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第30話 恋した山崎


神楽の指示を受け、巨大なひょうたんを抱えた酒吞童子が先に宮本の元へ駆けつけた。

周囲には千体以上の食屍鬼の遺骸と、頭を失った食屍鬼王の死体が転がっている。

残りの食屍鬼たちは、王が倒されると同時に砂漠へと逃げていったようだ。

かつて食屍鬼で溢れていた砂漠は、今は再び静寂に包まれていた。

200メートルほど先、神楽は裸足で砂漠を駆けていた。

少女の顔には深い心配が浮かび、ひたむきに走り続けていた。


(宮本さまを守るって約束したのに、こんなに遅れてしまった…)

(自分が許せない…)

「くっ、もっと速くしなきゃ」

その後ろ、数百メートル離れたところで、息を切らしながら走る川谷が苦笑いしていた。

「ほんと、頑固なお嬢さんだな。宮本、実際僕たちの手助けなんて必要ないんだもん…あの人、強いんだよ、めちゃくちゃ強い! 

 …15キロも走って、ガチで死ぬかと思った」


1分後、4人はようやく合流した。

もちろん、その中には傷だらけで弱った山崎も含まれていた。

周りに散らばる食屍鬼の遺骸と、首を失ってなお凶悪な姿勢を保つ巨大な食屍鬼王を見て、川谷は衝撃を受け、宮本を見つめる目に崇拝の色が浮かんできた。

(これがまさしく、キャリーということか…)

(うーん、宮本と組むことができるのも、僕の運が良い証拠だな!)


神楽零は川谷ほど多くを考えていなかった。彼女はただ、心配そうに宮本を見つめ、彼が傷ついていないかを気にしていた。

「宮本さま、大丈夫ですか?」


神楽は宮本の前に立ち、足を少し持ち上げて、白く柔らかな手を差し出すと、その手のひらから淡い白い光を放ちながら、宮本の額にそっと触れた。

ひんやりとした感覚が広がり、その心地よさに宮本も自然と笑顔を浮かべて答えた。

「零ちゃん、僕は怪我してないから、心配しなくていいよ」

「でも、もし内傷があったら気づかないかもしれません」

神楽は真剣な表情で言った。

「傷があるかどうかはすぐにわかります。桜の精の力を借りて、今すぐ確認しますから、動かないでくださいね」


陰陽師は式神を召喚して戦わせるだけでなく、式神の力を一部借りて自分のものにすることもできる。

桜の精は特に強力な式神ではないが、治療には非常に優れた能力を持っている。


宮本は大人しく動かず協力したが、傷だらけで血まみれの山崎を見て、少し羨ましい気持ちになった。

自分の傷を見て、山崎は涙をこらえながら思った。

(…どう見ても、俺の方を治療すべきだろう…)


しばらくして、神楽零は手を引き、嬉しそうに言った。

「よかった、傷ついていませんね!」

その時、川谷はもう見ていられなくなり、疲れた山崎に肘で軽く突いて、低い声で言った。

「君、治療が必要だろ?零ちゃんに言ってみなよ、彼女は今、宮本ばかり気にしてるから、君のこと気づいてないかもしれないぞ」


山崎は少し頑固に立ち上がり、立ち去ろうとした。

(ちっ、この俺が人を頼る?こんな傷、ちょっと我慢すればすぐ治るもんだ)


しかし、数歩歩いた後、失血がひどかった山崎はドサッと倒れ、ついに宮本の体調を心配していた神楽零も気づくこととなった。


30分後、桜の精の治癒の力によって、山崎は徐々に目を覚まし、体の傷口は自然に止血され、体力もかなり回復していた。

神楽零が心配そうに見守る目、額に浮かぶ細かな汗。

この瞬間、山崎の心は大きく揺さぶられた。


え…っと、18歳の少年が何に動揺してるかは、皆さんのご想像にお任せします。

(え―――ん、やっと俺のことに気づいてくれた…)

(結局、彼女に助けられた…一体どうお礼をすればいいんだろう)

(この少女は、まさに俺の天使だ!)

(まだ君の名前すら知らないけど、俺が君の守護騎士になるよ、プリンセス!)


神楽零は山崎の異常な表情に気づいたようで、彼が脳を傷つけたのではないかと思い、すぐに彼の額に手を伸ばして確認した。

年齢=独身歴を貫いた山崎の顔は瞬く間に赤くなり、呼吸すらも慎重にしていた。


「頭は…特に異常はないみたいね…」

神楽は額の汗を拭いながら言った。式神の力を過度に使ったため、体力はかなり消耗していた上に、先ほどは15キロもの長距離を砂漠の過酷な道を走り抜けてきたため、顔色はあまり良くないが、それでもなお、彼女は辛抱強く対応していた。


山崎の目が少し潤んでいた。この光景をもし、亡き恩師が見ていたら、きっと驚くだろう。「あの倔強で負けず嫌いな、最強の探索家を目指していた弟子が、今、こんな表情をしているなんて」と。

宮本と川谷は、山崎の変化に気づき、察しのいい大人二人は静かに顔を見合わせて微笑んだ。

(偶然助けたこの山崎くん、どうやらハマってしまったようだな)

(青春っていいな)


宮本の配信

:(投げ銭2000円)零ちゃん優しすぎる…俺も怪我したくなった

:おじさん、さっき怪我してたらよかったね

:うらやましいぞーーー

:美少女の手のひら…山崎ってやつ、運がいいな

:完全落ちた顔してるw

:零ちゃんがこんな奴に興味持つわけないけどね

:(投げ銭3000円)若い男子はほんの一瞬の視線で落ちちゃうもんねw

:零ちゃんはおじさんの妹みたいなポジションがいい。おじさんも冒険してるうちに、もっとお似合いなパートナーが現れるよ!

:(投げ銭30000円)私のことかしら?

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