目次
ブックマーク
応援する
12
コメント
シェア
通報
第21話 予想外の一次試験


バスの中には、46人の探索者が乗っているにも関わらず、異常に静かな空気が漂っていた。


宮本はリラックスして、車内で様々な服装をした探索者たちを好奇心いっぱいに見回し、時折窓の外を通り過ぎる風景を楽しんでいた。

実を言うと、これが宮本にとって初めての北海道訪問だった。

以前の宮本は、生活の重圧に押し潰されそうになり、毎日毎晩、面倒な仕事に追われていて、旅行なんてする暇がなかった。


「やーこんにちは!僕は川谷慎、神奈川から来たんだ」

隣に座った中年男性が、どうやら寂しがり屋のようで、笑顔を浮かべながら手を差し出し、自己紹介をしてきた。

宮本は握手を交わし、自己紹介を済ませると、二人は小声で会話を始めた。


「宮本、試練に参加するのは何回目?」

「初めてです」

「僕は2回目だ」

川谷は懐かしそうに目を細め、心から言った。

「初めて参加したのは一昨年…あれはもう一生忘れられないよ…」

「じゃあ、去年は?」と宮本が興味津々で尋ねた。

「去年は…申し込み代をなんとか集めるのに苦労してね…」


川谷は30代前半くらいで、グランドコートを羽織り、白い肌に鋭い輝きを放つ目をしていた。彼は見た目は穏やかで、若い頃はきっと、多くの先輩や後輩を魅了したであろうイケメンだ。

特に印象的だったのは、左耳に下げたエメラルドのピアスだった。


宮本は申し込み代の話題に共感し、さらに詳しく聞こうとした矢先、バスが急に加速し始めた。

強烈な加速感が全員に伝わり、車内の全員がシートの背もたれに押し付けられた。


「おいおい運転手さん、ちょっと落ち着いて運転してくれよ!」

「そうよ、コーヒー全部こぼしたじゃない!」

「アホかいな!どう運転しとんねん!」

車内から次々と不満の声が上がった。


しかし、帽子とマスクをかぶり、顔がまったく見えない運転手は、まるで聞こえていないかのように、背筋が寒くなるような笑い声を上げ、加速を続けた。

ただのバスなのに、まるでスポーツカーのように走り抜けていった。

スピードメーターは180を超えようとしていた。


「おめぇーさん、狂っとんのか!?」

「うえ…車酔いしそう…」

「はよ止めろおい!」

「何だよ!?運転手、どうしたんだ?自殺でもするつもりかよ!?」

「止めろ、止めろ…」


その時、運転手はアクセルを思いっきり踏み込んだ。

バスのエンジンが全力で回り、獣が咆哮するような轟音を立てていた。

前方の交差点で、運転手はガードレールを突き破り、まだ建設中のトンネルに突っ込んだ。

激しい揺れで、参加者たちは上下に振り回され、シートベルトをしていなければ、何人かはきっと投げ出されていたに違いない。


宮本はこの状況に非常に疑問を抱いていた。

どうしてこんな「狂った」人が探索者協会の車を運転しているのか…。


まさか…


その時、宮本は資料に記載されていた、前前回の試練大会の一次試験について思い出した。

あの時、数千人の参加者を乗せていた大和飛行船は、試練のメイン会場に向かう途中で――墜落した!


最終的に、自力で脱出し、規定時間内にメイン会場に到着した探索者は、参加者全体の55%しかいなかった。

その後、参加者たちが怒りを抱えてメイン会場に現れ、説明を求めると、探索者協会の総会長であるライーン・ハーディスが現れ、軽くこう言った。

「それが一次試験だ。不満があれば、すぐに退場しても構わん」


その時、あの大和飛行船の墜落を経験した川谷が、どうやら宮本よりも早く運転手の異常行動の理由に気づいたようだった。

「宮本、早く準備した方がいい。おそらく、もうすぐ一次試験が始まるよ」


車内には、二回目、いや、三回目以上の参加者も多く、運転手の狂気じみた行動に警戒感を抱いていた。一時的に、車内の探索者たちはそれぞれ自分の能力を発揮し始めた。


人狼に変身したムキムキ男...

