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第31話 ダンジョンズコア


ウェイスグロ内では、空間転送陣の完成が進むにつれて、SSS級ダンジョンが強い拒絶反応を示し始めた。


これはダンジョンの意志から発せられる反応。特に異変が進行中で、下層が間もなく開かれるため、その拒絶の力はますます強くなっていた。

ダンジョンの拒絶反応は、実際には内部のモンスターたちによる狂乱の攻撃として現れる。


X級のモンスターでさえ、ダンジョンの意志から発せられる指令宿命の召喚には抗えない。ただ、上級ランクのモンスターは低ランクのモンスターに比べ、理性を保つことができるため、最初からその指令を受け入れることはない。

だが、時間が経つにつれ、それらもまた「ダンジョンの拒絶対象」への攻撃を始めるだろう。


わずか6時間で、探索者協会のメンバーたちは数十回にも及ぶモンスターの群れによる攻撃を撃退してきた。

これらのモンスターたちの目標は明確だ――ダンジョンが嫌がる魔法陣を破壊すること。

幸い、これらのモンスターのほとんどはI-V級であり、完成途中の魔法陣には大きな脅威を与えることはなかった。


「美月、巣穴の状況はどうだ?」

氷原は『凍滝降臨』で数十頭の六角魔牛を一掃した後、美月に声をかけた。

「先ほど、巣穴内の石川と連絡を取ったところ、『ダンジョンズコア』はまだ沈黙しているとのことです。ただ、昨日と違って、コアの色合いが半分金色に変わっています」

ダンジョンズコアは、ダンジョンの下層が開くときに具現化する神秘的な物質で、破壊することはできない。それに対してできるのは、ダンジョン下層の解放進行状況を監視し、評価することだけだ。


「過去の経験から言うと、ダンジョンズコアが完全に金色に変わるときが下層の扉が開かれるタイミングだ。もう時間がない」氷原は表情を引き締めて言った。「今回の異変で下層が解放されれば、その強度は福島の時を超える可能性がある」


福島のダンジョン異変、下層の解放。そのとき、探索者協会の完全封印計画は失敗した。下層のモンスターたちが現実世界に侵入する光景はまさに終末的で、美月はその記憶を今でも鮮明に覚えていた。


その話を聞いた美月の顔には懸念の色が浮かんだ。

「会長の『プロジェクト・オーシャン』は成功するのだろうか…」

「成功してほしい」氷原はゆっくりと語った。「ウェイスグロは大阪の中心地区にある。 計画が失敗したら、その結果は想像を絶するものになる。 もし下層が解放された後、数千人の強力な探索者ですら最初の波に耐えられなかったら、私たちができることはただ一つだ」


「何でしょう?」美月は眉をひそめて尋ねた。

「心斎橋を中心に半径100キロ以内の市民を避難させ、現実世界に隔離バリアを張って、俺たちがそのバリア内で下層から侵入してきたモンスターと死闘を繰り広げることだ」

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聖ゴリル山頂上、雷竜の巣穴深部。


そこには、拳ほどの大きさを持つ、金色と銀色が半分ずつ交じり合った多面体のクリスタルが宙に浮かび、時折金銀の異なる光を放ちながら、奇妙なエネルギーを放出している。

それがウェイスグロのコアだ。


少し離れた場所で、石川と龍太は緊張した面持ちでその目立たないコアを見守っていた。

「石川副隊長、ダンジョンズコアが具現化してから何日目ですか?」

「琴音ちゃんと宮本さんが去った翌日から現れたので、計算するともう4日目だろう」

「そうだとすれば、氷原さんが言っていた通り、このコアが完全に金色に変われば下層が開かれることになる。今の変化速度を見る限り、あと4日ほどは準備する時間があるとのことですよね…」


長い間ダンジョンズコアを見守っていた石川は首を振った。

「恐らく、そんなに時間はない。変化の速度がますます速くなっている。おそらく、残された時間は2日、いや、1日しかないかもしれない」

「……その時になったら、何が起こるんですか?」龍太は焦りの表情を浮かべて尋ねた。

「福島防衛戦に参加したが、その時は後方支援だった。 ダンジョンズコアが完全に金色に変わった後に何が起こるかは、僕も分からない。 ただ…」

その言葉に、何か嫌な記憶を思い出したのか、石川の粗削りな顔に決意の色が浮かんだ。「今回は絶対に福島事件のようなことを繰り返させてはならない。 どんな手段を使ってでも…たとえ命をかけても」


