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第14話 初の仙人スキル


三百年前、ウェイスグロの聖ゴリル山に君臨していた雷竜は、X級の準伝説モンスターの一種に過ぎなかった。


この広大なダンジョン内では、雷竜と同等の力を持つ存在として、ファノルキ山の主である黒竜、トレイルのアビスに潜むシャドータイガー、そしてダミガの窪地に住むレインボースライムキングが挙げられる。


だが、長い年月を経て雷竜だけがX級から伝説級へと進化し、ウェイスグロ最強のモンスターとなった。

その進化を支えたのが、巣穴に隠された謎の「雷霆秘宝」だった。


秘宝の由来は今や知る者もなく、長寿である雷竜ですらその来歴を知らない。

しかし、秘宝の正体が不明であろうと、雷竜がそれを利用して力を高めることには何の支障もなかった。


数百年にわたり、秘宝が持つ謎めいた力を吸収した雷竜は「嵐の雷竜」と呼ばれる伝説級の存在へと進化した。

それでもなお、秘宝の力は衰えることなく、膨大なエネルギーを秘め続けていた。



そして今、その秘宝に宮本の指先が触れた。

軽い痺れが指先を伝い、球体内で揺らめいていた紫色の電光が突然、荒れ狂い始める。まるで強大な引力に引き寄せられたかのように。


「……これって、もしかして俺とリンクしてるってことか? 一体……」

一瞬の不安が宮本の胸をよぎるが、次には迷いを振り切り、決意を込めて言った。

「いや、やるしかない!」

パシッ

その言葉と同時に、宮本は片手を強く球体に押し当てた。


すると、球体内部で暴れていた紫色の雷霆がまるで何かに呼応するように、球体を突き破り、瞬く間に数十倍、いや数百倍にも膨れ上がった。

数秒のうちに、宮本を中心とした半径百メートルの空間全体が凄まじい紫の雷霆に包まれた。


雷の力は凄まじく、宮本を痙攣させるほどの衝撃を与えたが、彼は決して手を離さなかった。

彼の伝説級モンスターにも匹敵する強靭な肉体が役に立った。


稲妻が容赦なく体を襲っても、宮本はなんとか耐え続けた。


やがて球体内部の紫の雷霆は半分以上が放出され、その異様な力が宮本の体内へと流れ込んだ。

宮本の髪は逆立ち、瞳には紫電が宿り、全身は稲妻に包まれた。

皮膚は焦げ、筋肉が壊死し、血液が沸騰して蒸発していく。


球体から溢れ出る恐怖の力の破壊力は想像を絶するものだった。

誰であっても、これほど内外から甚大なダメージを受ければ即死は免れないだろう。


だが、宮本はなおも意識を失わずにいた。


肉体の痛みに歯を食いしばり、紫電に照らされた瞳には、荒々しい野性の光が宿っている。

「うおおおおおおおおおおおお!」

宮本の体が限界まで破壊された瞬間、彼の潜在能力が完全に引き出された。体内の完璧な遺伝子が、驚異的な蘇生の力を発揮し始める。


瞬く間に血肉が再生し、筋肉や骨が新たに構築されていった。

雷霆秘宝は、宮本の回復を感じ取るかのように、残された力をさらに解放し、容赦なく彼の体内へと流れ込む。

そして再び、彼の肉体を破壊し続けた。


が、やがて球体内部の紫の雷霆が完全に消耗すると、「パリン」という鋭い音とともに、水晶のような球体が無数の破片となり、紫電の嵐の中に消え去った。


その間も破壊と再生が幾度も繰り返され、その極限の痛みに宮本は何度も歯を食いしばり過ぎて砕いてしまった。

幸運にも、遺伝子の再生能力のおかげで歯さえも新たに生えそろっていた。


どれほどの時間が経ったのか分からない。

だが、周囲に広がっていた紫の雷霆が全て消え去り、その力は宮本の体内へと完全に吸収された。


