狭い通路を抜けた宮本、神楽、川谷の三人が目にしたのは、生命力に満ちた密林だった。
現実世界とは異なり、無限に広がるこの森の植物は奇妙にねじれ、巨大な形をしており、その中に立つと、自分がどれほど小さく感じるか、まるでアリのように思えてくる。
先頭に立つのは、陰陽師の少女、神楽零。
彼女の表情は集中しており、その隣には、彼女の身長のほぼ2倍に相当する大きな酒呑童子が歩いている。
赤い髪、緑の瞳、麦色の肌。眉毛がなく、長い耳に長髪を一本に結び、背中には巨大な茶色いひょうたんを背負った酒呑童子は、全身からは灼熱のオーラを放ち、頼もしく見える。
彼は神楽零が召喚できる最強の式神で、出発時に彼女が召喚し、宮本を守りながら目的地へ向かう決意を示している。
「零ちゃん、すごい!」
「伝説の式神、酒呑童子だよね」
「はい…」
神楽零は少し照れながら答えるが、その顔には誇らしげな表情も見え隠れしていた。
彼女の年齢で、こんな伝説の式神を操れるのは神楽家17代目以来唯一の存在。
これも、このダンジョンが暴発した時代のおかげだろう。先天的に遺伝子ロックが解除されている天才として、彼女は16歳にしてGamma級に到達し、習得した遺伝子スキルが神楽家の式神召喚能力に完璧に合致している。
そのとき、川谷が横から疑問を口にした。
「崖っ縁で危険な目に遭ったとき、この大きなヤツを召喚すればよかったんじゃない?」
神楽は一度うなずいた後、首を振り、冷静に答えた。
「間に合わなかったの。酒呑童子を召喚するには長い儀式が必要だから」
三人が話している間、前方で道を切り開いていた酒呑童子が突然怒声を上げ、背中の巨大なひょうたんを胸元まで抱え、警戒態勢を取った。
次の瞬間、数百本の逆さ刺しのような太い蔓が四方から飛び込んできた。
フウフウフウフウ
酒呑童子はひょうたんから猛烈な赤い炎を吹き出し、襲い来る蔓を一瞬で焼き尽くした。
「えぇ!?零ちゃんの酒呑童子、すごすぎ!」川谷はエメラルドのイヤリングを触りながら驚嘆した。
神楽零は少し顔を赤くし、恥ずかしそうに頭を振りながら謙遜した。
「そんなことないです…ただ、この魔化植物には炎が一番効くから」
この歪んだ魔化森林はまさに魔化植物の海で、宮本たちは1時間以内に十数回の攻撃を受けた。
それらの攻撃は種類も多く、方法も奇妙で多彩だった。
巨大なツルで無差別に攻撃してくる日輪花、蛇のように巻きついて絞め殺す棘の蔓、木の枝がメデューサの頭のように動く蛇の木、刃物のような花が咲く食肉植物、地下から突き抜けて酸液で包み込んで腐食させる食人柳。
その間、宮本と川谷は全く手を出すことなく、神楽が召喚した酒呑童子の紅蓮の炎が異常な速さで魔化植物を焼き尽くしていった。
普通の火では歯が立たない植物でも、酒呑童子の炎は常識を超えた温度で、三秒以上耐えられるものはなかった。
そのおかげで、宮本は神楽零という陰陽師少女の実力を新たに認識した。
(彼女に準備時間さえ与えれば、かなり強力な式神を召喚するができる!俺ってもしかしたら、無意識にものすごい陰陽師を救ったのかもしれない!)
