宮本の狂暴な戦いが続く中、周囲に積み重なった食屍鬼の死体はすでに千体を超えていた。
宮本を中心に半径100メートルの範囲には、切り刻まれた残骸や断肢が散らばり、その光景はまさに衝撃的だった。
雷空斬の範囲は広大で、宮本が食屍鬼を倒す効率は恐ろしいほど高まった。
その一方、食屍鬼たちは宮本に対して一切のダメージを与えられなかった。鋼のように強靭な肉体を持つ宮本には、鋭い爪や毒の牙すらも通用しなかったからだ。
山崎輝の目には、無限に増え続けるはずの食屍鬼の群れが、宮本の屠殺によって明らかに減少していくのが見て取れた。
宮本の殺戮速度は、食屍鬼たちが補充する速度を大きく上回っていた。
「このおじさん怖っ! …でも、この人がいなかったら、今の俺、たぶんもう死んでたな…」
血まみれの山崎は息を切らしながら、戦闘に興奮している宮本をじっと見つめ、感謝の気持ちを抱いていた。
山崎はすでに食屍鬼の包囲を脱出しており、体力はほぼ尽きかけていたが、彼の鎧化した防御能力が致命傷を避けてくれていた。そのおかげで、今は戦闘を観察しながら息を整えることができた。
突然、宮本から500メートルほど離れた場所で、砂地が沈み込み、まるで流砂のように渦巻きが広がり、直径15メートルの円を形成した。
そこから、血の池から這い出てきたかのような、真っ赤な巨大食屍鬼が現れた。
このモンスターは普通の食屍鬼の五倍の大きさを持ち、額には二本の角が生えており、灯火のように黄色く光る目が輝き、その全身は血の色の鱗で覆われていた。さらに、5メートルもある長い尾の先端が鋭く尖っていた。
食屍鬼王、IX級のダンジョンモンスターで、血を好むそのため非常に凶暴で、全ての食屍鬼を支配する砂漠の王。
普段は砂漠の奥深くで眠っているが、宮本が短時間で食屍鬼を大量に殺戮したため、姿を現したのだろう。
食屍鬼王が砂漠の渦から這い出し、耳をつんざくような鋭い叫び声を上げると、次々と突進していた食屍鬼たちは一斉に後退し、広大な空間が空いた。
食屍鬼たちはそれらの王の足元に道を開けるように退いた。
食屍鬼王は、ただ三歩で、遠くから近づき、宮本の10メートル先ほどの距離に立った。
その体は、今は身をかがめているとはいえ、6メートル近くの高さがあり、宮本がまるでペットのように見えた。
鬼王の黄色い目が宮本をじっと見つめているが、すぐには攻撃しなかった。代わりに、少し人間らしい表情を浮かべた。
それは、怒りと不解を混じらせた感情だった。
怒りは、目の前の小さな虫けらが自分の千人以上の部下を殺してしまったことに対するもの。
不解は、宮本から震えや恐怖の気配をまったく感じ取れなく、この小さな存在がなぜ今、こんなにも冷静に自分に向き合っているのかということだった。
宮本の配信
現在、宮本の配信画面はまるで静止したかのように固まり、食屍鬼王と対峙する宮本の姿が映し出されていた。このシーンは数千、数万の視聴者によってスクショして保存され、話題となった。
:このモンスター、すごく強そう…食屍鬼のリーダーかな…?
:あれは食屍鬼王だよ…他の配信者も見たことがあるけど、その後その配信者は二度と配信しなかったんだよな…
:おじさん、絶対無事でいてほしい
:すごい大きさだな。知恵もありそう
:外見からして、間違いなく近接戦闘に強いタイプだね。あの鱗の甲冑…さっきまで無双状態だった宮本でも、これを突破できるかはわからないよな
:(投げ銭10000円)絶対死なないで! 生き延びたら結婚しよう
:これ、最初の試練で登場するレベルのモンスターかよ!? 探索者協会、やりすぎだろ!
だが、今、宮本が気になっているのは、視聴者からの心配のコメントでも、目の前に威圧的に立ちふさがる食屍鬼王でもなかった。
(もうかなり時間が経ったけど、零ちゃんもそろそろだよな?)
(彼女がこういう状況を見たら、絶対に俺を『守る』って約束を果たすために、何もかもを顧みずに戦いに来るだろう)
(…それはまずい。彼女を危険にさらすことになる!)
宮本は振り返り、約2キロ離れた場所で、神楽零が焦りながら必死に走ってこちらに向かっているのを見つけた。
宮本の表情には、ほんの少しの慌てた様子が浮かんでいた。
(まずい、零ちゃんがもうすぐ着く!)
その微かな変化が、食屍鬼王の目に留まり、砂漠最強のダンジョンモンスターである食屍鬼王の面目を保たせることとなった。
(ふむ。この小さな者は、ただ反応が鈍かっただけのようだな。まあ、恐れるのは当然であろう)
(なら、さっさと食ってしまおう)