「……よし、成功だな」
「?」
意識が戻ると、僕の目の前には悪魔のような見た目の男が立っていた。
(あれ? 僕、確かオークに生きたまま食われて……)
僕の記憶は、その瞬間で途切れている。
まさか、あのあと誰かに助けられたのだろうか?
「んん? まだ意識がはっきりしてないのか?」
「あ、いえ、意識はあります」
意識はある。ただ、現在の状況に頭が追い付いていないだけだ。
(もし助けられたのなら、助けてくれたのはこの悪魔のような男なのか――、って悪魔!?)
ぼやけた頭が、悪魔という単語を意識することで急速に回り始める。
それとほぼ同時に、僕はバックステップで一気に距離を取った。
(ん? 体が、軽い……?)
咄嗟に行ったバックステップが、思いのほか距離を離したことに驚く。
普段の僕であれば、ここまでの距離を取ることはできなかったハズだ。
「おいおい、どこへ行くつもりだ。混乱しているのも無理はないだろうが、まずは落ち着いてくれ」
悪魔がそんなことを言ってくるが、落ち着いてなどいられない。
一刻も早く、ここから逃げ出さないと……
「落ち着けと言っているだろう」
「っ!?」
逃げ出そうとした次の瞬間、僕の腕が悪魔に掴まれていた。
(嘘だろ!? あの距離を一瞬で!?)
僕と悪魔の距離は、およそ20メートルほど離れていたハズ。
だというのにこの悪魔は、瞬く間にその距離を詰め、僕の腕を捕らえたのであった。
(こんなの、逃げられるワケがない……)
悪魔――デーモンは討伐難易度AからSランク級の化け物だ。
逃げるのなんて、最初から不可能だったのかもしれない。
「ようやく落ち着いたか、我が配下よ」
絶望に打ちひしがれている僕を落ち着いたと勘違いしたのか、悪魔がそう声をかけてくる。
「……え? 配下?」
「そうだ。お前は私が召喚した配下なのだからな」
僕が、召喚された……?
どういうことだ? 何故悪魔が人間の僕なんかを召喚……
「っ!?」
掴まれている自分の腕を見てハッとする。
か細いハズの僕の腕が、何故だか少したくましくなっていた。
腕だけじゃない、脚や腹筋、そしてアレまでもがたくましく――って、なんで僕、裸なんだ!?
「ふむ、まだ状況を理解できておらぬようだから説明してやろう。お前は、私が魔王たる特権で召喚した魔族だ」
魔王!? 今この悪魔、自分のことを魔王って言ったか!?
それに今、僕のこと魔族って……
「な、何かの間違いじゃ? 僕、人間ですよ?」
「間違いではない。お前の前世が何の種族であろうと、英霊であれば魔族として召喚できる仕組みだからな」
……つまり僕は、あのときやっぱり死んでいて、
いや待て、でも英霊っていうのは少しおかしい気がする。
「でも僕、ただの人間で、しかも『サモナー』ですよ?」
「何ぃ!?」
どうやら魔王も、僕の前世が『サモナー』だったことは意外だったようだ。
何せ『サモナー』と言えば、冒険者の中でも完全なハズレ職扱いだったからな……
「むぅ……、まさか『サモナー』とは……。いや、しかし英霊として召喚されたからには、戦闘の素質は高いハズだが……」
素質……、素質か……
そういう見方をすれば、僕は確かに英霊としての素質はあったのかもしれない。
何故なら僕は、元々異世界から転生してきた者だからだ。
「『サモナー』でありながら戦闘力は高かった、ということはないか?」
「ないです。僕は完全に『サモナー』一筋でしたから」
この世界に転生する際、そう僕が願ったのである。
そして全ては、そこから始まった。