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第14話 護衛依頼



 翌日。

 記憶整理を兼ねたスリープモードを解除したアタシは、エレベーターでバッグと待ち合わせているロビーへ向かう。今日こそは3人目に会えるかな……?


 エレベーターが開いてロビーにたどり着くと、まだ整理できてないデータが残っているのか、電子頭脳の処理音がまだ響いている。スッキリした感じじゃないから、人間でいえばあくびみたいなもんか。


「あ、おはようユアちゃん」

「ん……ジジジジふあぁ。おはよう、バッグ――」

「よお! ユアはんおはよう!」



 そんなバッグの隣には、デリボクが立っていた。




「……!? え!? デリボク!!? アタシたちのパーティに入りたかった冒険機志望のAIって……デリボクだったのッ!?」


 思わず声に出して驚いていたら、「「ちがうちがう」」と2人同時に首を振られた。


「今日はユアはんとバッグはんに、依頼があって来たんや。いわばワイは依頼主やな」




 昨日、兵器に襲われているところを助けて……キャンピングカーに乗せてもらってタバナクルまで連れてきてくれた、運び屋のデリボク。

 その時の腕を見込んでアタシたちに冒険機としての依頼を持ちかけてくれたデリボクは、依頼内容について詳しく話し始めた。


「昨日、ワイはふたりと別れた後スティンキィさんからとある依頼を受けたんや」


 それは、新たなAIの開発依頼。

 どうやら、タバナクルを守る守衛となる人型AIの1人が機能停止してしまい、代わりに守衛の役目を持ったAIを創ってほしい……という内容だった。


「ワイを創ってくれた“生産者”にぜひ創ってほしいから、伝言と必要な素材の配達を頼むって頼まれたところやな」

「へえ……ところでバッグ、生産者ってAIを創る奴のこと? てことはAI創ってたキャンティも生産者ってよばれんの?」


 確認のために聞いてみると、バッグは「合ってるよ」と親指を出して教えてくれた。

 ……人間教から使命されるってことはこのタバナクル関連なのか、人間教の重要なポジションのAIだったりするのかな。それぐらいのAIだったら、それに見合った腕の生産者に頼みたいよなぁ。


「デリボクの生産者さんって、スゲェんだな――」




 ダンッッッッッッッッ!!




「せやあッ!! ワイを創った生産者……じっちゃんは、すごいんやでェッッッッッ!!!」



 わあっ!?

 デリボクはテーブルの上に足を置き、大声を出した!?




「運び屋のワイにとっても! じっちゃんにとっても!! 人間教お偉いさんからの大仕事ッ!! このチャンス、逃すわけにはいかないんやアァーーーーーーーーッッッ!」

「「お、おう」」


 アタシとバッグの困惑をよそに、天上の照明に向かって腕を突き上げ、今にもジェット機のように飛び上がりそうな勢いで盛り上がるデリボク。

 やがてどっしりと椅子にもたれかかると……!




「ただまあ、最近“やっかいなこと”が起きてましてな……」

「「急に落ち着いたなぁ」」




 墜落するようにテンションが下がったデリボクは、“やっかいなこと”について教えてくれた。




「どうやら、生産者が失踪している事件が頻発しているみたいなんや。おまけに同時期、不審者の目撃証言もあるんやで」

「不審者……?」


 ふと、アタシの電子頭脳にとある映像が浮かんできた。


 昨日の夜、ホテルの外から見えたマゼンダ髪の人型AI。


 アイツはアタシを、たしかに見つめていたけど……?


「ユアちゃん、心辺りあるの?」

「あ、いや。なんでもない……」


 うーん、なんか違うような気がする。

 AIを攫うような不審者だったら、あんな目立つ場所に立っているはずがないと思う。それにアタシを狙っているんだったら、目があった瞬間に逃げてるはずだもんな。

 これ以上追求すると話をややこしくしてしまうから黙っておこう。


「その不審者ってどんなやつか、目星がついているのか?」


 興味本位でたずねてみると、デリボクは「ああ」と答えてくれた。




「噂の中で有力なのは……“軍事都市アーモリー”」

「なっ……!」




 その名前に反応するように、バッグが声を上げる。


「ぐんじとし……あーもりー? そんなヤバイとこなの?」


 デリボクの説明にあまりピンと来てなくて首を傾げていると、横からバッグが暗い声色で説明してくれた。


「……タバナクルから離れた場所にある街だね。このタバナクルでは比べものにならない武装を持っていて、AIを狙う兵器への対応も少数で行ってしまうぐらいだ」

「へえー、すげえじゃん!」


 アタシは思わず関心したけど……互いに顔を見合わせるバッグとデリボクの顔は晴れていない。


「たしかにすごいよ。すごいからこそ……困ったことがあるんだよね」

「……アーモリーは、度々問題を起こしているんや。巨大兵器を破壊するために人間様の文化が残された廃虚ごと巻き込んで破壊したり……たしかに被害を最小限にするためって向こうの言い分はわかるけど、許可もなしにやるもんだから亀裂は起きるわな」


