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第7話 ソロ探索者


麻宮琴音がキャンプ地に戻ると、宮本がすでに焚き火を囲み、大きなドラゴン肉の塊を焼いているところだった。

「やあ、こんにちは!」


宮本は朗らかに声をかけた。上半身裸のままでも、その態度には一切の照れも下品さもなく、むしろ堂々としていて誠実さが感じられた。

宮本は、自分があと3か月しか生きられないと思い込んで以来、余計な取り繕いを捨て、ありのままの自分で生きることを選んでいたのだ。


「こ、こんにちは…」

琴音は額に一筋の汗を滲ませながら、少し戸惑った表情を浮かべた。

ここはSSS級ダンジョン、ウェイスグロの聖ゴリル山の深部。人と出会う確率などほぼゼロに等しいのだから、その反応も無理はない。


「ほら、串焼きでも食べな!」

宮本は焚き火の上で巨大な串を回しながら、ドラゴン肉に均一に熱が通るようにしていた。その手つきには、数日間で培われた調理の経験が垣間見える。香ばしい匂いが漂い、琴音の喉が自然と鳴った。


「おじさんって…配信者?協会の調査隊?それとも…ソロ探索者?」

琴音は少し警戒を解きながら、そう尋ねた。

宮本は首を傾げて少し考え込んだ後、ニッと笑った。

「ソロ探索者って呼び方、いいね! じゃあ…その通り、俺はソロ探索者だ!」

琴音はほんの少し顔を赤らめながら宮本を指さした。

「おじさん…その、服は?」

「ああ、これか!ごめんな。戦闘中にモンスターに汚されちゃってね。着替えがなくて、仕方なくこのままなんだ」


琴音はそれを聞いて納得し、焚き火のそばに腰を下ろした。その表情にも、少しだけ安心した色が戻る。

「おじさん、これ何肉なの?すごくいい匂い!」

「これはな、特級のモンスター肉だ!名前はわからないけど、味は保証するよ。食べてみるか?」

「…じゃあお言葉に甘えて。ありがとう、おじさん!」


宮本から差し出された串焼きを受け取った琴音は、漂う香りに思わず釘付けになりながら、豪快にかぶりついた。

口いっぱいに広がるジューシーな旨味、絶妙な焼き加減の肉質、そしてほんのり甘く痺れる独特の味わいに、彼女は夢中になった。


気づけば5分後、琴音は10キロものドラゴン肉を平らげていた。

彼女はGamma級遺伝子解放者。たとえ1級であっても、普通の少女とは比べものにならない食欲を持つ。

これは、身体機能の飛躍的な強化と引き換えに膨大なエネルギーを必要とする、遺伝子解放者ならではの特徴だ。


「これ、私が今まで食べた中で一番美味しいお肉だって断言する!」

琴音は口元についた脂を拭きながら、満面の笑みで言った。


なんて元気な小娘だ――。

宮本は心から感心し、笑いながら言った。

「肉ならいくらでもあるから、まだ足りなかったら言ってね」

「え、そんな…悪いですよ!」

「遠慮しなくていい。こんな場所で出会えたのも何かの縁だろう?」


焚き火の炎が静かに踊る中、琴音は鞄から数缶の飲み物を取り出し、大切そうにそのうちの一本を宮本に差し出した。

「これ、乾杯しませんか?」

「もちろん!」


こうして、年齢も立場も違う二人は、三つの月が空に浮かぶ光景の下で乾杯し、ささやかな宴を楽しんだ。

焚き火で焼かれるドラゴン肉の香りに包まれながら、二人の前には美しい氷河の景色が広がっていた。

焚き火を囲み、ドリンクを飲み、肉を食らいながら、宮本と琴音はこれ以上ないほど爽快なひとときを過ごしていた。


宮本は、自分の過去を隠さず語った。現実世界での失敗や挫折、会社での出来事、人生で背負った重荷――すべてを率直に。

琴音は真剣に耳を傾け、ときおり興味深そうに質問を投げかけた。

「養育費って何? …ノルマってどういう意味? …パワハラって、会社の社長が日々繰り返すって言ってたけど、具体的には? …一番の親友が新居を買うお金はあるのに借金を返さないって、どういうこと?」


