ウェイスグロへの転送ゲート前。
ハゲの門番が、煌めく転送ゲートから歩いて出てきた宮本と琴音を見て、驚愕の眼差しを向けていた。
琴音については、Y社で有名な最強美少女ダンジョン配信者として知られているため、門番はその登場には特に驚かなかった。
だが、宮本の姿を見た瞬間、しばらく呆然と立ち尽くしていた。
「お前、あのスーツを着た社畜じゃ…」
宮本は平然と笑いながら言った。
「また会ったな!」
「き、君…だいぶ変わった…」
「えっへん!」
その時、探索者協会の専用飛行船がビルの屋上に降り立った。
大将の腕章をつけた男性が先頭に立ち、飛行船から降りてきた。
その後ろには、二十人ほどの探索者協会戦闘部のエリートたちが続いていた。
一行は、直通のエレベーターで地下6層へと向かう。
ちょうどそのタイミングで、エレベーターを待っていた宮本と琴音がすれ違うことになる。
「…おい、君!」
突然、戦闘部四大将の一人である「氷原」が振り向き、氷のような青く透明感のある瞳で宮本を見つめ、眉をひそめながらエレベーターに乗ろうとした宮本を呼び止めた。
「氷原」――冒険者協会戦闘部四大将の一人で、生まれつき遺伝子解放者(遺伝子誘導薬剤未使用)、Delta3級、精神系仙人スキル(詳細不明)、モンスター化後の形態不明。
戦闘部のメンバーでさえ、この大将のことについてはほとんど知られていない。
宮本は驚いて振り返り、「どうかしました?」と不思議そうに言った。
その瞬間、「氷原」の深い眼差しに、一瞬の間、青い光の輝きが走った。
それに気づくことなく、宮本はさらに首をかしげて言った。
「今、俺のことを呼んだ?」
宮本のあまりにも天然な態度を見た氷原の冷たい表情が、わずかに動き、内心で驚愕の表情を浮かべた。
なぜなら、さっき宮本とすれ違った瞬間、彼は伝説モンスターに似た気配を感じ取ったからだ。
彼は本当は精神系探査スキルを使って宮本を調べようとしたが…
この男、俺の精神力を無視しただと!?
あり得ないだろう…。
俺と同じくらいの実力を持っていないとあり得ない。
ということは、少なくとも遺伝子ロックを4段階まで開放しているはずだ。
でもこの男、全く見覚えがない…!
外に、まだ俺の知らない強者がいるのか!?
氷原がさらに宮本の正体を探ろうとしたその時、琴音が嬉しそうに彼の前にやってきて、目を細めて親しげに言った。
「氷原さん!お姉ちゃんが協会戦闘部の強者が来るって言ってたけど、まさか氷原さんなんですね!」
「き、君は…琴音ちゃんか…!二年ぶりだな…こんなに大きくなったのか!」
琴音の姿を見た瞬間、氷原の顔から冷たい表情が消え、優しく微笑んだ。
「今回、全部琴音ちゃんのおかげだよ。琴音ちゃんが情報を提供してくれたおかげで、我々は多くの時間を稼ぐことができたんだ」
「この人は…お友達か?」
「うん!こちらは宮本おじさん!ウェイスグロで知り合った友達だよ」
「ふーん。まあ、ここはすぐ封鎖されるから、急いで出た方がいいよ」
琴音は素直に頷き、宮本の袖を引っ張りながら二人はエレベーターに乗り込んだ。
エレベーターの扉が閉まる前に、氷原は手を軽く上げ、一匹のクリスタルのような氷の蝶を掌に出現させた。
シュウッ
氷の蝶は素早く飛び立ち、宮本を目指して飛んで行った。
ほぼ無意識に、宮本は手を空中で掴み、その透明な氷の蝶をしっかりと握りしめた。
エレベーターの扉がゆっくりと閉まると、氷の蝶は宮本の手の中で徐々に溶けて水になった。
その瞬間、宮本は心の奥で一瞬の震えを感じ、まるで何かの謎の力に見られているような感覚を覚えた。
エレベーターの扉の外で、氷原は呟いた。
「俺の‘同心氷蝶’に触れた。精神的な接触を考えると、やはり人間だな。俺の考えすぎか…。 普通に考えてそうよね…この男が、擬態系の伝説モンスターなわけないさ…」
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JRの駅ホームで、宮本は琴音に手を振りながら別れを告げ、反対方向のホームに向かって振り返り、列車を待った。
探索家試験の申し込みには、なんと5000万円もの申し込み費用が必要だという…
たかすぎる!!
