡の危機
5. 探索者:ダンジョンモンスターの侵入を防ぐヒーロー
6. 人類の最後の砦、4000人の探索者
7. 歴史的同時放送決定、Y社とT社がダンジョン配信史上最大規模の戦闘を放送
8. 探索家称号試練、最難関の戦いが始まる。ウェイスグロから始まる大阪防衛戦へ
9. ダンジョン出現30年、探索者数激減―130万人から69万人に減少、毎年12%のペースで縮小
10. 「愚か者しか使わない薬」とされた致死率70%の遺伝子誘導薬、その実態と使用意図に迫る
11. 平穏な現実世界、30年後の問い―老いた勇者の後を誰が継ぐのか
これらの情報は、文字や解説、分析、さらには動画形式でネット上に溢れかえり、瞬く間にトレンドの一位にまで登り詰めた。
これらはすべて、ライーン会長が仕掛けた情報爆弾だ。もし彼がこれらの秘匿情報を公開しなければ、一般市民がこれほどまでに極秘な情報を知ることはなかっただろう。
この情報爆発の時代において、少しでも情報が漏れれば、秘密などほぼ存在しない。ましてや、ライーン会長は最初から隠すつもりなどなかった。
もし隠したいのであれば、Y社やT社に圧力をかけて全編配信をさせ、千台以上のドローンでウェイスグロで起きていることを隅々までカメラで捉え、視聴者全員に生放送で見せることはなかったはずだ。
彼が示したいのは、探索者たちの素晴らしさでも、探索者協会という最強の民間組織の力強さでもない。
ライーン・ハーディスが望んでいるのは、真実を公開することで全ての人々に一つの事実を知らせること
——人類はダンジョンの侵入危機に直面しており、それがますます深刻な絶滅の危機であるということだ。
人類は新たな血液を必要としている。つまりもっと多くの探索者が必要だ。
30年間、遺伝子誘導薬が開発された最初の5年を除いて、多くの市民はその薬を試すことを躊躇し始めた。致死率が高いため、その道を選ぶ者は次第に減少していった。
だが残念ながら、それがほぼ唯一の方法である。
先天的に遺伝子ロックを解放できる人間は、100万人に1人いるかどうかというレベルで、ほぼ無視できるほど少ない。
遺伝子誘導薬を注射して生き残る——それが99.9%の探索者たちの出発点となる。
ライーン会長の最大の懸念は、ダンジョンの変異が加速している中で、人々が92%の死亡率を前にして、遺伝子解放者になる勇気を失っていることだ。
このままでは、100年後、50年後、いや、もっと短期間で、人類はダンジョン下層から侵入してくるモンスターたちと対抗できる強者を失うことになるだろう。
Epsilon級の強者は一夜にして誕生するものではない(あるおじさん以外)。強者は時間をかけて積み重ねられるものだ。
火を灯し続け、時間が流れ、常に積み重ねることでこそ、もっと多くの超絶強者が生まれ、ダンジョン下層の侵入者たちと戦う力を備えることができる。
億単位の民衆が強くなることの重要性を認識すれば、70%の致死率にも立ち向かう勇気を持つことができるかもしれない。
ライーン会長の「プロジェクト・オーシャン」は、彼の大きな戦略の一部だ。
彼が求めているのは、単にウェイスグロの問題を解決することではなく、遺伝子解放者の数を大幅に増やすことだ。
そうすることで、人類がダンジョン下層と戦うために必要な、より多くの優れた戦士を育成することができる。
ダンジョンの危機に直面し、人類に足りないのは真のトップクラスの戦力だ。
そしてその誕生には、膨大な数の遺伝子解放者が必要となる。
多くの場合、遺伝子解放者のランク進化には生死をかけた刺激が必要であり、瀕死の状況を突破しなければならない。
それがここ30年間、トップクラスの戦力が増えなかった理由でもある。
これらの年に行われた探索家称号試験は、確かに高い死亡率を誇るが、それもライーン会長が計画的に仕掛けた結果だ。
一般の人々はダンジョンの危機の真実を知らないが、ライーン会長はあえて生死の境界を作り出し、後輩の探索者たちを急速に成長させなければならないと考えている。
たとえそのために、探索者協会が命を軽視していると非難されることがあったとしても。
備えあれば憂いなし。今がどんなに死体の山、血の海であっても、人類の滅亡さえ逃れられるならば、それで十分だ。