聖ゴリル山の頂上、高くそびえるその場所から、雲が波のようにうねり、形を変えながら広がっていくのが見える。
その風景を一目で見渡すと、広大無辺なウェイスグロを俯瞰することができる。
しかし、それが最も衝撃的な光景ではない。
頂上には、巨大で深遠な洞窟が存在する。
その洞窟こそ、ウェイスグロ唯一の伝説のモンスター、「嵐の雷竜」の巣穴だ。
巣穴の入口は非常に広大で、立ち入ると、人間の体格ではその大きさに圧倒される。
まるでアリが人間のアパートのドアの前に立っているような感じで、強い対比を感じる。
入口には、数千万体ものモンスターの死骸が積み重なり、小山のように見える。
中にはウェイスグロのほぼすべてのモンスターの種類が含まれており、嵐の雷竜が食を選ばないことがうかがえる。
巣穴の中は一望できないほど深く、暗い。時折、紫色の稲妻が走り、瞬間的にその光で洞窟を照らしている。
九尾銀狐を追い払った後、宮本は順調に頂上にたどり着き、この雷霆の力を秘めたドラゴンの巣を発見した。
これにより、宮本の好奇心は一気に刺激され、不治の病によって死ぬ覚悟をしていた彼は、恐れることなく未踏の巨大なドラゴンの巣穴に足を踏み入れた。
2時間をかけて、宮本は嵐の雷竜が残した巣穴のすべてを歩き回り、その時、琴音が残したアルコールを使って、巣穴の深部で大きな焚き火を起こしていた。
焼いたドラゴン肉を食べ、琴音が残してくれた最後の炭酸を飲みながら、宮本の目は近くにある紫色の光の玉に釘付けになった。
その光の玉はおおよそ人間の頭ほどの大きさで、半透明の状態をしており、紫色の雷霆が絶え間なく生滅していた。
「これは一体……?」
雷霆への敬意から、宮本はすぐにその謎めいた玉に手を触れようとはせず、しばらく火を起こして肉を焼きながら体力を回復させ、考えを巡らせた。
かつて「フライヤー」の配信で、この雷霆の巣の外観を何度も見たことがあった。ただし、たとえフライヤーのような強者であっても、この巣穴に足を踏み入れることはなく、眠っている伝説の嵐の雷竜に対しては決して立ち向かうことはなかった。
宮本は大島蒼悟の忠実なファンであり、彼の配信内容をよく覚えていた。
フライヤーによると、この巣穴には最高級のダンジョン秘宝が隠されており、嵐の雷竜が伝説のモンスターとなった秘密も、この巣穴の中に眠っているという。さらに、フライヤーは度々ウェイスグロに足を運ぶ理由の一つとして、この巣に隠された超強力な秘宝を狙っていることを挙げていた。
(まさか、これがフライヤーが言っていた秘宝なのか…?)
(えっどうみてもこれがY社最強ダンジョン配信者でも手に入れられなかった秘宝なんだが!? まさか、こんなに近くで出会えるなんて!)
宮本は興奮を抑えきれず、心の中で自分の運命に思いを馳せた。
(ただ、リスクがあるかどうかは分からない……)
(…とはいえ、リスクって何だろう……)
(死ぬ運命の俺にとって、リスクなんて何の障害にもならないじゃん!へへっ!)
雷竜の巣穴を歩き回った宮本は、ほぼ紫色の雷球がそのダンジョン秘宝であることを確信した。
(聖ゴリル山頂上に立つという願い、やっと叶った。残り少ない人生だけど、もう悔いはない)
宮本は最後の一口を食べ終わると、笑いながら立ち上がり、危険な雰囲気を漂わせる紫色の雷球に向かって歩み寄った。
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宮本配信中——同接数63,212——チャンネル登録者数37.8万人。
:おじさんどこにいるんだ?なんかすごく危険そうだね
:ダンジョン配信でこんな場所見たことないよ。巣穴みたいだね
:はぁ、でもおじさん、配信してることに気づいてないんだろうな。全然反応しないし、解説もない
:間違いない、ここはウェイスグロの最高峰、聖ゴリル山だ
:フライヤーの過去のウェイスグロ探索の話から、この不思議な巣穴は、伝説モンスター——嵐の雷竜の巣だろう
:はぁ!?伝説モンスターの巣穴だなんて!おじさん、命を捨てるつもりなのか!?
:3年間ダンジョン配信を見てきたんだけど、伝説のモンスターの巣に足を踏み入れる配信者なんて見たことないよ。死にに行くようなもんだ!
:伝説のモンスター、まだ出てこないね…
:見て!おじさんがあの怪しい玉に近づいてる!
:うわ~紫色の稲妻、すごくきれい!
:何だろう、あれ…安全な感じがしない
:おじさん、手を伸ばした…こっちまで緊張する…
:え??何が起きたんだ??配信が切れたんだが!!
:おい!一番いいところで中断すな!!Y社くん、ほんと不安定だな
:クレームだ、クレームしたい!
その後数分間、Y社のお問い合わせフォームには、視聴者から数万件の苦情が殺到し、そのうち95%以上が宮本の配信の視聴者からのものであった。
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聖ゴリル山頂上。
石川は鞄から送信機のような形をした黒い機器を取り出し、それを起動した。
それを見て不思議そうな顔をしている琴音に、恵美が説明した。
「これは電波切断器だよ。協会の調査隊が実行する任務はほとんどが機密事項で…。でも、各ダンジョン内にはいろんな探索者がうろついていて、その中には配信者もいる。機密が漏れないように、任務の前には周囲100キロ以内の電波を遮断すること。調査任務の必須手順なんだよ」
琴音はそれを聞いて、いたずらっぽく舌を出しながら、手首の配信腕時計の電源ボタンを押した。