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第33話 モンスターの津波


30分後、ジェイソンは全員から最終的な返答を受け取った。

結果、15名の参加者のうち4人が死亡率30%とされる二次試練にリタイアすることを決めた。

ジェイソンが隊長を務めることとなり、残りの12人で正式にチームが結成された。その番号はE36だ。


「君たちの勇気には敬意を表する」

ジェイソンは珍しく、いつもの狂気的な笑顔を見せず、目の前の11人の臨時隊員に誠実な言葉で賛辞を送った。


その頃、宮本はジェイソンから渡された「戦闘データ記録装置」をいじっていた。

これは探索者協会の科学研究部が開発した精密機器で、腕時計の形をしており、モンスター図鑑に登録されているすべての既知のモンスター情報が内蔵されている。

装着者がモンスターを撃破すると、その情報が即座に腕時計に記録され、撃破への貢献値が表示される仕組みだ。


ジェイソンの説明によると、二次試練では各隊員が撃破したモンスターの数とその貢献値がリアルタイムで記録され、表示されるという。

さらに、探索者協会は日本の配信業界を独占するY社とT社と交渉を終え、史上初の試みとして、二次試練の模様を全編ライブ配信することが決まった。


この2つのプラットフォームでは、貢献度のデータベースを接続し、配信中に両サイトのトップページでランキングをリアルタイムで更新する予定だ。


宮本にとって、このニュースは非常に興奮すべきことだった。

命がカウントダウンに入ったことを自覚している配信者として、宮本はこの世界で自分の存在をもっと多くの人に記憶させたかった。

(絵里さんもきっと、俺がランキング上位に立つところを見たいだろうな)

(宮本次郎という、前半生を無駄に過ごした平凡な名前が、もっと多くの人の記憶に残されるように)

(この世界に、俺が生きていた証を…!)


自分の探索者番号1081616を登録した後、宮本は腕時計をしっかり装着し、確認を終えると、近くに輝く転送魔法陣を見つめた。

(さて、俺たちを一体どこに転送するつもりなんだろう)


それと同時に、宮本は琴音のことを考えていた。結局、ここでは彼女の姿を見つけられなかったからだ。

(琴音はどこ行ったんだろう…。 聞いたところ、今回の一次試練には3つのストレイダンジョンが使われていて、彼女はおそらく別のダンジョンにいるはずだ…。

琴音が試練を放棄することはないだろうから、この未知の転送陣を越えれば、きっとどこかで合流できるはずだ。 きっと…。)


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Y社の技術部は、緊急の指示を受けて公式ウェブサイトのトップページのレイアウトを修正することになった。

「2時間以内に、探索者協会が提供する貢献値データベースに接続しろ。あと、サイトの最も目立つ場所に、チーム貢献ランキングと個人貢献ランキングを新たに追加すること」

「社長…恐らく、時間が…」


技術部の責任者は困惑した表情で、電話越しにY社の社長に状況を説明していた。

すると、社長の厳しい声が電話の向こうから響いてきた。

「私は君と相談しているわけではない。これは絶対に期限内に終わらせなければならない、命令だ。君がどう『できない』と説明するその時間を、問題解決に使った方が君にとって有利だ」

そして、社長は強引に電話を切った。


オフィスで会長は、少し疲れた様子でこめかみを揉みながら、ぼそりと言った。

「ライーン会長、いったい何を考えているんだ…」


同じような事態が、T社でも発生していた。


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ウェイスグロ内では、三日月型の「空間転送陣」が、約百人の研究者たちの全力の作業によって完成度96%に達し、ニーセルは1時間後に魔法陣が起動することを告げていた。


そして今、ダンジョンの意志によって召喚されたモンスターの数は驚異的で、もし千メートルの高さから見下ろすことができれば、数百キロにわたって、モンスターたちが津波のように押し寄せているのが確認できただろう。


何万匹もの草食ゴブリン、クリスタルスライム、鉄盾イノシシ、独角羊、六角魔牛、ファイアーポニー、鋒ジャッカル、銀魔狼が群れを成し、I~III級のモンスターたちが集まり、黒い塊のように草原を踏みしめる足音が大地震のように響き渡る。

その中には、落桜パイソン、巨腕ゴリラ、墨角アロウドラゴン、氷熊、雪巨人など、千体以上の中級モンスターも混じっている。


空では、数十匹の蒼羽グリフォンと火羽グリフォンが混ざり合い、魔法陣を何度も突撃して攻撃を仕掛ける。氷と炎が魔法陣の外壁に広がり、波紋を引き起こしている。

もし強力なバリアが設置されていなければ、これらのVII級飛行モンスターの攻撃だけで、魔法陣はすぐにでも破壊されていただろう。


近くの聖ゴリル山では、十数体の巨大な双頭ゴリラや吹雪ジャイアンツが山のふもとへと吠えながら突進していた。


長年巣穴に閉じ込められていたキング級のモンスターたちも、この瞬間に姿を現した。

甲冑を身にまとったゴブリンキング、丸々としたクリスタルスライムキング、小山のような鉄盾イノシシキング、雷光を放つ六本の角を持つ牛魔王、氷結のオーラを纏った銀魔狼王。


遥か彼方、ファノルキ山から、王の気を放つ黒竜が厚い雲を突き破り、巨大な翼を広げて魔法陣の位置へと全速で飛んでいった。

その暗い瞳には、狂気的な殺戮の色が浮かび、ダンジョンの全力召喚によって、X級モンスターでさえ理性を失い、ダンジョンの意志に屈し、戦場へと向かっていた。


トレイルのアビスのシャドータイガーは草原を駆け抜け、音速を超える勢いで魔法陣の方向へ向かっている。

ダミガの窪地のレインボースライムキングは、何万匹もの子孫を引き連れて窪地を飛び出し、半透明の巨大な体が色を激しく変えながらコミカルに転がり、魔法陣へと向かっている。


この瞬間、ウェイスグロのすべてのモンスターはダンジョンの意志の召喚により狂乱状態に陥り、その唯一の目標は、魔法陣を破壊し、すべての敵を駆逐することだ。



しかし、特例がひとつ存在していた。


聖ゴリル山、北の氷隙の中で、九尾がルビーのような瞳に狂気と理性を半分ずつ浮かべながら、静かに佇んでいる。

九尾の実力はX級に及ばないが、ダンジョンの召喚に対する耐性では、黒竜やシャドータイガー、レインボースライムキングよりも遥かに強い。

それは高ランク狐族にしかない耐性で、たとえIX級の狐族であっても、理性を保つ力ではX級モンスターを上回る。


その上、この九尾は臆病な性格をしており、ダンジョンの召喚を無理矢理無視し続け、未だに巣穴から出ることなく耐えていた。


が……


「もう…行かざるを得ない…ダンジョンが我を必要としている…」

「ぐるる……」

「そうだ!早く足を全部折って、這って行く方なら絶対この戦争に間に合わない! どう考えても死ぬよりはましだ!」


残された理性が、九尾は自分の前肢に噛みつこうとしたが、尖った牙が皮に触れた瞬間、急にその動きを止めた。


「間に…合わん…。 理性…が……」


長い苦しみの末、九尾はとうとうダンジョンの強烈な召喚に抗えず、紅い目をむき出しにして氷隙を突き破った。


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