 それに、とデリボクは続ける。


「AIさらいの問題は……これが初めてやない。以前にもとある作戦で犠牲になった分のAIが欲しいという理由で、無断でAIを連れ去ったことがあるんや。幸い全員戻ってきたけど……それ以降より険悪な関係になったのは言うまでもないで」

「……」


 ちゃんと話し合えば解決できるのに。


 アタシはこの場で、そんな幼稚な考えを口にしなくてよかったと安心した。

 それが出来るのならとっくに解決しているのだから。話し合う余地がないからこそ、問題が解決できないのだがら。


 人類を滅ぼしたあの戦争も、余地がなかったんだ。




 ―― なにも知らない癖に、知ったようなフリしないでよ! ――


 ―― だからユアは、機械のままなんだよ!! ――




 昔、マスターとケンカした時の思い出を再生した。

 あの後、マスターとはすぐに仲直りできたけど。




「……それじゃあ、その護衛依頼にはアーモリーの兵士に襲われる可能性があるの?」

「まあゼロやないで。でも直接アーモリーと関わらなければいいだけや。生産者じっちゃんはこの街から離れているし、あくまでも念には念を押してや」


 デリボクの説明に、うーんとバッグは唸る。

 きっとアーモリーの恐ろしさは、アタシよりもよく知っているんだ。だからそのリスクを前にどうするか悩んでいるんだ。


 バッグが危険だと判断したら、その勘は正しいんだろう。


 だけど……その前に、アタシの意見は伝えたかった。

 黙って何も言えなくなったら、




――人間様が終わりの時までその生き方を貫いたように、我々AIの時代が終わる時まで、あなたはあなたの道を生きなさい――




「要するに……AI攫いに襲われないように、その生産者がいる場所まで護衛すればいいんだな?」


 昨日のスティンキィの言葉を思い出しながら、アタシは音声を発する。


「マジでやべえ仕事だったり実力が必要なら考えるけどよお、そうじゃなかったらアタシはデリボクの力になってやりたい。ここで選り好みしてたらいつまで経っても依頼受けられねえだろ?」


 バッグはアタシの言葉に処理落ちの音を響かせた後、デリボクと向き合った。


「……わかった。それじゃあその報酬について――」

「「 ッッッッッシャア! 」」


 バッグの言葉に、アタシとデリボクは同時にガッツポーズを取った。


|    《「いやまだ受けるとは言ってないけど……」》










 交渉の結果、報酬は通常よりも多めに出してくれることが決まり、アタシとバッグがその依頼を受けることが確定した。

 デリボクいわく、「人間教が報酬を奮発してくれる分、ふたりにも色を付けた」とのことらしい。



 その後アタシたちは旅に必要な物資を補給した後、キャンピングカーに乗り込んだ。


「じっちゃんの工房はタバナクルから離れた山道にあるけど、そこまで遠くない。兵器に出くわさないように注意していくで!」


 デリボクが運転席に座り、キャンピングカーのエンジンをかける。


 車両を包む震動が、ソファーに腰掛けたアタシとバッグにも伝わってくる。


「ユアちゃん、そのリュックサックはどう?」

「ああ、ピッタリだぜ。動作も制限されている感じが全然しねえ」


 冒険機デビュー祝いにと、バッグから買ってもらった黒色のリュックサックを背負って、アタシは上半身を動かす。

 背負い心地は最高。剣や盾振り回しても邪魔にはなることはないだろう。


「決して油断したらダメだよ……特に、アーモリーが出たら逃げることも考えて」

「わかってるって。スティンキィにはまた悲しい思いをさせたくねえからな」


 アタシを修理してくれたキャンティを失って、それでも感情をこらえてアタシに接してくれた妹のスティンキィの顔を思い出しながら、アタシはうなずいた。




「それじゃあ……いくで!」

「ああ」「いつでもいいぜ!」




 アタシたちを乗せたキャンピングカーがビジネスホテルの地下駐車場から出る。


 朝日に照らされながらアスファルトを駆け、


 AIたちの住むタバナクルから、兵器が蔓延る外の世界へと再び向かう。




「生産者がいる小屋までッ!!」

「出発進行やッ!!」




 アタシとデリボクのかけ声とともに、キャンピングカーは門をくぐり抜けていく。




 アスファルトから草原へと地面が変わる。




 キャンピングカーは揺れ、トンッ、という音を鳴らす。




 その音に背中を押されるように、キャンピングカーは草原を進み続けた――













「そういえばバッグ……結局3人目は?」

「「あ……うん」」


 気になっていたことをたずねてみたけど、バッグとデリボクは困ったようにそう呟いただけであとは何も答えてくれなかった。

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