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第29話 瞬殺


食屍鬼王が動いた。鋭い爪が血のように赤く光りながら、上から下へと振り下ろされる。その一撃で、宮本を真っ二つにしようとしている。

だが、同時に宮本も動いた。

(みんな、ごめん。 俺もみんなに素晴らしい戦闘シーンとキルシーンを届けたいけど、無理っぽいな)

(零ちゃんのためにも、こいつをすぐに倒さないと)

(俺も本当はもっとやりたかったけど…)

(ごめん!)


宮本の体は、瞬間移動するように消え、食屍鬼王の強力な一撃は、彼の残像を打ち砕いただけだった。

宮本が空中に現れるや否や、その一瞬で、彼は一発のパンチを放った。

今回は、まばゆい稲妻も、空気を裂くような爆音もない。ただし、宮本の全力がその拳に凝縮されていた。


ドン!


高空から落ちるスイカを見たことあるか?

今、宮本の一撃を受けた食屍鬼王の頭部は、まさにそんな感じだった。


反動も、吹き飛ぶことも、吐血もなし。ただ、爆発しただけ。

正確に言うと、頭が爆裂した。

赤いもの、白いものがあちこちに飛び散り、食屍鬼王の無頭の体が後ろに仰け反り、砂嵐を巻き起こした。


血の雨の中、地面にしっかりと着地した宮本の表情には、少し驚きながらも、どこか嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

(こいつ、弱すぎたか?…いや、まさか、俺が強すぎたとか?)

(見た目は凶悪でデカいけど、実力は聖ゴリル山の九尾ほどでもなかったな。少なくとも、九尾なら勝てないと分かると逃げるし)


宮本の配信には、コメントが瞬時に爆発した。

:え…?ええええ????秒殺!?!

:どうやって!?一撃しか出してないじゃん!

:(投げ銭5000円)今日のベストキルだね

:(投げ銭3000円)来週のY社の週間ベストキルシーン集に絶対入る!

:(投げ銭5000円)全然派手じゃないけど、かっけー!

:(投げ銭5000円)心配してたのが余計だった!宮本は強い!

:(投げ銭10000円)宮本はうちらの誇りだ!

:しかも一番硬い頭を…想像を超える力

:(投げ銭30000円)結婚決定だね♡ これからも全部半裸でお願い

:この人、十日前までただの普通のサラリーマンだったよな!?

:羨ましい、俺も彼みたいになりたい

:(投げ銭2000円)秒殺かっこよ!!


________________________________________


東京Y社本社、絵里のオフィス内。

宮本の配信のコメントと急速に増加していくデータを見つめながら、絵里は深く考え込んでいた。

(宮本くんの配信、予想以上だ)

(大島さんの成長速度を上回っている。少なくとも今のところは)

(これからトップになっていくのは間違いないわね)


突然、電話のベルが鳴り、2分後、絵里は社長のオフィスに現れた。

「絵里、座って話そう」

Y社社長がホットコーヒーを手渡しながら、親しげに続ける。


「宮本くんの成績が素晴らしいのも、君の功績が大きい。

…けど、君も知っている通り、大島との契約がもうすぐ切れる。 彼は、この業界を引退し、ダンジョン攻略に専念することを明言している。 

だから、私たちは新しい計画を考えないと」


絵里は一瞬驚きの表情を見せ、すぐに落ち着きを取り戻して微笑みながら言った。

「社長、どうされるおつもりですか?」

「君も知っている通り、私たちとT社の競争は激化している。もし大島蒼悟というトップ配信者が引退した場合、私たちがT社とダンジョン配信市場を争うのは難しくなるだろう」

「社長は確か以前、NO.2の配信者にリソースを集中して育つ、と考えていましたよね?」

「そうだ、イリスはトップ配信者になるポテンシャルがある。…しかし、すべてを彼女に賭けるわけにはいかない。予備のプランも必要だ」

「それで、宮本くんがその予備プラン、ということでしょうか…。 しかし、もしイリスがそれを知ったら、宮本くんに不必要なトラブルを招くことになるんじゃないのでしょうか?」絵里は眉をひそめた。「イリス・シリウスは、競争相手には容赦しませんからね。たとえ同じ会社の契約者であっても…」

社長は軽く笑って答えた。

「多分、そうだろうな。 けど、それに関しては心配不要だ」

絵里は微笑み返し、言った。

「社長の判断を信じています。それで、私は何をすればよいのでしょうか?」

「今回の探索家称号試験にはイリスも参加している。ただし、彼女の役割は参加者ではなく、第三試練の審査員だ。私の計画は…」


「………………」


「え!?」絵里は思わず手で口を覆い、驚いた表情を浮かべた。「Y社がこんな方法を試みるのは初めてですよね?」

「初めてのこともある」

社長は意味深な笑みを浮かべて言った。「それに、私は君を信じている。宮本くんを納得させることができると確信しているよ」

「あまり自信が…」絵里はコーヒーをかき混ぜながら冷静に答えた。

「君ならできると信じてる」社長は穏やかながらも強い口調で言った。「この任務を達成すれば、君の弟の問題を私が直接解決しよう」


「弟のこと」と聞いた瞬間、絵里は電気が走ったように少し震え、少しの間沈黙した後、静かに頷いた。

「最善を尽くしますが、私の職業倫理に反することはいたしません」絵里は顔を上げ、目をしっかりと社長に向けて言った。

「もし宮本くんを納得させることができたなら、弟のことを…よろしくお願い申し上げます」



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