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第26話 食屍鬼


無限の砂漠の中で、五人の探索者たちは血だらけになり、恐怖に満ちた表情を浮かべながら、残り少ない体力を振り絞って次々と襲いかかってくる食屍鬼と戦っていた。

「助けてくれ、こっちはもう無理!」

「手が噛み千切られたいやああああ!!!」

「くそっ、どうやっても殺しきれない!」

「ちくしょう…千匹以上倒したのに、どうしてまだこんなにいるんだ!」

「このままじゃここで死ぬ、あいつらに引き裂かれて、腹の中に食われるんだ…」

「死にたくない…誰か助けてくれ…」


こんな状況が、この広大な砂漠のあちこちで繰り広げられており、その原因となったのは、数十万匹もの食屍鬼という集団を成すモンスターだった。

砂漠の食屍鬼は個々の力は大したことがないが、恐ろしいのはその数の多さと、一度絡まれたら絶対に逃げられないという点だ。

食屍鬼という劣等な群れを成す魔物には「捕食」という目的しかなく、遭遇すれば、千匹以上が全滅するか、狙われた者が死ぬしかない。


砂漠の奥深く、半身が鎧化したヤンキー、山崎輝ヤマザキ アキラは数百匹の食屍鬼に囲まれ、徐々に力尽きつつあった。全身の鎧はボロボロになり、主に攻撃を担当していた右腕も血だらけだった。

彼はGamma2級の遺伝子解放者で、持っている遺伝子スキルは武装液鎧ぶそうえきがいと呼ばれるもので、第三段階の遺伝子ロックを解放し、特殊なDNA分子を磨き上げることで、自分の体を自在に鎧化させる強化系のスキルだ。

まだ達人レベルの「武装液鎧」だけでも、山崎を瞬時に半身を鎧化させ、その攻防能力を驚異的なレベルにまで引き上げることができる。

さらに、この鎧化の特徴を活かして、防御や攻撃の特殊な技を繰り出すことも可能だった。


「メリケンサツクパンチ!オラオラオラオラオラ!!」


山崎は力を振り絞り、鎧化した右腕を使って連続パンチを叩き込んだ。メリケンサツクに強化された拳は、マシンガンのように恐ろしい速度で連打し、数秒で周囲の食屍鬼十数匹を葬り去った。


山崎の周りには、倒れた食屍鬼の死体が円を描くように集まっていた。

二時間に及ぶ激闘で、山崎が倒した食屍鬼の数は500匹以上に達していたが、それでも次々と襲いかかってくる食屍鬼は減るどころか、ますます増えていった。

山崎は一度路を開いて脱出を試みたが、砂漠で地下を掘り進むことができる食屍鬼に対して、山崎のスピードではどうしても振り切れなかった。

結局、山崎に残された選択肢はただひたすら「殺し続ける」ことだけだった。完全に殲滅しない限り、生き残る道はなかった。


「…もう終わりか?こんなクソみたいな場所で死ぬのかよ…。俺は竹内先生の遺志を果たさなければならない…。先生と…約束したんだ…いつか世界最強の探索者になるって…。くっ…くっ……」

山崎は口から血を吐き、身体が限界に達していたが、その目にはまだ激しい闘志が宿っていた。

「くそっ、全員ぶっ殺してやる!」


________________________________________


15km先、宮本、神楽、川谷の三人は西方へ向かって進んでいた。

突然、川谷が頭を突き出して力強く嗅ぎ、真剣な表情を浮かべて言った。

「すごい血の匂いがする」


宮本と神楽も彼に倣って嗅いでみたが、二人とも首を振り、何も感じないようだった。

「もし僕が、僕の遺伝子スキルが五感能力に関連しているって言ったら、信じる?」川谷は頭を掻きながら、ちょっと照れくさそうに言った。秘密だけどな!」

「川谷さま!すごいスキルじゃないですか!」神楽は優しく微笑んで褒めた。

「ま、まあ…そうだな…!」


(他の人たちが覚醒させた遺伝子スキルは、どれもかっこよくて力強い名前ばかりだったけれど、自分のは…)

(「五感戦技」って、なんじゃそりゃー!全っっ然かっこよくないし、むしろダサいだろ!もっと強そうな名前にできなかったのかよ!)


川谷はその話題から逃げるように言った。

「血の匂いは、15キロ先の正面からだ。人間の匂いもあるけど、もっと強いのはモンスターの血の匂いだな。どうやら探索者が苦戦しているみたいだ」


宮本はその言葉を聞いて目を見開いた。

昨日の配信で、神楽零への「恩返し」を強く考え、彼女の気持ちを傷つけないように自分の殺戮衝動を必死に抑えていた。

しかし今、前方にモンスターが群れを成していると聞いて、もうその衝動を抑えることができなくなっていた。

「零ちゃん、川谷を守っていてくれ。俺が先に行ってみる」

宮本は、素直で堅物な恩返し少女が自分を止めないように心配していた。だから、彼は言い終わらぬうちに、まるで矢のように飛び出し、姿を消していた。その速度は、みんなの前で一瞬で消えた審査員ジェイソンよりも遥かに速かった。


30秒後、殺戮の興奮を感じながら、宮本は15kmを突進し、絶体絶命の状況に陥っている山崎輝を発見した。


その間、宮本は探索者V型PROドローンを展開し、光速で配信を開始した。

さらに、彼は上着を脱ぎ、空間リングにしまい、古代ギリシャの神々のような筋肉を露出させた。

彼の鋭い顔立ちと荒々しい魅力的な中年男性の外見が、配信を見ていた女性視聴者を虜にすることは間違いなかった。

「別に露出癖があるわけじゃない。ただ、着替えが少ないから、汚れたら困るんだ」


ふふ、モンスターを倒す場面、これこそダンジョン配信でフォロワーを増やすための最良の方法の一つだ。

(昨日は零ちゃんに守られたおかげで一体もモンスターを倒せなかったが、今日はこのチャンスを逃すわけにはいかない!)


その後、食屍鬼の群れの中心で、死を覚悟した山崎輝が目の前にしたのは、ありえないほど異常な戦闘の光景だった。


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