精神力でバリアを作り自分を包み込んだ猫耳の女性...

身体の一部が鎧化したヤンキー...

凛々しい式神を召喚して護衛する美少女...

目が紅く光り、鋭い牙を生やした血族草食系男子...

胸から数本の触手を出して座席に自分をしっかり固定したスーツ姿の男性などもいた。


川谷は宮本に警告した後、特に大きな動きを見せず、ただ左耳のエメラルドのピアスを指で軽くなぞった。ピアスには翡翠色の光が流れた。


一方、強い肉体を持つ宮本は、まったく気にする様子もなかった。

それに、せいぜい三ヶ月しか生きられない自分にとっては、そもそも恐れることもなかった。

たとえバスが全速力で戦車に突っ込んでも、彼は自分が傷つくことを心配していなかっただろう。


むしろ、宮本はそのパニック状況を利用して、周囲の探索者たちが使っている能力を観察し、心の中で感嘆していた。

(人間の遺伝子が解放されると、こんなに様々な能力が生まれるんだなー! 人狼化、鎧化、血族、植物化、式神召喚、精神バリア…。俺は途中から探索者になったから、遺伝子解放者についての知識がほとんどない…今後はもっと調べておく必要があるな!)


バスは疾走し、暗闇のトンネルに突入した。運転手の笑い声はますます狂気じみていった。


「ハハハっ!たっのしいー! 

 哀れな奴ら、地獄のような一次試験を受け入れろ! 探索家になりたいだと?無謀にもほどがある!この俺がその幻想を打ち破ってやる! 

 俺、クレイ・ジェイソンは、お前らの試練の道の悪夢になる!ハハハハハ!」

運転手の狂気じみた中二病の言葉と共に、バスは漆黒のトンネルを突っ切り、空中に飛び上がった。


そして、崖へと落下し、まるで弾丸のように硬い岩壁にぶつかった。


バン!


重力加速度のもとで、バスは瞬時に解体され、燃料タンクが衝撃で火花を散らし、爆発した。


華やかな火花が暗闇を照らし出した。

車内の者たちは予測していたものの、運転手があまりにも狂って、バスを崖から突き落とすとは思いもしなかった。


前列に座っていた実力不足で運が悪い4人の探索者たちは、岩壁に激しく衝突し、瞬時に押しつぶされてミンチになってしまった。


火光の中で、宙に投げ出された宮本はすぐに状況を把握し、片手で岩に指を突っ込み、自分を崖にしっかりと引っかけた。

(まさか、一次試験がこんなに突然とは…。しかも、残酷すぎるな…始まったばかりで犠牲者が出るなんて…)

(あの狂った運転手…クレイ・ジェイソンだっけ?一次試験の審査員だったのか…?)


宮本は、宙に飛ばされた探索者たちの中で、必死に自救している者たちに目を向けた。

その中には、力が及ばず、恐怖のあまり叫びながら暗闇へと落ちていく者もいた。


「うーん…見て見ぬふりはできないな」

宮本は素早く壁を蹴り飛ばし、空を横切り、明らかに自力で生き残るのが難しい二人の参加者を引き寄せ、反対側に安全に移動させた。

その後、再び横切り、他の探索者も救出した。


数秒のうちに、100メートル近い崖を横断して、宮本は7人の探索者を漆黒から救い出した。

残りの者たちも、各自の能力で無事を保つことができた。


その時、地面にはバスに乗っていた探索者たちが次々と集まり始めていた。

興奮している者もいれば、あきらかに顔色が悪い者もいた。


「川谷は?」

完璧な遺伝子を持つ宮本は、この暗闇の中でも昼間のように周囲を見渡し、川谷慎が見当たらないことに気づき、眉をひそめた。


その時、漆黒の崖の下から、クレイ・ジェイソンの狂気の笑い声が聞こえてきた。

「ハハハハハっ!生き残った哀れな虫たちよ、俺は崖下で待っている! 次の試練には、30人しか進めない。今のところ、枠は29人残ってる。あと3分間だけ待つさ」


崖下、約800メートルの谷底にて、川谷は上を見上げ、耳のピアスを撫でながら呟いた。

「運も実力の一部、だな」


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?