異世界転生……、それは思春期男子にとって誰もが憧れる夢の一つであり、最高の妄想だ。
その妄想が、もし現実となったら?
そんなの、最高に決まっているじゃないか!!!
……そう思っていた時期が僕にもありました。
「おい! まだなのか!」
「すいません! あと10秒ほど待ってください!」
「ちぃっ! 本当に使えねぇなぁ! 『サモナー』ってヤツは!」
「連れてきたのはダンテでしょ!? 責任取ってアンタがちゃんと負担しなさいよ!?」
「くそっ!」
自分のことで険悪になるパーティメンバーをしり目に、僕はなんとか術式を完成させる。
「行けます! スケルトン召喚!」
僕がそう宣言すると、地面に魔法陣が発生し、そこから5体のスケルトンが召喚される。
召喚されたスケルトンは僕の指示に従い、ダンテが交戦中のオークに襲い掛かる。
しかし――
「だぁ! 邪魔くせぇ!」
その内の2体が、ダンテの振り回す大剣に巻き込まれ粉々に吹き飛ぶ。
3体はなんとか難を逃れたが、オークに返り討ちにあい1体が粉砕されてしまった。
ダンテへの手数は一瞬減らすことができたものの、あの有様では残る2体も時間の問題だろう。
「おい! もっと使えるモンスターは呼べねぇのか!?」
「あ、あと20秒ほどお待ち頂ければ……」
「20!? 待てるか!」
ごもっともである。
戦闘における20秒がどれだけ長いか、僕にだって理解できている。
さっきの10秒だって、決して短い時間ではない。
……そんな時間をかけて、5秒も時間を稼げなかったのである。
僕自身、歯がゆくてならなかった。
「チィっ! 仕方ねぇ! おい『サモナー』! 20秒あればまともなモンスターを召喚できるんだよな!?」
「は、はい!」
「……よし! みんな何とか20秒持ち堪えろ! 『サモナー』の召喚したモンスターを囮にして撤退するぞ!」
「「「了解!!」」」
……それしかないだろう。
僕はその役目をこなすため、必死にマナをチャージする。
1秒でも早く、仲間達を助けるために。
「クっ……、オイまだか! もう20秒経つだろ!?」
「い、行けます! ストーンゴーレム召喚!」
僕の呼び声に応えるように、先程よりも大きな魔法陣が発生し、そこから岩でできたゴーレムが召喚される。
ストーンゴーレムはオークよりも二回り近く大きな巨体であり、オーク達はその出現に一瞬動揺したようであった。
「よし今だ! ズラかるぞ!」
「「「応!」」」
ダンテの合図に反応して、パーティメンバーがバックステップで距離を取る。
僕もそれに続き、後退しようと足に力を入れる――が、
「おっと、お前はここに残って足止めするんだよ」
そう聞こえたのと同時に、足の力が抜ける。
否、力が抜けたのではない。
両足の膝から下を斬り飛ばされ、力を入れる先がなくなっていた。
「ぐぁっ!?」
僕はそのまま無様に地面を転がる。
腕は動くが、混乱してまともに受け身が取れなかった。
そんな僕に対し、ダンテは薄ら笑いを浮かべ、
「あばよ、『サモナー』」
そう言い残して、凄まじい勢いで戦場を離脱していく。
(う、嘘だろ……?)
混乱する頭が現実を受け入れられず、そんな言葉しか浮かんでこない。
しかし、そんな僕にはお構いなしに、現実は残酷さを突きつける。
「グヘぇ……」
生暖かい息が耳にかかる。
気づけば僕は、オークに組み敷かれていた。
ああ……、どうやら僕の人生は、ここで終わってしまうようだ……