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ずっと前から茜色の空をきみと一緒に見たかった
もちっぱち
恋愛現代恋愛
2025年01月03日
公開日
1.5万字
連載中
都会に住む大学生の朝月碧央は、いつも女性に声を掛けられる。名前を知らずに彼女の言う通りに行動しては幻滅されることもしばしば。そんな生活を幾度となく、重ねて、今度は自ら好きだと言う女性を探そうとマッチングアプリで見つけた子が気になり始めた。
140文字小説【朝焼けの空できみと過ごしたあの日はもう戻らない】
朝月碧央を主人公に長編小説へ移行します。
興味ありましたらぜひ読んでみてください。
違った視点からお楽しみいただけます。

第1話 信号機の余響

 街の喧騒に耳が痛くなる。ここは東京都渋谷区のスクランブル交差点。日たくさんの人が訪れる。観光で来た爆買い中国人の家族。日本のカレーを学びに来た飲食店で働くインド人。路上ライブでこれから売れてやると意気込むアーティスト。付き合い立てだと言うのにべったりと寄り添うカップル。熟年カップルの旅行客。こんなにたくさんの人がいるというのに、心はいつでも孤独で満ち溢れていた。

 とあるアパートのベランダで、紙タバコを1本ふかした。電子タバコに変えるからあげると言われて、もらった紙タバコ。本当は自分自身も電子タバコだったが、久しぶりに入れる濃厚な煙はやけに肺を痛みつけた。2,3度咳こんでしまう。


「ねぇ、碧央、今日って一緒にご飯食べられる?」

 上半身裸の名前も知らない彼女は薄いふとんを体にかけて聞いて来る。なんで、この人といるんだっけと疑問を持つ。


「え?」

「話聞いてないでしょ」

「……うん」

「バイトは?」


 大学で知り合ったのは覚えているが名前をひとつも出てこない。好きだと告白されることはしょっちゅう。自分で選んだわけじゃない。成り行きで彼女と過ごす。そんな日々を過ごしていた。


「知らない」


 どこまで自分の個人情報をさらしたかさえ、忘れてしまうほどだ。


「ちょっと!!」


 無意識に開いたマッチングアプリを開いて、めぼしい人を探す。目の前にいる彼女には本当は興味もない。映画鑑賞とカラオケが趣味と書いてあった。顔は普通で黒髪のロングストレート。昔流行ったホラー映画の主人公に似ているんじゃないかとくすっと笑いがとまらない。ついつい面白そうとチェックリストに入れる。


「何見てんのよ!!」

 バシッとスマホを持つ手をたたかれる。ゴロンと床にスマホが落ちて、何も言わずに碧央は拾った。彼女はずっとイライラしてる。


「もう、帰る!!!」

「はいはい。どうぞ」

「な?! やるだけやってその態度? 最低!!!!」


  スマホだけじゃなく、頬をバシンとたたかれる。そんなの平気だった。別に欲求を満たしたわけじゃない。相手の都合に合わせて行動したまでだ。言われるがままにしただけで、いつもこんな態度。女ってマジわからない。顔が良いからと言い寄られることはあるが、自分自身の気持ちなんて聞かれたことは一切ない。暇だから断る理由も見つからないだけ。それが嫌ならやめればいい。そう思っていたが、だんだん好かれるより誰かを好きになる方がいいんじゃないかと考えなおす。


 バタンと勢いよくドアが閉まる。名前も知らない彼女は、怒りをあらわにしながら出て行った。別に執着はない。来るもの拒まず、去る者追わずだ。


アパート近くの交差点で歩行者用信号の音のカッコウが鳴り響いていた。

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