「そうそう、
「お、食っていいのか?」
デリボクの生産者が住む場所までキャンピングカーで移動中、デリボクの言葉にアタシは車内に取り付けられた冷蔵庫を見た。
その隣にはキッチンが取り付けられている。キャンピングカーというだけあって、この1台をテント代わりにキャンプもできそうだな。
開いてみると、中にはコンビニで買ってきたと思われるサンドイッチが置かれていた。
「……保存食、こちらが用意する必要なかったね」
「取っておいて今度食えばいいだろ? 早く食おうぜ!」
包装紙を剥いて口に入れると、シャキっとしたレタスともっちりチーズの食感が、歯に埋め込まれた食感センサー越しに伝わってくる。
こういった食事に関するセンサーは人間に似たような反応を疑似人格で再現するために取り付けられたものだけど……それでもウマイって感じるのは間違いないよな!
サンドイッチをほおばりながらソファーに腰掛けて窓に目を向ける。
外に広がる草原を見れば、遠くに四足歩行の兵器が見えた。あの形は……ネズミ型兵器か?
どこにもいるんだなぁ……と思ったら、急に木が多くなってきた。
どうやら山道に入ったらしい。窓の外はあっという間に木で埋め尽くされた。
「それにしても珍しいね…
それからしばらくして、ふと車内に視線を戻すと、バッグがデリボクに尋ねてきた。
たしかに、普通は兵器に襲われる危険性がある外よりも壁に守られた街の中の方が安全だよな。
「まあ、ワイを創ってくれたじっちゃん、人間教嫌ってたからなあ。ワイは別にどっちでもいいけど。ところでバッグはんの言ってたキャンティ……さんは?」
途中でキャンティの名前が大司教であるスティンキィの口から出たことを思い出したのか、言い直すデリボクに対して、バッグは気にしないでと手を振った。
「彼女は各地を転々としていたからね。街の誰かの工房を借りる時もあれば、廃虚の中で作業することもあったよ」
あ、そうだったんだ。
だからアタシは街の外のシェルターで修理されて再起動したわけなんだな。
「まあ街の外で住居を構えているAIもいろいろってことやな……ッ!?」
ふと、デリボクが息を呑むような声を再生した。
前方の窓を見てみると、前方と右側の分かれ道が見える。そこへ右側の道から現れた車が、前方の方へと移動していくのが見えた。
その車は機関銃が搭載されていて、シルエットもゴツい……装甲車ってやつかな。
後ろには、大の字をした人……よく見れば、銃を並べて人の形を作っているデザインのマークが刻まれていた……
「! あれは……アーモリーの国旗だ!!」
「まさか!?」「ッッッ!!」
バッグが叫ぶと、デリボクは装甲車が出てきた右側の道へキャンピングカーを走らせた。
この右側の道が、デリボクの生産者がいる小屋への道だとしたら……
その道から、AI攫いの疑いがあるアーモリーの装甲車が出てきたということは……!!
岩壁に囲まれた山道を、キャンピングカーはただ走る。
小屋へとたどり着くまでは、そう時間はかからなかった。
「じっちゃん!!」
山の中腹の開けたスペースに立つ、金網に囲まれたコテージ。
デリボクはキャンピングカーから飛び出すと、金網の扉を開けて中へ入っていき……すぐに戻ってきた。
「じっちゃんがいないッ! 修理道具も出しっ放しで……じっちゃんはちゃんと道具を元の場所に戻すはずなんや!!」
「ってことはさっきの装甲車は!!」「確定……だね」
でも、今から追いかけて間に合うのか……??
そう思っていると、デリボクが運転席に飛び乗りキャンピングカーのエンジンをかけた。
「ふたりとも、しっかり捕まるんや!!」
ッ!!
瞬間! キャンピングカーは急発進し、来た道を下っていく……!!
「お、おい! デリボク!! スピード緩めろおッ!!」
前方を見て、アタシは思わず声を出す。
キャンピングカーは、目の前のカーブに向かってアクセル全開で突き進んでいる! このままじゃあ岩壁へ激突しちまうッ!!
