バッグを追いかけてコテージへと入ると、アトリエへ続く扉から誰か出てきた。
「……おまえも、デリボクの雇った冒険機か?」
四角い頭の人型AIが、その1つ目の
「お、おう。アタシはユアって言う――」
「ふん」
生産者はアタシの挨拶を最後まで聞かずに、ガレージへの扉へと向かって行った。その際、バッグの首元にある人間教のペンダントを睨むように見ていた気がする……
「……結構、気むずかしいタイプなのか?」
「まあそうだね……特におじさんはあまり好かれてないみたいだ」
バッグはため息をついてるけど、あの生産者となにかあったのかな……
そういえば確かデリボクが、生産者は人間教を嫌ってるって言ってたっけ。バッグのペンダントを見たからか……それか自分のアトリエを勝手に使われて怒ってるのかな。
まあとりあえず
「あ、そうそう、名前だけは聞けたよ。彼は“クレイドル”って名前で――」
「 このばかものがああああああッッッッ!!! 」
「「!!!?」」
突然の大声が、アタシの電子頭脳で音割れデータとして届けられた。
「ガ……ガレージの方から??」
「い、いってみようぜ」
アタシたちはガレージへと続く扉を開け――
「 いちいち気にせんでもええやろおおおおッッッッ!!! 」
今度はデリボクの大声が響いてきた!!
ガレージを見れば、キャンピングカーの前でデリボクと生産者ことクレイドルが言い争いをしていた。
「 傷がついて気にしないバカがどこにいるッ! 」
「 ワイじゃなくて車に傷がついただけやろッ!! 」
「 この車はおまえと一緒に創ったものッ! おまえの半身のようなものだッ!! 」
……横からそーっと覗いてみると、なるほどたしかにキャンピングカーの前面にかすり傷があった。クレイドルを助けようと追いかけてる時、装甲車の機関銃からの射撃を回避するときに出来た傷かな。
どんどんヒートアップしていくふたりの横で、バッグは「んんっ」と咳払いの声を再生する。
「とりあえず、依頼について話がしたいんだけど」
「あ、すまん……バッグはん」「……」
素直に謝るデリボクに対して、クレイドルは再びバッグを睨んでいた。
改めてバッグはクレイドルと握手し、掌の接触通信でデータを送信した。バッグいわく、人間教からの依頼のデータらしい。
ここで一旦振り返っておくか。人間教のスティンキィは生産者であるクレイドルに、タバナクルの守衛となるAIの開発を依頼した。それに必要な素材をデリボクが運ぶことになり、アタシとバッグ、デリボクが護衛を引き受けたんだよな。
「……足りんな」
キャンピングカーの荷台から取り出された素材を見て、クレイドルは首を振った。
「え!? でもスティンキィさんはちゃんと数揃えてくれたし、ワイも出発前に数えたで?」
「数の問題ではない。この材質……人間教の奴らがこれでいいと判断したんだろう。だが、この機材では前の守衛の二の舞だ」
デリボクが驚きの声を上げると、クレイドルはそっと素材を撫でながら説明してくれた。
……たしか、AIの開発を依頼したきっかけは、前の守衛が機能停止したからだっけ。
「機能停止したAIを見殺しにするような奴らとは違い、ワシは使い捨ての機械を創るつもりはない。創るのなら……素材の追加をしてもらうぞ」
思わずアタシは、首をかしげた。
要するにこの素材の材質だと耐久性に難があるってことかな……
「一旦タバナクルに戻って人間教と足りない素材を交渉するのか?」
「いや、ワシが冒険機に依頼して素材を調達する。奴らの素材なんて当てにならないからな」
するとデリボクがアタシの足元へやって来てちょんちょんとつつく。
「あんな態度やけど、じっちゃんは素材を追加するときは自腹で払うんやで」
「え、勝手にしてもいいのか? 迷惑にならない??」
心配になって尋ねると、「心配は無用や!」とデリボクは胸を張る。
「こういうのは日常茶飯事やから、じっちゃんへの依頼の時はワイが勝手に素材を追加することを予め忠告してるんや。もちろん、スティンキィさんも了承してくれたで!」
「デリボクがちゃんと支えてるってわけか……えらいなあ!!」
「!!!」
思わずアタシはデリボクの頭を撫でると、なぜかデリボクはフリーズした。デリボクって撫でられるの……慣れてない??
「……で? どうする。おまえさんらが依頼を受けないのならデリボクに適当な冒険機を雇わせるぞ。おまえみたいな人間教の冒険機よりは腕が立ちそうだしな」
「……!」
クレイドルの言葉に反応するようにバッグは顔を上げ、近づいてクレイドルと掌の接触通信を行った。
必要な素材の回収……追加の依頼を、アタシたちが受けることにしたんだ。
その後、アタシたちはコテージの2階にある寝室を借りることになった。
「寝室は来客用に3部屋ほどあるんや。とりあえずその内のひとつに入って今後のこと考えようや」
「……」
上機嫌に階段を上がっていくデリボクの後ろをついているとふと隣を歩くバッグが悩んでいるように感じた。
「バッグ、どうしたんだ?」
「ああ、いやまあ……“おまえのような人間教の冒険機”なんて言われてつい退けなくなっちゃったけど、よく考えたらおじさん人間教じゃないしなぁ……って。アーモリーのこともあって危険だってわかってたのに、どうして引き受けちゃったかな」
自嘲気味に話すバッグに対して、「あー」とデリボクが申し訳ないような声を漏らす。
「じっちゃんがあんな感じなのは本当に堪忍してや。人間教がAIのバックアップから
人間教は疑似人格のバックアップを移植して再起動させることを人間の生き方から逸脱するとして認めていない。やっぱり、それに不満を持つAIもいるよな。
そう考えると、クレイドルって自身の考え方なりに自分が創ったAIのこと心配しているんだよな。説明が足りなかったり、人間教を嫌っていりしていたけど……“使い捨ての機械を創るつもりはない”って言ってたし。
そんなことを考える内に、アタシたちは寝室の中へと入った。
「しかし、ホントにここにいて大丈夫なのか? またアーモリーが突撃してくるかも知れないんじゃ……」
窓際の椅子に腰掛けながらアタシが尋ねると、「それなんやけどな」とベッドに腰掛けたデリボクが答える。
「このコテージには
窓を見てみると……コテージを囲む金網に、たしかに機関銃が設置されていた。きっとこの辺をうろつくAI兵器が侵入してこないようにするためなのかな。
「兵器は自分より強い武装を感知すると寄ってこなくなるからね。幸いこの辺りの兵器もそこまでじゃないし……むしろこのコテージから出ることがリスクになるね」
暗くなり始めた窓の外を見て語るバッグに、アタシは頷く。
この時間帯に移動すればアーモリーに待ち伏せされる可能性があるし、兵器に襲われた時も暗さで対応できない。少なくとも今日はここに泊まった方が安全だな。
「さて、そろそろ明日の依頼について話しておこう。シャヴァルドくんも呼ばないとね」
バッグが窓をコンコンと叩くと……
ひょこっ
「……」
「わあ、びっくりした」
窓の外にシャヴァルドの顔が逆さ向きに現われ、アタシはちょっと棒読み感のある声を出した。
もしかして屋根の端でコウモリのように逆さまになってるのか?
「それで、素材ってどこで手に入れるんだ?」
アタシが尋ねると、バッグはデリボクとうなずき合い、語り始めた。
「