気づけば、夜の帳が降り、三人はようやく歪んだ魔化森林を抜け出した。
目の前に広がるのは、果てしなく広大な砂漠だった。
どこまでも続く砂を見渡すと、三人は再びキャンプを張ることを決めた。
十数分後、それぞれがテントを設営し終え、準備が整った。
神楽の指示で、酒呑童子は魔化森林で生命力を失った絞殺魔蔓を一束引きずり出し、焚き火の燃料として使った。
宮本は熟練の手つきで蔓を組み合わせ、肉焼きセットを作る。酒呑童子がひょうたんを叩くと、紅蓮の炎が蔓に火をつけ、激しい焚き火が灯った。
宮本は空間リングから巨大なドラゴン肉を取り出し、手際よく切り分けて串に刺し、お手製肉焼きセットにかけて回し始める。
同時に、彼は大量の瓶や缶を取り出した。それは焼肉用の香辛料や調味料で、北海道に出発する前に特別に準備していたものだ。
その横で川谷が目を見開いて言った。
「宮本、これ、どこから出てきたんだ!?」
宮本はにやりと笑って答える。「俺、空間系の秘宝を持ってるんだ~」
「すごい幸運だな!もはや僕と同じくらいだよ!」
そう言うと、突如として川谷の前にもテーブルが現れ、続いて椅子3本、食器3セット、キャンドル1本、ビール1箱、コーラ2缶が現れた。
今度は宮本が驚きの表情を見せた。
「君も空間系秘宝を持ってるのか!」
川谷は肩をすくめながら言った。
「二つ持ってるけど、容量は少し小さいんだ。5立方メートルしかないから、まあまあ使えるかな~」
少し誇らしげに話す川谷だったが、もし宮本の空間リングが12500立方メートルの容量を持っていることを知っていれば、自分の秘宝の容量については触れなかっただろう。
「魔法使い」のおじさん二人と、それを見守る神楽零は、表情を崩すことなく静かに肉が焼けるのを待っていた。酒呑童子は彼女の側でじっと動かずに守り、その姿は見た目だけで安心感を与えるものだった。
焼き上がったドラゴン肉に宮本の秘伝の香辛料がふりかけられ、すぐに食欲をそそる香りが広がった。
三つの大きなフランス風のプレートに切り分けられたドラゴン肉は、ジュージューと音を立てながら油を垂らして焼けていく。
テーブルの上にキャンドルが灯され、目の前には金色に輝く砂漠、背後には緑に覆われた魔化森林、空には澄んだ白い月が浮かぶ。現実では考えられないような美しい景色が広がり、雰囲気は一気に高まった。
「いただきます!」
神楽零はナイフとフォークを手に取り、淑女らしく肉を小さく切り分けて、少しずつ食べ始めた。
(零ちゃんはきっと家柄が厳しいんだろうな)
宮本は神楽零の礼儀正しい食事の仕方を見ながら、数日前の琴音が氷川キャンプで荒々しく食べていた光景を思い出した。
年齢はほぼ同じで、美しさも互角だが、その雰囲気はまったく異なっていた。
「宮本さま、川谷さま、えっと…食べないんですか…?」
自分たちが食事をしていることに気づいた神楽は、耳がほんのり赤くなり、少し恥ずかしそうに言った。
「食べる食べる!」
川谷は大笑いし、ビールを二缶開けて、宮本に一缶を手渡す。
「宮本、乾杯!」
「乾杯!」
この食事は長時間かかった。神楽零は食べるのが遅かったが、食べる量は少なくなかった。宮本と川谷は酒に強く、ビール一箱を二人で飲み干した。
テーブルを片付けた後、三人はそれぞれのテントに戻って休むことにした。酒呑童子は夜間の番を引き受け、焚き火が徐々に消えかけていった。
無限に広がる砂漠の中、無数の恐ろしいモンスターが砂の中から這い出してきた。
まるで美味しい食事の匂いを嗅ぎつけたかのように、彼らは恐ろしい叫び声を上げながら近づいてくる。
そのモンスターたちは、人間に似た姿をしており、全身は白く滑らかな皮膚に覆われ、顔はハイエナのようで、鋭い爪が冷たい光を放っていた。
彼らは、このダンジョンの砂漠地域の支配者、砂漠食屍鬼──少し珍しい群れを成すタイプのダンジョンモンスターだ。
このストレイダンジョンでの夜は、決して静かにはならないだろう。