宮本は彼女の純粋な好奇心に、思わず苦笑しながらも丁寧に答えた。

「これが大人の世界か…!」と、琴音は感嘆の声を漏らした。


ただ、宮本には一つだけ隠し事があった。自分が抱える不治の病については、どうしても話せなかったのだ。

彼は、目の前の明るい少女の笑顔を曇らせたくなかった。


その間も麻宮琴音のダンジョン配信は続いていた――もっとも、本人がすっかり忘れていたようだ。

彼女はひたすら肉を食べ、コーラを飲み、宮本との会話に夢中になっていた。


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一方、配信のコメント欄は前例のない盛り上がりを見せていた。


:オーマイガー!ことちゃん、まさか俺たちの存在を忘れてないよな?


:抽選会は?クリスタルスライムの標本は…?


:こんな自由で楽しそうな同年代、初めて見たわ。多分僕と同じくらいの年齢だろうけど、朝から晩まで社畜やってる自分と比べると、彼みたいになりたいと思っちゃう


:マジで、毎日ちっぽけな給料のために這いつくばってるだけの生活だよ…。ことちゃんの配信が俺の唯一の楽しみなんだよな。あのおじさんの話、なんか刺さるわ


:まさかSSS級のダンジョンで他の人間と出会うなんてな。これってかなりレアケースじゃね?


:でもさ、この半裸のおっさんがここにいる理由、気になりすぎる


:でも別に悪い人でもなさそうだし、ことちゃんに害を与える感じもしないだろ?むしろことちゃん、ずっと笑ってるし。そういう細かいことは気にしなくていいよ


:それな!最近、ことちゃんがあんなに楽しそうに笑ってる姿なんて、かなり珍しい気がする


:このおじさん、どれくらい強いんだろう


:ほんとそれ。だって聖ゴリル山の麓まで来れるってことは、最低でもBeta級遺伝子解放者だよな。いや、もしかしたらことちゃんと同じGamma級かもしれないぞ


:おじさん、さっき『宮本次郎』って名乗ってたよね。いろんな配信プラットフォームで調べてみたけど、なんも出てこなかった


:じゃあ彼の言う通り、本当に孤独を楽しむソロ探索者なんだろうな


:お前らまだ甘いな。俺、探索者協会の登録データベースまで調べてみたけど、このおじさんの名前、どこにも載ってなかったぞ


:ってことは…もしかして『隠者』ってやつか?探索者協会に登録しない遺伝子解放者のことだろ?


:そうだとしたら、めっちゃ勇気あるよな。でも彼の話聞いてたら、俺も辞めたくなったな


:現実って、本当にみんな苦労してるよな…。あのおっさん、確かにかわいそうだけど、今はそれを全部受け止めてる感じがするんだよね。すごいわ


:この忌々しい人生…


:おじさんの話、めっちゃ分かる。毎日いろんなプレッシャーに押しつぶされながら、偽りの自分で生きてるのってマジで辛い


:バーベキュー見てたら、俺もお腹空いてきた


:わかる!バーベキューにコーラ、半裸のおじさんと少女、血月に氷河の景色…。俺、藝術大学卒の画家なんだけど、この瞬間を描いて近いうちに画展に出してみようかな


:それにしても、もう夜だってのにモンスターに襲われてないの不思議じゃない?ことちゃん、いつも夜にキャンプしてるとモンスターに2~3回は襲われてたよな


:いや、たぶんモンスターたちも、この雰囲気を壊す気にならなかったんだろうなw


:このおじさんが配信始めたら俺絶対見るわ!話し方に惹かれる


:それな!


:配信名どうよ? ソロ探索者で、『孤狼シーカー』とかカッコよくない?


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