幸い、琴音からダンジョンのモンスター素材を売って資金を集める方法を教えてもらっていた。
もしこれを知らなかったら、バイトだけではおそらく一生かかっても貯められなかっただろう。
(とりあえず、今は探索者協会の公式取引所を見てみよう。空間リングに溜めているモンスター素材が、期待を裏切らないことを祈るばかりだ…)
(うーん、でも少し緊張するな。まさか俺もモンスター素材を売って金を得るダンジョン探索者になったなんてな…)
「えへへへへへ……」
周囲の人々が怪訝そうな目で見ているのを気にせず、宮本は大きすぎる服を着たまま、思いっきり笑った。
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大阪平野区、探索者協会大阪支部がここにある。
広大なダンジョン産業団地が広がっており、錬金、製造、大量生産、取引、訓練など、さまざまな機能が一体となっている。
ここに入るためには探索許可証を提示しなければならない。
つまり、ここは遺伝子解放者専用の場所だ。
宮本は道を尋ねながら、ようやく公式取引所に到着した。
この取引所は24時間営業で、夜間も休むことはない。
取引ホールに入ると、番号を取る機械で順番を待ち、15分後に7番窓口に呼ばれた。対応したのは、ピンク色の制服を着た若い女性だった。
「親愛なる探索者様、探索許可証をお見せください」
宮本は1081616という番号が書かれたカードを差し出すと、女性はそれを確認した後、微笑んで言った。
「販売したいモンスター素材を取り出し、ベルトコンベアに乗せてください。素材鑑定機が自動で素材の総価値を計算します。確認後、取引は成立し、変更はできません」
宮本はうなずき、隣にある巨大なベルトコンベアに歩み寄った。
その前に、宮本は決めていた。嵐の雷竜に関する素材は一切売らないことに。なぜなら、伝説のモンスター素材が出てきた場合、恐らく大きなトラブルを招く可能性があるからだ。
余命わずかと考える宮本にとって、面倒ごとは恐れてはいないが、ダンジョンの壮麗な景色を観る貴重な時間を無駄にすることを恐れていた。
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銀魔狼の爪:32対
銀魔狼の牙:22本
クリスタルスライムのコア:137個
鉄盾イノシシの頭蓋骨:6枚
巨腕ゴリラの腕骨:4本
……
宮本は次々とモンスター素材を空間リングから取り出し、ベルトコンベアに乗せていくと、すぐにコンベアが動き出し、載せた素材が次々と素材鑑定機に送られていった。
その間、7番窓口の上にある電子ディスプレイには、モンスター素材の販売価格を示す数字が次々と変動していた。
156,000…280,000…550,000…1,208,000…1,450,000…
最初に出したのはII〜IV級のモンスター素材で、数は多いものの販売価格は比較的安価だった。
ディスプレイの数字を見ながら、宮本は思った。
(5000万には、まだ足りないな…まあ、ウェイスグロで探索したのは数日だけだから、一度で5000万分のモンスター素材を集めるのは無理だろう…)
(それでも、嵐の雷竜の素材以外、全部売ってしまおう。どれだけ集まるか分からないけど、どうしても足りなければ、家を売るしかないな…)
モンスター素材の価値について、宮本はまだ初心者だった。
販売額が目標に達しないことを気にすることなく、ただ集中して空間リングからモンスター素材を取り出し、次々とベルトコンベアに乗せていった。
落桜パイソンの皮:3枚
落桜パイソンの毒袋:3個
雪巨人の毛皮:2枚
墨角アロウドラゴンの角:1本(完品)1本(破損)
墨角アロウドラゴンの皮:1枚(破損)
蒼羽グリフォンの尾羽:12本
火羽グリフォンの尾羽:24本
双頭ゴリラの心臓:1個
鉄盾イノシシキングの皮:1枚
クリスタルスライムキングの王冠:1個(破損)
……
これらの高ランクモンスター素材を並べているうちに、宮本は7番窓口の上の価格表示が急激に増加していくのに気づかなかった。
3,800,000…12,880,000…21,700,000…39,200,000…56,000,000…
この一連の8桁の数字は、取引ホール内の多くの冒険者たちの好奇心を引き寄せた。
「俺、疲れ過ぎて幻覚でも見てるのか?さっきこのおっさん、VIII級モンスターの双頭ゴリラの心臓をコンベアに載せたんじゃねーか?」
「普通公式取引所でVII級以上のモンスター素材を売る人なんているー!?」
「新入りか?」
「でも、新人でこんなに多くの高ランクモンスター素材を集めるなんて不可能だろう!」
「あ…あの巨大な黒い盾状のもの、あれ、前にダンジョン素材オークションで見たことがある。VIII級モンスター鉄盾イノシシキングの皮だ、しかも完品…まさかそのまま取引所に売ってしまうなんて、もったいない!これを鎧に使えば、SS級以下のダンジョンなんてほとんど無敵だろうに…」
「その眩しい光…クリスタルスライムキングの王冠かよ……破損はしてるけれど、それでも武器としての最高素材だ。こんな最高級の宝物を売るのかよ!」
「このおじさん、金持ちすぎるか、すごくお金が必要のどっちかだな」
5分後、7番窓口の取引員の少女は、宮本に憧れと感謝の眼差しを向けながら、宮本の探索者番号が記された特別なキャッシュカードを渡した。
「親愛なる宮本様、今回ご売却いただいたモンスター素材の総額は68,550,000円、取引税5%、手数料5%を差し引いた最終的な収益は61,695,000円です。すべての金額は探索者カードに振り込まれますので、どうぞご確認ください!」
「こんなに!? 高ランクのモンスター素材って、こんなに高いんだ…」
(それにしても、あのIX級の九尾を逃してしまったか……きっとかなりの高額だっただろうに…惜しい!)
(堂々たるIX級モンスターが!戦う勇気もなく逃げるなんて、モンスターとして恥ずかしいぞ!!)
……
その頃、聖ゴリル山の深い氷の裂け目の中、柔らかな雪巨人の毛皮の上で心地よく眠っていた九尾銀狐は、ふとくしゃみをした。
ルビーのような目が一瞬、不穏な光を帯びる。
「どうやら…人間に目をつけられたようだな…」
高ランクの狐族モンスターは、予知能力に似た微弱な感覚を持っている。
「ぐるる…ぐるる…」
「誰か我の悪口を言ってる……」
「あの恐ろしいほど強い人間か……」
「……」
「我は…引っ越した方がいいのかもしれんな…」