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第12話 ダンジョン異変


血のように赤く染まったトムール草原には、銀魔狼の死体が無数に転がっている。


「ここがウェイスグロが異常封鎖となった原因の場所です」

「精神感応術」で調査を終えた恵美が、血に染まった広大な草原を指さしながら、眉をひそめて言った。

「ただ、具体的な原因は分かりません」


「恵美、あなたはまだ『仙人スキル』の領域に達していない。場所を探れるだけでも十分だ」

美月は頷き、冷徹な表情を浮かべながら、指を伸ばして血に染まった地面を空中で小さな円を描くように切った。

すると、近くの地面が空間を隔てて1平方メートルの円形として切り取られた。

それが空中で無形の力によって圧縮され、やがて粉々に砕けていき、最終的には一滴の血のような物質が凝縮された。


美月は指を軽く動かし、その血滴が「シュッ」と音を立てて彼女の掌に落ち、瞬く間に吸い込まれていった。

数十秒後、美月はゆっくりと語り始めた。

「血液の源をたどった結果…これは伝説モンスターの血液だと確定だね」


その言葉を聞いた石川は驚き、顔を引きつらせた。

「隊長、伝説モンスターの死が原因で異常封鎖が起きたということですか?」

「その通り。ここがあの伝説モンスターが倒れた場所だな」


調査隊の四人は皆、真剣な表情を浮かべていた。その一方で、その裏事情を知らない麻宮琴音は、興味津々で美月に近づいた。

「お姉ちゃん、言ってることが全然分からないんだけど」

「これから話すことは、限られた人だけが知る機密情報だ。外に漏らさないでね」

麻宮琴音はおとなしく頷いた。


「実は、SSS級ダンジョンには必ず伝説級のモンスターが一体だけ存在していて、それは唯一無二の存在なんだ。

 そして、その伝説のモンスターが倒れると、そのダンジョンは異化を起こす。 このような事態は、探索家協会が設立されてから30年間でたった四回しか発生していない。 


 今回がその四回目だ。


 過去三回の事件では、二つのSSS級ダンジョンが永久に封鎖され、現実世界の一部地域が完全に隔離され、探索家協会は多大な犠牲を払った。 戦闘部には以前、四大将だけでなく、十大将がいたんだ。この三回の事件の前まではね」


麻宮琴音は驚きの表情で言った。「ダンジョン異変って?」


「伝説のモンスターが死ぬと、そのダンジョンの部分が開かれるんだ。 今、私たちの世界で知られているダンジョンは、すべて‘上層’と呼ばれる部分。でも、実際のダンジョンはそれより遥かに深い。


 なぜダンジョンの存在が人類世界に影響を与えないかというと、上層のモンスターは人間の世界に侵入できないからだ。

 しかし、ダンジョンが異変を起こし、‘下層’に変わると、状況は一変する。 1年前の福島隔離調査のニュースを覚えてるか?」


琴音はうなずいた。

「あの工場大爆発事故のことですね。国民警衛隊がそこを封鎖して、10年間は誰もその区域に近づけないってニュースが…」

「それは民衆を安心させるための言い訳に過ぎない」美月は冷静に言った。


「実際には、福島にあるSSS級ダンジョンが異変を起こし、下層のモンスターが人間世界に侵入してきたからだ。 その時、私も福島に赴いて、下層の侵入怪物を討伐する任務に参加した」

美月がその時のことを思い出し、目に少し哀しみが浮かんだ。

「その戦いで、協会は二人の戦闘部大将と177名の遺伝子解放者を失った。 結局、私たちは失敗した。 

 最後にできた手段は、バリアでその区域を封鎖し、力を蓄えて再び“清掃”に向かい、‘下層’を封印することだけ」


「ダンジョンのモンスターが現実世界に侵入できるなんて…」

琴音は顔に緊張を浮かべて言った。

「お姉ちゃん、それじゃあ今から私たちはどうすればいいの…?」

「まだ開かれていない‘下層’の入口を探し、そこが伝説モンスターの巣窟である可能性が高いから、見つけ次第マーキングして、協会の戦闘部に引き継ぐように伝えて」


美月はふと思い出したように、琴音に質問した。

「琴音、ウェイスグロを何度も探索しているから、私たちよりもよく知っているだろうけど、伝説のモンスターの巣はどこにあると思う?」

琴音はほとんど無意識に、遠くにそびえ立つ雪山を指さした。


「聖ゴリル山。あそこに伝説のモンスターの巣がある可能性が一番高いと思う」


美月は琴音の指差す方向を見つめ、横を向いて龍太に指示を出した。

「龍太、仙人スキルを使って。もう時間がないんだ」


龍太はGamma3級で、覚醒した仙人スキルは特殊系のスキルだ。

その瞬間、龍太の全身から気が膨張し、まるで風船のように体が急激に膨れ上がり、直径3メートルほどの巨大な気球のようになり、ゆっくりと空に浮かび上がった。


「しっかりつかまって、出発するよ!」

美月の合図で、皆が龍太にしっかりと掴まると、龍太と共に空へと上昇した。

「龍太の仙人スキルは‘舞風船’という技で、私たち調査隊の移動に最適なスキルなの。あなたの大島先生の‘悪魔閃光’には及ばないが、地上のほとんどの生物よりも速いわ」


龍太が球状になった後、琴音はその特性を理解し、目を輝かせながら言った。

「へぇー!龍太兄さんってこんなにすごい技があるんですね、羨ましいな~」


球状になった龍太は、Y社の最強美少女実況者に褒められて、嬉しそうに笑った。

「しっかり掴まって、加速しますよ!」


その瞬間、空中1000メートルの高さに達した龍太は、口から白い煙のようなものを猛然と吐き出し、その反動で球状の体が加速し、美月、琴音、石川、恵美の4人を乗せて時速200kmで聖ゴリル山に向かって飛んでいった。


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