翌日、アタシとバッグ、シャヴァルドは大蛇型兵器の討伐に向かった。
大蛇型兵器が最近目撃された場所は、ここより高い山頂付近の湖。そこまではデリボクのキャンピングカーで移動することになってる。
「それにしても、兵器から素材を回収してAIを創る……かあ」
大蛇型兵器が出没する場所まで移動中、キャンピングカーの中でアタシはふと呟いた。
「もしかして、この時代のAIのパーツって兵器から取ってるのか?」
「いくつかはそうだね。主に冒険機が兵器を破壊して、そのパーツを持って帰ることが多いね。なんだったら、おじさんだって兵器のパーツが一部使われてるよ?」
バッグはお腹のハッチを開けてアタシに見せた。バッグのハッチにはフレキシブルアームが内蔵されていて、それで修理を行うけど……これも兵器に使われたパーツなのかな?
「ワイのボディもこのキャンピングカーも、冒険機が回収した兵器のパーツで創られてるんやで!」
「へえ……なんだか、動物を狩猟してその素材で服とかを創る感覚なんだな」
たぶんキャンピングカーの屋根に乗ってるシャヴァルドも、同じく兵器のパーツから創られたのかな……
ちょっとまった。
50年前に機能停止したアタシはキャンティに修理されたけど、その時首から下が変わっていたんだよな……
もしかして、アタシも?
「バッグ、アタシの胴体って」
「うん、サル型兵器の胴体から回収したものだね」
……マジですか。
サル型兵器って、アタシとバッグがタバナクルにたどり着く前にデリボクを襲っていた奴じゃねえか。
思わずアタシは、自身の掌を閉じ開きしていた。
「ご、ごめん……ユアちゃん、ショックだった?」
申し訳なさそうに尋ねてくるバッグに、アタシは……
首を振った。
「ううん、むしろワクワクしてきたぜ! サル型兵器っていろんな場所に立って連携してきただろ? アタシもみんなと協力してあんなことできるのかなぁ……!」
たしかに、マスターを殺した兵器のことは好きにはなれない。
でもそれはそれとして、ああいった強みは吸収していくのって、人間らしいからなぁ……!
「……なんだかユアはん、ポジティブシンキングやなぁ」
「まあこのメンタルは見習いたいね……ん?」
バッグが窓へと振り向くと同時に、キャンピングカーがその場で停止した。
アタシも窓の外を見てみる……
キャンピングカーの横にある岩壁の上の道路を通過したのは、巨大な大蛇。装甲に包まれた長さは測りきれないが、その頭の高さだけでも5mはありそうだ。
「あれが大蛇型兵器か?」
「せや。でもこちらには気づいていないみたいやな。確実に離れてから移動を再開するで」
昨日バッグから聞いた話だと、その装甲は非常に強固でありながら軽量化がなされている。巨体を活かして逃げ場を封じ込めるように対象となるAIを囲い、破壊するという。
「ユアちゃん、今のうちに作戦についておさらいしておこうか」
後ろで道具をいじっているバッグの言葉に、アタシは頷いた。
「まずは注意点について……ユアちゃん、覚えてる?」
「ああ、強固な装甲と、長い体で回り込まれることで逃げ場を封じられることだろ?」
装甲については、関節部分を狙えばいい。関節まで硬いと動けないから、装甲よりも耐久度は低いはずだ。危険なのは逃げ場を封じ込まれること……
そこでバッグが考えたのは、予め設置する
「ただ、見え見えのトラップはもちろん怪しい場所には近づかない習性を持っているんだよね。だからユアちゃんにはそのトラップまで引きつける囮役を頼んだけど……大丈夫?」
「へへっ、任せとけって!」
アタシは胸を叩く。
動きを予測できる
「そして万が一ユアちゃんがピンチになったら……シャヴァルドくんがすぐに助けてくれる手筈になっている。それまでは周囲の偵察を頼んでるよ」
今、シャヴァルドはバスの屋根に乗って一緒に移動している。
飛行能力を持つシャヴァルドなら空から偵察できるし、大蛇型兵器にアタシが囲まれた時に上空から救出してもらえそうだな。
「んで、バッグはトラップの設置や作動だよな?」
「ああ、最善は尽くすよ……おっと」
その時、キャンピングカーが動き出した。
窓の外を確認すると、大蛇型兵器の姿はなくなっていた。
「くれぐれも油断しないように。今日みたいに想定外な出来事があるのが冒険機の依頼だからね……」
アタシは装備しているショートソードとバッグラーを見て、これから待ち受ける討伐へ意識を向けた。
やがてキャンピングカーは、大きな湖の前で止まる。
シャヴァルドもキャンピングカーの屋根から木の枝へと飛び移るのを見て、アタシとバッグも降りて湖付近の茂みへ向かう。
「おっと、向こうも顔を出してきたみたいやで」
バッグがトラップの設置を進めている中、聞こえてきたデリボクの声に湖の反対側を見てみた。
大蛇型兵器が森から顔を出している。辺りをキョロキョロと見渡せば、湖に顔を沈める。冷却水の補給を行っているんだ。
「……よし、設置完了。それじゃあユアちゃん、シャヴァルドくん、頼んだよ」
「おうっ!」「……うん」
アタシはシャヴァルドと共に答えて、大蛇型兵器の側まで向かう。
茂みをかき分け進みながら、大蛇型兵器から目を離さない。もしもこちらの存在に気づかれたりしたらすぐに逃げるか隠れるようにしないといけないからな……
「シャヴァルド、頼んだぜ」
ある程度近づいたら、木の上から大蛇型兵器を見張ってるシャヴァルドへ声をかける。
足元にあった石ころを拾う。
ちょうどそのころ、大蛇型兵器が湖から顔を出す。再び辺りを見渡し始めた大蛇型兵器の――その頬に、狙いを定める。
電子頭脳に、マスターとキャッチボールをして遊んだころの映像が横切る。
石ころを握った右手を左手とともに天へ掲げ、
左足を上げ、右手を投げ下ろし――ッッ!