宮本はその瞬間、自分自身の変化をはっきりと感じ取った。

見た目こそ、腹筋バキバキで野性味あふれる風貌のままだが、一つだけ明らかに変わった点があった。

彼の瞳の奥に、深淵のように鮮やかな紫の輝きが宿っていたのだ。


だが、宮本はその変化が単なる外見上のものではないと理解していた。

巣穴の奥にそびえる漆黒の巨石の前に立つと、宮本はゆっくりと拳を握り、小さな声でつぶやいた。

雷爆サンダーブレイク……!」


その瞬間、拳に紫電が集まり、猛烈な稲妻をまとった一撃が、嵐の雷竜がベッドにしていた黒い巨石を直撃した。

巨石は百トンもの重さを誇り、鋼鉄をも超える硬度を持っていたが、宮本の雷霆の力を込めた拳によって――粉々に砕け散った。

いや、正確には塵と化した。

欠片すら残らず完全に消滅してしまったのだ。


「すげぇ……すげぇぞ、俺!なんだこの力、あとこのスピード! そしてこの雷の技……!」

宮本は拳を見つめながら、興奮を抑えきれず声を上げる。

(もし九尾にこれを使ってたら、奴には逃げる暇もなかっただろうな! いや―そっか…これが俺の初めての遺伝子スキルか……)


「秘宝から得た力ゆえ、その名に雷を冠する!雷爆(サンダーブレイク)!」


ちょうど宮本が秘宝を吸収し、人生初の遺伝子スキルを会得したことに歓喜していたその時だった。

突然、若い女性の驚きの声が響き渡る。

「きゃーーー!変態!!」

恵美が顔を覆いながら叫んだ。


「あれ、おじさん?どうしてここに……そ、その……おパンツは……」

麻宮琴音は顔を背け、真っ赤に染まった頬を震わせながら言った。


一方で、冷たい視線を向ける美月は、その目に寒霜のような鋭さを宿し、怒りをあらわにしていた。

「この露出狂クソ野郎……死にたいのか!」

美月が指先を動かすと、一滴の真紅の血が浮かび上がり、それが瞬時に血色の飛刀へと変わる。そして勢いよく宮本へ放たれた。

百メートルの距離を隔てながら、血で凝り固められたその刃は空気を切り裂き、宮本に向かって一直線に飛んでいく。


宮本は迫りくる危険を感じ、琴音の声に反応したものの、一瞬呆然とし、回避の隙を逃してしまった


ブスッ!

血色の小さい刀が宮本の腕をかすめ、焼け焦げた肌に白い痕を残すだけだった。

反射的に振り返った宮本は、全員に向き直った。

「おじさん!だから服着てないって!」

琴音は目をぎゅっと閉じ、慌てて叫ぶ。

「お姉ちゃんやめて!その人は宮本おじさん、私の友達だよ!」


「……」

「あっ……」


先ほどの雷霆が、宮本の身に着けていた全ての衣服を灰にしてしまっていたのだった。


「す、すまない……これに関しては本当にわけがあって決してわざとじゃないんです聞いてください……」

さっきまで威圧感を放っていた宮本は、一転してしゃがみ込み、困惑した様子で弁解を始めた。


数分後、石川が用意したゆったりとした服を身に着けた宮本は、ようやく気まずさから少し解放された。

「先ほどの件、本当に申し訳ありませんでした……」

冷たい視線を向ける美月の幼い顔に視線を合わせ、宮本は改めて頭を下げる。

「探索者協会第三調査隊だ。機密任務でここに来た。お前がここにいる理由を話してもらおうか」

美月は調査隊の身分証を宮本に見せ、容赦なく問い詰める。


だが、その瞳には珍しく、好奇心の光が僅かに宿っていた。

(この人、私の血族遺伝子スキルを無傷で防ぐとは……おもしれーおっさん!)


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