結局、今回の会議では簡単な方針と暫定的なスケジュールだけしか決まらなかった。
人員の調整はすぐにできることではないため、各自持ち帰りというかたちになっている。
こういうとき、
その他の人員についても、可能な限り協力してくれるとのことだったので、ありがたい話である。
ワラビーさんは、自らの力でアンデットを生成できるらしい。
その力で協力をしてれるとのことだったが、Bランククラスともなると少々時間がかかるとのことだった。
それがどのくらいなのか詳細は聞けなかったが、そう猶予があるとも思えないので早く完了するのを願うばかりだ。
シューさんに関しては……、残念ながら全く手応えを感じなかった。
僕の何が気に入らないのかはわからないが、人員の話になると途端に機嫌を悪くして取り付く島もなかったのだ。
(どうしたもんかな……)
シューさんの助力を得られないとなると、防衛に回せる戦力が足りるか正直怪しくなってくる。
クーヘンさんとワラビーさんから助力を得られることが確約されているが、その人数についてはあまり期待ができないだろう。
僕の計画では、防衛戦力は最低でも20人必要と見込んでいるが、ククリちゃんやリウルさん達を含めるとしても、全然足りていない……
やはりどうしても、魔王城の外で警備をしている人達の協力が必要だ。
「うーん、うーん……」
「何をうんうん唸ってるんですか? 旦那」
「うわっと、リウルさん!」
ウンウン唸りながら廊下を歩いていると、不意にリウルさんから声をかけられる。
油断していたとはいえ、全く気配を感じなかった……と言いたいところだが、僕にはそもそも気配を感じ取る技術はないので当然と言えば当然である。
「便秘にでもなったんですか?」
「いや、違いますよ。ちょっと人員のことで悩んでまして……」
「おや、俺達だけじゃまだ足りないと?」
「いえ、通常の業務に関しては今のところ問題ないんですけど、近々それなりの人数が必要な作戦があるかもしれなくて……」
『ティドラの森』の件については、特に情報を秘匿する必要もないのだが、まだ正式に決まった作戦ではないのでそれとなく濁して話す。
「ほぅ、そいつは面白そうな話ですねぇ。それにはもちろん、俺も参加するってことでいいんですよね?」
「多分ですけど、お願いすることになります」
僕がそう答えると、リウルさんは心底嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「いやぁ、本当にレブルの旦那の配下になって良かったですよ。俺には見回り業務なんて、退屈過ぎて仕方がなかったですからね!」
「そう言ってもらえると助かりますけど、リウルさんはまだ正式に僕の配下になったワケじゃないですよね?」
「ああ、引継ぎならさっき終わりましたよ。上司にも話は通してありますし」
それなら安心……、と思ったけど、今言われて初めて気づいたことがある。
「……リウルさんって、どこかの部署に所属してるんですか?」
下位居住区の魔物達については無所属だったので気にしていなかったが、上位居住区の魔物達は戦力的に考えても無所属という可能性は低い。
ククリちゃんのような子供であれば話は別だが、もしかしたら……
「そりゃもちろん、防衛部ですよ」
「ってことは、その上司って……」
「ええ、シュー防衛部長ですよ」
「……ですよね」
ああ……、やっぱり……
どうしよう! やってしまったぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!
……………………………………
…………………………
………………
リウルさんと別れたあと、僕はダッシュで防衛部に駆け込む。
(シューさん、ここにいればいいけど……)
シューさんは防衛部部長兼、情報部部長だ。
メインは防衛部のハズなので、ここにいるとは思うけど……っていた!
「シュー部長!」
「……お前か。何の用だ? 先程の件は持ち帰りになったハズだが」
シューさんの表情は相変わらず険しい。
虎の顔なので物凄い迫力だけど、怯んでばかりはいられない。
「あの……、すいませんでした!」
「……いきなり何を謝る」
「リウルさん達のことです!」
そう、僕はあまり深く考えていなかったが、僕のした行為は完全に引き抜きなのである。
ギアッチョさんからは指摘もなく、むしろ推奨されたので気にしていなかったが、普通に考えれば完全なマナー違反であった。
やるにしても、まずは彼らの上司であるシューさんに話しを通すのが筋というものだろう。
「……指揮官職には、それをしていい権限が与えられているハズだ。お前が謝るようなことではないだろう」
っ!? そうなのか……
全然知らなかった。やはり一度、ギアッチョさんに色々と確認しておく必要があるようだ。
しかし、それはともかくとして、今回の件はそういう問題ではない。
「いえ、たとえそうだとしても、まずシューさんに話しを通すのが筋でした。それを怠って話を進めてしまい、本当に申し訳ありません……」
もし僕が同じ立場だったら、何の話も通さず配下を引き抜かれたりすれば、当然憤りを感じる。
シューさんが僕に対して不満を持つのも、当たり前のことであったのだ。
だから、僕は精一杯の気持ちを込めて頭を下げる。
「……ふん、気に食わぬヤツだと思っていたが、筋を通すことの意味くらいは知っていたか」
そう言って、シューさんは席を立ち、僕の横をすれ違う――直前で足を止めた。
「……リウル達の件についてはもういい。アイツらも力を持て余し気味だったからな。精々使い倒してやれ。……それから、『ティドラの森』の件については前向きに検討してやる。それでいいだろう」
シューさんはそれだけ言い残して部屋の奥に引っ込んでしまった。
「あ、あの! ありがとうございました!」
聞こえているかはわからないが、獣人の耳なら聞こえていると信じつつ、可能な限り声を張り上げて礼を言った。