安田-大谷総合法律事務所
杏子は河内弁護士のオフィスで、元夫の宮本次郎からどうやって利用価値を絞り取るかについて話し合っていた。
河内は杏子の話を聞き終わり、手に持った万年筆を回しながら、エリート風の微笑みを浮かべて言った。
「彼は本当に、あなたの前で裁判所からの書類を引き裂いたんですか?」
杏子の目は憎しみに満ち、冷たく鼻で笑って答える。
「ただ引き裂いただけじゃないわ。彼は私を脅迫して、しかも雄太は彼の子じゃないって言い放ったのよ」
「それは面白い…」
その後の30分間、河内弁護士は杏子の求める「利用価値の振り絞り案」を次々と提案し、杏子もその内容に満足している様子だった。
「本当にうまくいくのかしら?」
「杏子さん、私のプロフェッショナリズムを疑わないでください。私はこの事務所のパートナー候補として経験豊富な弁護士ですから。こういった案件はお手の物ですし、何より、私の報酬はあなたが最終的に得る養育費に連動しているんですよ」
杏子は口元を隠して笑いながら言った。
「早くあいつが家を売って養育費を払うところが見てみたいわ。」
河内も同意し、笑いながら「まったくですね」と答えた。
その時、オフィスのドアが外から開かれた。
河内の表情は一瞬不快そうだったが、ドアを開けた人物が事務所の創設者である安田大弁護士であることを見て、急に敬意を表して立ち上がり、迎え入れた。
安田と一緒に入ってきたのは、金縁メガネをかけた赤いコートの高身長の美人、Y社のトップエージェントである絵里だった。
「河内、少しいいか?」
安田が言うと、河内は素早く彼に従い、オフィスを出た。
部屋の扉が閉まると、オフィスには杏子と絵里の二人だけが残された。
杏子は絵里を不機嫌そうに見つめ、その美しさに無意識に敵意を抱いていた。
「あなたも河内先生に相談に来たの?」
絵里は杏子を一瞥してから、鼻で笑って答える。
「あなたが宮本次郎の元妻ね」
「…あなた、誰?」
見知らぬ人に自分の情報を見破られ、杏子は警戒心を強めた。
「そんなのどうでもいいわ。でも、あなたが宮本くんを脅して時間を無駄にさせるのは許さない」
絵里は冷ややかに言った。
杏子は冷笑し、きつい口調で返した。
「あなたが何を言っているのか、さっぱり分からないわ」
「すぐ分かると思うよ…」
絵里は杏子の視線を無視し、ドアの方に目を向けた。
その時、河内がオフィスに戻ってきた。
彼は顔を赤らめ、まるで重大な知らせを受けたかのような表情を浮かべていた。
「河内先生、この人、一体誰ですか?彼女、私のことを把握しているみたいなんですが…」
杏子は声を一段と高くし、鋭い口調で言った。
「遠山さん、この事務所では声を大きくしないでください」
河内弁護士は席に戻りながら、先ほどの温和な態度とは打って変わって冷たく言い放った。
「はぁ…?」杏子は不快感を隠せなかった。
河内弁護士は自分のデスクに歩み寄り、杏子の「宮本を追い詰める」ための書類袋を取り出して冷たく言った。
「遠山さん、私はあなたが依頼した案件を真剣に検討しました。弁護士として言わせてもらいますが、あなたの要求は法律の限界を試すような内容です。 私たちの事務所は、あなたのようなお客様を歓迎しません。今回の相談料はいただきませんので、どうぞお帰りください」
杏子は目を見開き、怒りと驚きが入り混じった表情を浮かべた。
「河内先生、ど…どういう意味ですか?」
河内は冷たい顔でドアを開け、手で「お帰りください」と示すように動作をした。もはや杏子とはこれ以上かかりたくないようだった。
「私を追い出すつもり?これが貴方たちのお客様への態度なんですか?」
杏子は怒りを隠さず叫んだ。
「説明もなしに追い出すなんて、納得できません!あなたたちの事務所を訴えます! この女が原因なのか?ふざけたことを言って、裏で何か通じてるんでしょう!」
杏子は激怒し、さらに脅し続けた。
だが、河内弁護士は静かにファイルを持ち上げて、冷たく言った。
「試してご覧なさい。私はもうはっきり言いましたが、あなたの要求は違法です。99%の日本の弁護士事務所は、あなたの不当な依頼を受けません。 仮にどこかがあなたの依頼を受けても、私たちは宮本先生のために立ち向かいます。そして、あなたが隠し持っているすべてを裁判でどう証明するか、見せてやりますよ」
その時、河内弁護士は「正義」のオーラを全身から発し、ソファで見守る絵里に時折目を向け、彼女の承認を得たがっているようだった。
5分後、髪が乱れた杏子が、2人の警備員に「手助け」されながら、強制的に事務所から引きずり出された。
安田はオフィスに入ると、河内に満足げに頷いた。
「河内、よくやった! でも、この先も気を抜かずにしっかりフォローして、宮本様に余計なトラブルを起こさせないようにしてくれ。 それから、来週のパートナー会議で君をジュニアパートナーに昇進させる提案をするつもりだ。君に期待しているよ」
河内は急に90度にお辞儀をし、感謝の気持ちを込めて言った。
「安田先生、ありがとうございます!ご安心ください、必ずうまく処理します!」
その後、河内はソファに座っている絵里にもお辞儀をし、感謝の言葉をかけた。
「絵里様、アドバイスありがとうございました!」
その後、絵里は安田大弁護士に案内され、彼のオフィスへと向かった。
「安田さん、初めてお会いしたとはいえ、あなたの決断力と事務所の運営能力には感心しました。こうしましょう、後でY社の法務部責任者に連絡を取らせて、あなたの事務所に年間3億円以上の企業委託業務を提供します」
「絵里様、そのようなお言葉をいただけて、感謝の気持ちでいっぱいです!」
安田・大谷総合法律事務所を後にした絵里は、スポーツカーを宮本家の前に停め、夕方になっても家に誰もいないことを確認した後、少し考えた末に車からテントと寝袋を取り出した。
一日中忙しく働いてきたY社のトップエージェントである絵里は、なんと宮本家の前でテントを張り、そのまま死守することにした。
荒唐無稽に思えるかもしれないが、絵里にとってこれがY社のエージェントとしての覚悟の表れだった。
2時間後、満面の笑みを浮かべた宮本が自宅の前に到着した。
モンスター素材の販売がうまくいき、申し込み費用5000万円を集めただけでなく、1000万円以上のボーナスがついてきた。今まで月30万円で苦しんでいた宮本にとって、興奮せざるを得なかった。
宮本は自宅の前にスポーツカーとテントが置かれているのを見て、思わず驚いた。
どんなに優れた頭脳を持っていても、この状況がどうして目の前に現れたのか、理解することはできなかった。
しばらく躊躇した後、宮本は家に帰るためにテントを軽くノックした。
テントの中から、女性の怠そうな声が聞こえた。
その後、テントのファスナーが開き、黒いストッキングを履いた美脚が現れ、次に豊かな胸元、最後に絵里の怠惰で魅力的な顔が現れた。
(夢か?)
(ありえないだろう……)
(スポーツカー…テント…黒いストッキング…美脚…美人……)
「あ…あの…」
テントから出てきた絵里はすぐに宮本を認識した。
彼女は大阪に来る前に、宮本の数少ない配信動画を何度も見返していたからだ。
「宮本様、お会いできて本当に嬉しいです! 初めまして、私は松本絵里、Y社のトップエージェントです」