「運び屋を舐めたらアカンでェッ!!」
デリボクはそれでもブレーキをかけることなく、接続している尻尾のコードでキャンピングカーを操り右へと曲がるッ!
ギギギギィーッ!
タイヤの摩擦音が鳴り響き、アタシとバッグの体は左方向へと傾く!
キャンピングカーはドリフトを決めカーブを曲りきったッ!
その後もスピードを緩めることなく、デリボクが巧みな操縦を見せていく!
右へ、左へ……その度にアタシとバッグは揺れる。座席の手すりを掴む手を離せば車内の壁に打ち付けられそうだ……!!
「! すごいッ……追いつくよ!!」
バッグの声に前方の窓を見れば、アーモリーの装甲車が見えてきた!
「このまま追いついて見せるでぇーーーッッ!!」
デリボクはさらにアクセル全開でスピードを上げ、装甲車に迫るッ……!!
「ッ!!」
突然、装甲車から銃口が現れた……その瞬間ッ!
それに合わせて、キャンピングカーも左右へとよけることで被弾は免れた……だけどッ!
「こ、これじゃあ近づけへんで!!」
距離が近づけば近づくほど、相手から見た
どうすることもできない。
そうとわかっていながらも、アタシはバッグにすがるように叫ぶ。
「バッグ、どうするんだ!? このままじゃあ、連れ去られちま……う……?」
だけど、バッグは慌てた素振りを見せていなかった。
むしろ……この状況を好都合と言わんばかりに、うなずいた。
「もういいだろう!? “シャヴァルド”……出番だッ!」
バッグが上に向かって叫ぶ。
すると、天井からなにかの足音が聞こえたかと思うと……目の前のフロントガラスに、人影が落ちるッ!
しかしその人影は地面にもキャンピングカーにも激突することなく、手から蒸気を放出し空へと駆け上がった!!
「あれってジェット噴射……ッ!!」
その後ろ姿は、見覚えがある……!
その“マゼンダ色の髪”は、見覚えがあるッ!!
マゼンダ髪の人影は、迫る銃弾の突風を上空へとかわし……装甲車の上空まで陣取れば、右手を下へ伸ばす!
その右手に割れ目が生じたかと思えば、展開されていき……!
現れたのは……銃身。
まるでライフルの銃身がそのまま腕から生えてきたようなそれを、装甲車に向け……!!
ダアンッ!!
1発の銃声が響くと、装甲車はバランスを失ったかのように左右へ蛇行し……!
カーブを曲りきれず、岩壁に激突したッッッ!!
急停止した装甲車の元へ、キャンピングカーも停車する。
「わが同胞の……英知を……!!」
装甲車の扉が開き、中から運転手と思われる人型AIが現れる。
「なめるな……Dbyaッ!!?」
アタシはキャンピングカーの窓から勢いよく飛び出し、ソイツの頬を
その衝撃で装甲車の運転手は車体に頭をぶつけ、そのまま動かなくなった。
「……ッ!」
フリーズした運転手を眺めていたアタシだったけど、視線を感じ顔を上げる。
岩壁の上に生える木の上に、マゼンダ髪の人影が立っていた。
10歳ぐらいの体形で、機械向きだしのボディ。
その上に羽織られた、鳥を思わせる茶色のマント。
人工皮膚の頭部の口元をそのマントで隠し、
腰まで伸びるマゼンダ色のボリュームある髪は、歌舞伎の獅子の頭を思わせる。
昨日、冒険機宿で目撃した時と変わらない姿。
あの時と同じように、高所からその
「あ、ユアちゃん紹介するね。彼はシャヴァルド。昨日言っていた冒険機志望の子だよ」
「3人目だったのッ!!?」
思わず人影とバッグを交互に見る。
バッグは何事もなかったかのように紹介してるけど、アタシが警戒してたのはなんだったの!?
そんなアタシに向かってマゼンダ髪の人影……“シャヴァルド”は、無表情のままV字ピースマークを見せていた。