アタシの右手から飛び出した石ころは、木の間を通り抜けて――!
大蛇型兵器の頬へ……ッ!!
ガキンッ!
「!!!」
石ころは大蛇型兵器の頬に傷ひとつ付けずに跳ねて湖へと落ちたけど、これでいい!
こちらへと振り向いたその
「――sssssSSSSYYYYYYYYYYYAAAAAAAAAAAAAAAAAッッッッッッ!!!!」
後ろを振り向き追いかけてくる大蛇型兵器の動きを確認するのは一瞬だけ。躓いて転けるだけでも危険なこの状況、前を見ずに走るわけにはいかないッ!!
スピードはわずかにあちらが上!
だからアタシはまっすぐ進まず、木と木の間の狭い場所へッ!
対する大蛇型兵器はその巨体で、迂回する必要があるッ! これで距離を稼いでいくぜッ!!
「ッ!」
大蛇型兵器が、アタシと離れて横を並走している……ッ!
アタシを取り囲むつもりだッ!!
「シャヴァルドッ!!」
アタシが叫んだころには、前方は大蛇型兵器の胴体によって防がれているッ!
大蛇型兵器はあっという間にアタシを取り囲み、上空から牙を輝かせる……ッ!!
瞬間ッ!
アタシのパーカーを、シャヴァルドの手が掴む。
そのままアタシはシャヴァルドとともに、空へと逃れるッ!
大蛇型兵器は、渦巻上に丸まったままアタシたちを見つめている。
それを尻目にシャヴァルドは、大蛇型兵器の向こう側へアタシを投擲する――!
すぐに受け身を取り着地ッ! 勢いを殺さず駆け出すッ!
牙を見せて迫る大蛇型兵器を、引きつければ――ッ!!
「ZYAAAAAAッッッッ!!?」
バリバリバリと電流の音が走る!
振り向けば、大蛇型兵器が落とし穴へと落ち、流れる電流にもだえ苦しんでいた。
「ふたりとも、まだ油断しないでね」
落とし穴から離れた場所に止まるキャンピングカー。
その側で落とし穴から伸びる紐を引っ張っていたバッグが、アタシたちに声をかけた。
「……あとはトドメを刺すだけだな?」
「ユアちゃん、頼んだで」
離れた場所でキャンピングカーから顔を出すデリボクに頷くと、アタシはショートソードを構えた。その剣先を、落とし穴の中でフリーズしている大蛇型兵器へと狙いを定める。
今、大蛇型兵器は電流を流されてフリーズしているだけ。
バッグはキャンピングカーの周辺を、シャヴァルドは木の上から周辺を見張ってくれている。コイツが再起動したり、邪魔が入る前にトドメを刺さねぇと……
「「ッ!」」
その時、バッグとシャヴァルドが一斉に同じ方向へ向いた……!
バッグがアタシに振り返って、声をかけてくる……!
「ユアちゃん、誰か来てる!! あれはひとおがああたあ あ あ あ あ あ あ だ ……?」
……!?
バッグの動きが突然、ぎこちなくなった。
「か あ あ ぜ が あ ……? い っ た あ あ あ い な あ あ あ あ あ に い い い が あ あ あ あ ……?」
振り向く途中から、ゆっくりになっている……再生されるその声も、まるでビデオのスローモーションのように、遅い……
バッグ、どうしたんだ?