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砂漠の中

異なる方向に散らばった数百、数千人の探索者たちはようやくリラックスし、息を整えた。


なぜか、あれほど数を誇った食屍鬼たちが、まるで何もなかったかのように急に撤退していた。

「た…助かった。理由はわからないけど、生きていてよかった!」

「死ねっ!!!!…ってあれ?どこ行くんやねん」

「あっぶな、あとちょっとで力尽きるところだったわ…。一体何が…」


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別の場所では、探索者協会が称号試練のために構築した他のストレイダンジョン内で、麻宮琴音と中華風の漢服を着た美少女が並んで立っていた。

先程の戦闘で、二人はその殺戮の快感を味わったばかりだった。

「彩雲ちゃん、すごい数のゴブリンだったね!」

編み込みをした寧彩雲ねい さいうんは、ゴブリンの血で汚れた冥黒斧を肩に担ぎ、むっとした表情で言った。「惜しい、千斬りがもう少しで達成できそうだったのに、終わっちゃったわ」


ゴブリンキングが引き起こした遭遇戦は非常に強度が高く、琴音と彩雲は3時間も戦い続けていた。しかし、二人の実力は十分強力で、息もぴったり合っており、最終的にはゴブリンキングを討ち取り、絶え間ないゴブリンの軍勢を撃退した。

「あなたも、なかなかやるわね!」

琴音は笑いながら、手に持っていた金属製の鞭を振る。鞭はまるで生きているかのように彼女の腰に絡みつき、質感の良いベルトのようになった。

戦場を片付け終わると、二人は楽しそうに話しながら共に終点へと向かい始めた。


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200キロ先の平原

一つの巨大な転送ゲートが立っていた。

100人近くの運転手――男女を問わず、探索者協会戦闘部のエリートメンバーたちが集まっていた。その服装はすべて、威厳ある戦闘部の制服に身を包んでいた。


その中に、ジェイソンの姿がはっきりと見えた。

「ジェイソン、あんたのところ、どれくらい合格できると思う?」

ジェイソンの戦闘部の仲間、松井が尋ねる。

「強い奴は確かにいるな。半分くらいは合格するだろう」

「俺んところはちょっと厳しいな…、最大でも三割が限界だと思う」 松井は首を振った。「崖から落ちた時点でもう半分は脱落してるな…。 そういえばあんた、この転送ゲートの先がどこなのか知ってるのか? 俺が受けた任務は、参加者を率いて転送陣に入り、モンスターと戦うって話だけど、あんたは副将候補だから、知ってる情報は俺たちよりも多いだろー」


ジェイソンは狂気じみた笑顔を浮かべながら、遠くの転送ゲートを見つめて言った。「分からないが、予想はつく。会長が星5レベルの報酬ポイントをかけるほどの重要なことだから、きっと命懸けの戦いになるだろう」

松井はしばらく考え込み、ようやく気づいたように言った。「なるほど、だから参加者が到着した後、自分で試練を続けるかどうかを選ばせたんだな」

「そうだな。 これは今までの試練大会で唯一、参加者に協会のポイントが与えられる試練だ。 それも星5レベルの任務」

「星5レベルの任務は、参加するだけで1000ポイントもらえるって、考えただけでワクワクするな! 俺も欲しいよ、知ってるだろ? 協会の宝庫にあるあの火舞の剣、ずっと気になってたんだ! でも、ポイントがなかなか貯まらなくて交換できなかった…」

ジェイソンは言った。「俺もポイントほしいから、この試練はポイントを稼ぐ大きなチャンスだ。 参加者にとってだけでなく、俺たちにとってもな」

松井は拳を握りしめ、頷きながら遠くを見つめた。

「おい、参加者が到着したぞ」

ジェイソンは松井の指差す方向を見て、最初にゴールに到達した参加者が現れるのを目撃した。


それは黒いローブに身を包み、深い瞳を持ち、全身から「近づくな」という冷徹な気配を放っていた中年の男だ。

その瞬間、ジェイソンの狂気じみた笑顔が消えた。

(まさかあいつだとは…。 そりゃ最初に到着するのも当然だ…。 だってあいつ、昔片手で俺を押さえつけた恐ろしい人間だからな…。 多くの探索家よりもはるかに強い人が、称号試験に参加するだなんて…)



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